山田杏奈、森山未來が“山人”を演じた『山女』 日本人のアイデンティティに迫る異色作
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不可視化されてしまっている現代社会
村で暮らす凛たちは質素な和服姿だが、時代劇という雰囲気はあまり感じさせない。先祖の犯した罪を背負う凛たち一家が差別され、凛自身も家長である父親に逆らうことができない。これまでの慣習に囚われ、女性や子どもが社会的弱者として虐げられている構図は、今の日本社会とさほど違わないだろう。
福永「今、映画を撮るからには、現実の社会になるべくリンクさせようと思い、現代に通じるテーマを盛り込もうという意識がありました。僕が強く感じるのは、現代社会は不可視化された部分がとても多いということです。例えば、食事の際に口にする肉料理ですが、動物たちが屠殺され、解体され、精肉化されていく工程を普段は見ることがないわけです。人間が生きていく上での穢れ(けがれ)や業(ごう)といった必然的なものが、現代社会では切り離されている状態です。でも、起きていること自体は今も昔もそれほど変わりません。見えないところで誰かが代行しているだけなんです。現代でも差別や貧困に苦しんでいる人はいます。この映画で描かれている世界は、決してはるか昔のことでも、遠い国のできごとでもありません」
主人公・凛を演じたのは、いじめ問題を扱ったバイオレンス映画『ミスミソウ』(18)がインパクト大だった山田杏奈。福永監督は「姥捨伝説」を題材にした映画『楢山節考』(83)を観ることを山田に勧めたそうだが、山田は他にもアニャ・テイラー=ジョイが主演したサイコスリラー『ウィッチ』(15)なども観て、役づくりに努めている。
福永「海外でも同調圧力が生じるケースはもちろんありますが、日本はやはり独特な形で同調圧力が存在している社会だと感じます。それは、今も昔も変わらないでしょうね。山田さんには脚本を読んでもらい、凛はどんなキャラクターなのか、いろいろと話し合い、理解を深めてもらいました。でも、撮影現場では僕から細かい指示は出していません。もともとの山田さんが持っていたひたむきさや人柄的なものが、凛役を通して自然に出ているように感じます」
土地から感じるエネルギーを取り入れていった森山未來
村人たちから恐れられる“山男”を演じるのは森山未來。肉体労働者役だった『苦役列車』(12)、ロートルボクサー役の『アンダードッグ』(20)、チョウオーグを演じた『シン・仮面ライダー』(23)など、作品ごとに入念に役づくりする森山は、台詞をひと言も発することなく異形の存在になりきっている。
福永「山男のビジュアルをどうするかは苦心しました。妖怪ではないが、普通の人間でもない存在としてのバランスに気をつけました。撮影は主に山形で行なったんですが、森山さんはクランクイン前から山に入って、その土地から感じるエネルギーを自分の中に取り込んでいったようです。撮影中も、休憩時間になると森の中でいちばんの大木にするすると登り、木の枝の上で昼寝をしていました。スタッフみんな、唖然としていました(笑)」
山男が暮らす森の奥にある洞窟は、実際に縄文人や弥生人が暮らしていた場所だそうだ。三姉妹の女神たちの伝説が言い伝えられる早池峰山など、東北の山々や森もキャストと同じように重要なキャラクターとしてカメラに映し出されている。
福永「米国人の撮影監督ダニエル・サティノフに、撮影を頼みました。幼い頃のダニエルは、ネイティブアメリカンの昔話を読むのが大好きだったそうです。ネイティブアメリカンの伝説も、自然の中に神を見出すものが多い。『遠野物語』の世界と通じるものがあったようです。ダニエルは東北の山や森に対して、敬意を持って撮影してくれました。自然に対する深い想いがないと、ああいう映像は撮れません。撮っている人の心情は、映画の中に必ず反映されるものですから」
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