M-1ルール改定、新設された「地方漫才師」賞は優勝に匹敵する最高の栄誉
#M-1 #檜山豊
2023年に新しい賞レースが始まった。それは芸歴16年以上のベテラン漫才師が競い合う「THE SECOND~漫才トーナメント」だ。この賞レースが登場したおかげで、15年以内の芸人は「M-1グランプリ」、16年以上は「THE SECOND~漫才トーナメント」という具合で現在活動している全ての漫才師へチャンスが訪れるようになった。
しかしこの2つは似て非なる大会で、求めている芸人像が明らかに違っている。「THE SECOND」は芸人のバックボーンを感じつつ、ネタを通して熟練された芸人の根底の面白さを楽しむもの。対して「M-1グランプリ」は青田買いの要素を取り入れつつ、純粋なネタの面白さや勢いを楽しむものだ。なので「M-1グランプリ」の方が良い意味で青臭く、若手芸人ならではのギラつきや、剥き出しの闘争心を見ることが出来て、演芸というよりはスポーツを見ているような感覚に陥り、まるで漫才の甲子園といったところだろう。
そんな漫才師の青春が垣間見える「M-1グランプリ」が、今年も開幕したのだ。今月の27日に東京・ヨシモト∞ホールで「M-1グランプリ 2023」の開催記者会見が行われた。司会は麒麟の川島明さんとABCの斎藤真美アナウンサーが担当。会場には昨年の王者「ウエストランド」さんを筆頭に、「オズワルド」さん、「キュウ」さん、「ダイヤモンド」さん、「ヨネダ2000」さん、「ロングコートダディ」さんという前回大会のファイナリスト、そしてキングオブコント覇者「ビスケットブラザーズ」さん、さらに今年でラストイヤーになる「ななまがり」さん、「ママタルト」さん、「シンクロニシティ」さんなどが登場し、今大会へ参加するコンビは意気込みを述べた。
その会見においてエントリー数の大幅な増加を受けて、大会のルールが3点変更されることが発表された。
1つ目は「シード権」について。昨年までは1回戦のシードが前回大会の「準決勝進出組」に与えられていたが、今年からは「準々決勝進出組」にも与えられるようになったのだ。会見では川島さんが「ひとつネタを消費しなくて済むといったところでしょうか?」と説明していたが、実際のところは、各コンビのネタのクオリティが高くなってきており、準々決勝へ進出したコンビが1回戦で落ちることはないということで、わざわざネタを見るまでもなく、審査員たちの手間を省くといったところだろう。
2つ目は「1回戦のネタ時間短縮」。今までは2分15秒で警告音がなり、2分30秒で強制退場というルールだったが、今年は2分05秒で警告音、そして2分15秒で強制退場となるそうだ。「1回戦の2分というネタ尺における1秒の重みの違いから改訂した」とのことだが、これが6分ネタが5分になるとかだったら相当な変化だが、05秒だろうが15秒だろうが2分のネタならそこまで大差はない。なので1秒の重みを鑑みたようだが、当の漫才師たちにはそこまで影響のないルール改定だろう。ただすでに2分15秒でネタを作っていたとしたら、多少面倒なルール改定である。
そして3つ目は「各賞の追加」である。2016年からアマチュア漫才師を応援する目的として新設された、1回戦でMCが印象に残ったと判断したアマチュアに贈る「ナイスアマチュア賞」、予選を通じてアマチュアの中で最も高い得点を獲得したものに贈られる「ベストアマチュア賞」に加えて、「キッズ漫才師」「地方漫才師」などを表彰する賞も新設予定と明かされたのだ。これに対しキッズ漫才師の定義と、地方漫才師を区別することへの異論の声があがってしまったのだ。
会見に出席していたオズワルドの伊藤さんは「地方漫才師に対する侮辱だから。お前らはストレートで来ないだろって」と冗談交じりのツッコミを入れ、前年度の王者ウエストランドの井口さんは「どこまでを地方とするとかも。大阪は違うんでしょ?」と、井口さんらしい切り口のツッコミを入れた。さらに司会の川島さんも「これは燃えそうな匂いがしますね」と、賞の内容に対してあまり良い反応を見せておらず、この賞の追加には疑問の声が多そうだ。
しかし僕は、この賞、特に地方漫才師へ対する賞が追加されることは、芸人にとってのチャンスが増えるので良い事なのではと思ってしまう。確かに地方の漫才師を区別することにより、地方の漫才師は端から優勝しないと言われているようで、侮辱に捉えられてしまうところもあるが、逆に地方には地方のコミュニティがあって、わざわざ東京や大阪で活躍しなくても十分に仕事はあるし、なんだったら普通のサラリーマンより稼ぐことが出来る。
全国区のテレビ出演を目指して売れない芸人生活を続けるより、地方局で活躍している方が何倍も芸人として幸せで、何倍もチヤホヤされるのだ。そんな地方で活動している芸人にとって、この「地方漫才師」への賞は優勝に匹敵する賞であり、自分たちのバリューを高めてくれる最高の賞なのだ。
地方漫才師を侮辱しているという考え方は、現在成功している芸人さんたちの考え方であり、地方をチャンスとして見ていない証拠だ。いま東京や大阪で芸人をしているが、にっちもさっちもいっていない、いわゆる売れていない芸人たちは直ちに地方へ移住した方が良い。そして地方から「M-1グランプリ」へ出場し、この賞を目指す。「優勝」よりハードルが低い「地方漫才師」賞を手に入れることが出来れば、地方での地位が確立され、地方芸人として安泰だ。
東京や大阪で信じられないような重圧の中、死にもの狂いで芸人を続けるより、地方で顔を差されながら、ストレスを感じない程度の適度な仕事をこなし、生活するには十分な稼ぎを手に入れ、しかも「地方漫才師」の賞を手に入れたことにより、たまにお呼ばれして東京や大阪で仕事をする。芸人としてのプライドもそれなりに保たれ、最高じゃないか。
テレビにこだわらないタレントさんが増える今のお笑い界、東京や大阪にこだわる理由もない。地方にいて地方で活躍するのは、今の時代にマッチした芸人の働き方だと言える。
しかもこの「地方漫才師」への賞は、間違いなくその漫才師が住んでいる地方を元気にすることが出来る材料であり、地方自体の活性化も可能だ。そんなところまで考え抜いて追加された賞だとしたら、この賞を考えた人は本当に凄い人で、ぜひ追加するべき賞である。
常に進化し続け、先見の明を具現化してきた「M-1グランプリ」らしい、時代を見据えた賞の追加は、本当に天晴だ。これが、ただの考えすぎでないことを願って、年末の決勝戦を今から楽しみに待つことにしよう。早く来ないかな~12月。
M-1のために一本のネタを磨くことが“地獄”な理由
南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭の半生を描くドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)第7話では、南海キャンディーズのブレークのきっかけとなった『M...サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事