犬用の人工血液開発成功! 世界市場でも大きな期待
#ペット #鷲尾香一
中央大学を中心とした慶應義塾大学、東海大学、埼玉医科大学、東京大学の研究グループは6月14日、イヌ用人工血液(人工血漿)の開発に成功したと発表した。
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2023/06/66421/
ペットフード協会によると、日本では22年に560万世帯で705万頭超のイヌがかわれており、動物医療に対する需要は年々高まり続けている。しかし、輸血治療については、そもそもイヌやネコの献血輸血システムは確立していない。
発表文によると、血液は赤血球、白血球などの細胞成分(血球)とタンパク質、ビタミンなどが溶けた液体成分(血漿)からなり、血漿中にはタンパク質「アルブミン」が豊富に存在し、血液の浸透圧や循環血液量を維持する役割を担っている。
アルブミンは動物血漿中に最も多く存在する単純タンパク質で、血漿中にあるタンパク質の約60%を占め、血液の浸透圧維持や各種内因性・外因性物質(代謝産物や薬物など)の貯蔵運搬の役割を担っている。
人間の場合、献血で集められた血液から分離したアルブミンは製剤化され、臨床で広く使用され、肝臓の異常に伴うアルブミン産生の低下や、腎臓の異常によりアルブミン濃度が低い状態(低アルブミン血症)になった患者にアルブミン製剤を投与する。他にも、敗血症、肝硬変に伴う難治性の腹水、難治性の浮腫、重い熱傷の治療にも用いられる。
だだし、例えばイヌの場合、原料となるイヌの血液(血漿)を安定的に確保するのは困難なため、これまでイヌ用のアルブミン製剤はなかった。
そこで中央大学の研究グループは、容易に入手可能なブタのアルブミンをイヌに投与できないかを研究した。
しかし、ブタのアルブミンはイヌにとって異種タンパク質のため、抗体が産生され、再投与された際に副作用を起こす危険性がある。それを回避する方法としては、タンパク質の表面にポリエチレングリコール(PEG)という合成高分子を結合し、抗体が産生されないようにする技術がある。
ただ、PEGは生体適合性に優れた水溶性高分子だが、近年、PEGを結合した酵素を投与した患者の体内で、PEGに対する抗体(抗PEG抗体)が産生されることがわかってきた。抗PEG抗体が存在すると、投与されたPEG結合製剤は速やかに体外へ排出されてしまう。
そこで、研究グループはブタのアルブミンの表面にポリオキサゾリンという合成高分子を結合することで、「ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン」を合成、それがイヌに投与可能な人工血漿になることを明らかにした。
ポリオキサゾリンは生体適合性が高く、免疫原性を持たない非イオン性の水溶性高分子で、PEGと同等またはそれ以上の優れた特性を持っている。
さらに、慶應義塾大学、東海大学、埼玉医科大学、東京大学と共同でポリオキサゾリン結合ブタアルブミン溶液の安全性と有効性も確認した。
研究グループでは、「ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン溶液は、副作用を引き起こさない原理からネコにも投与可能な人工血漿になるものと考えられる」としている。
さらに、ポリオキサゾリン結合ブタアルブミン製剤の用途・利用分野は広く、イヌに発症するタンパク質喪失性疾患(例えば、タンパク喪失性腸症、タンパク喪失性腎症、低アルブミン血症など)、手術時の出血による急激な血圧低下などに広く使用できる。
また、ドナーからの輸血を待てない緊急時にもきわめて有効と考えられるため、これまで手立てのなかった病態の治療を可能にする画期的な発明であり、「動物医療に革命をもたらす」と期待している。
また、大量需要にも即応でき、ウイルス感染の心配もなく、長期保存可能なイヌ・ネコ用人工血漿の市場は、「全世界規模に及ぶ」と予測している。
研究成果はオンライン総合科学雑誌サイエンティフィック・リポーツ(ScientificReports)誌に6月14日に掲載された。
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