ヤバすぎて放送休止? テレ東『SIX HACK』とテレビの中の“陰謀論”
#テレビ日記 #飲用てれび
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(6月11~17日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
有田哲平「いまの時代、何が真実か見極めるのは非常に難しくなっています。明日は我が身かもしれません」
「編集次第だよね。テレビって俺たちがどうしようが、面白くしたりつまんなくしたりできるじゃないですか」
ホリケンこと堀内健(ネプチューン)は、番組プロデューサーの佐久間宣行にそう語りかけた。14日の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)での一コマだ。収録でウケたところがオンエアでは使われなかった、みたいな話はほかのタレントからもよく聞かれる。編集ですべて決まるというのは言い過ぎにしても、編集が出演者や番組自体の面白さを左右する大きな要因であることは確かなのだろう。
なお、ホリケンの場合はちょっと違った事情もあるようだ。
「ここ使われなかったか~っていうの、みんなもちろんあるじゃないですか。あそこカットされた、って。俺の場合は、あ、ここ使われちゃった~っていうのがあるんだよね。ギャグやって引きつった顔、使いやがったって思って」
さて、テレビは編集次第ということでいえば、16日の『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)が面白かった。この日はいわゆる総集編だったわけだけれど、これまで通常回でさまざまな仕掛けを施してきた同番組、総集編もただの総集編にはならない。
番組のメインキャスターを務めるくりぃむしちゅーの有田哲平(番組上の名前は「アリタ哲平」)は、会議室のようなところに呼ばれる。そこにいたのはヒコロヒー。彼女はこれまで同番組に「脱力コンプライアンス委員会」の委員役で何度も出演しており、ゲストの芸人にコンプライアンスの観点から問題がなかったかチェックする役回りを務めてきた。
もちろん(このあたりを説明するのは野暮だけど一応触れておくと)、同委員会による一連のチェックはある意味でコントだ。ヒコロヒーはコンプライアンスの審査という設定で、芸人の立ち回りに「あの場面はもっとくったツッコミがあったのではないか」などとバラエティ番組的な観点からの“ダメ出し”などをし、笑いにつなげてきた。
そんなヒコロヒーが、有田に言う。
「ちょっと、確認したいことがありまして……」
流されるのは山里亮太(南海キャンディーズ)が出演した回の映像である。今年4月から朝の帯番組『DayDay.』(日本テレビ系)の司会をやることになっていた山里は、番組からインタビューを受けていたのだが、その映像中で山里「本当は(情報番組を)絶対にやりたくない」などと言ったことになっていた。もちろんこれは巧妙な編集によるもので、関係ない発言をつなげたものだ。
そんな“捏造”は視聴者もわかった上で、その構造を楽しんでいたわけだ。が、コンプライアンス委員役のヒコロヒーは語り始める。委員会が独自に調査したところ、番組のテープ倉庫で、あるVTRを発見した。編集される前のインタビュー映像だ。それによると山里が「絶対やりたくない」のはバンジージャンプのことだった。もとの映像から改ざんされているのではないか。コンプライアンス違反があるのではないか。
次に問題になったのは久保田かずのぶ(とろサーモン)がゲストの回。その回では、久保田が俳優の永井大などと鼎談をするVTRが流れていた。ただ、この映像のなかで久保田は永井らに暴言を吐いていることになっていた。が、もちろんこれも改ざんされたもの。コンプライアンス委員会が発見した本来のVTRでは、久保田は後輩芸人とトークをしており、それがあたかも永井らと話しているように合成されたものだったのだ。
別の日に撮った映像が加工され、一緒にトークしているように捏造されているのではないか。ヒコロヒーが問い詰める。そんなことはいまのテレビの技術ではできない、仮にできたとして私たちにはそんなことをする理由がない。有田はそう反論する。攻めるヒコロヒー。反撃する有田。双方の意見は真っ向から食い違う。お互いの主張は平行線をたどり続ける。
が、いつしか映像が切り替わる。有田の反論が熱を帯びる。その目線の先には誰もいない。ヒコロヒーがさらに問い詰める。その先にも誰もいない。有田とヒコロヒーは別々に収録しており、それをつなぎあわせてあたかも対話しているように見せていたのだ。映像の“改ざん”が争われていたこの映像自体が“改ざん”されていたのだ。
最後に有田がテレビのこちらに語りかける。
「いまの時代、何が真実か見極めるのは非常に難しくなっています。明日は我が身かもしれません」
ヒコロヒーも言う。
「みなさんも改ざんや捏造にはくれぐれもお気をつけください」
テレビの「編集次第」なところを使ったさすがな仕掛け。面白かった。――が、本当に有田とヒコロヒーの収録は別々だったのか。逆に、あたかも別々に収録したかのように編集しているのではないか。テレビ越しには、その答えも最終的にはわからない。
ユースケ・サンタマリア「今夜は偉くなるためのハックをご紹介します」
テレビだからこその編集というか演出という点でいえば、『SIX HACK』(テレビ東京系)が出色だった。
同番組の設定はビジネス番組だ。メインMCはユースケ・サンタマリア。パネラー的な立ち位置で松村沙友理や国山ハセン、解説者としてSF作家の樋口恭介も出演していた。番組で紹介されていたのは「現代社会で必要不可欠な偉くなるためのハック」。会議に勝つためのハックや、SNSで勝つためのハックなどが紹介されていく。
――というような番組なのだけれど、もちろん、これはビジネス番組の設定をとった別のねらいがある番組である。バラエティ番組には含まれるのだろう。が、バラエティ番組だと言い切ってしまうのにも違和感がある。ホラーとかそういうのに近いのかもしれないけれど、そのあたりのジャンルについて私は疎いのでよくわからない。ジャンル不定の番組ではあると思う。
とにかく、6回連続で放送されるはずだったこの番組。そう、放送されるはず「だった」。
第1回(5月18日)の放送で紹介されたのは会議で勝つためのハック。番組の冒頭で司会役のユースケが語りかける。
「この世界はほんのひと握りの偉い人が、その他大勢の偉くない人を支配することで構築されています。ではここで問題。偉くなるためにはどうすればいいのか。今夜は偉くなるためのハックをご紹介します」
それを聞いた観客が一斉に拍手する。もうこの導入からすでになんだか胡散臭いわけだけれど、もちろんユースケのセリフは台本通りで、胡散臭いセミナーの司会ような役回りを演じているすぎない。が、バラエティ番組に出るときのユースケは普段からどこまで本気なのかよくわからない言動が印象的だ。そんな彼が司会を演じるものだから、虚実はより一層曖昧になる。
番組では会議に勝つためのハックとしてさまざまなものが紹介される。たとえば「それってあなたの主観ですよね」などと相手の意見を個人の意見にすぎないと決めつけ、あたかもワガママを言っているかのように印象づける技は「Only You(オンリー・ユー)」と呼ばれる。「○○とはどういうことなのか具体的に説明できますか。簡潔な言葉で」などと、曖昧な言葉の定義の説明を相手に求め、うまく答えさせないことで場を掌握する「Definition Counter(ディフィニション・カウンター)」と紹介される。
あるいは、質問者の意図をあえて曲解することで話の論点をずらし回答をはぐらかす「Rice Logic(ライス・ロジック)」。ホワイトボードに三角形を描いてその頂点を丸で囲んで適当な英語を書けば何かを言っているように錯覚する「Pyramid Power(ピラミッド・パワー)」。なんだかどこかで見聞きしたようなレトリックが、次々と解説されていく。その解説がなんだか皮肉っぽくてニヤリとする。
この調子で第2回(5月25日)の放送ではSNSで勝って偉くなるためのハックが紹介されていたのだが、なんだか不穏な雰囲気がしはじめる。いや、不穏な雰囲気は第1回からしていたのだが。そして第3回(6月1日)、集合的無意識を扱った放送でさらにその不穏さは色濃くなり、実はこの世界は「No Eyes」なる者たちにより牛耳られているのだ、私たちは目覚めなければならない、みたいな“陰謀論”めいた話も出てくる。
と、最初はビジネス系ハックを皮肉る番組に見えていたものが、放送されるたびにヤバくなり“陰謀論”に徐々にスライドしていく。ある1点を押さえれば世界のすべてが見通せる、コントロールできるとする点で、ビジネス系ハックも“陰謀論”もどちらも同じような構造をしているということか。
いずれにせよ、番組の仕掛けについて製作側から特に解説もされない。なので、見る人が見たら勘違いしてしまうかもしれない、というような先回りした心配を見る側はしてしまう。このまま放送されるとどうなるのか――という展開のなか、第4回目の放送を前に番組からアナウンスされたのは「放送休止」である。さらに、その翌週の放送も休止となった。
もしかして、その内容のヤバさゆえに全6回予定の放送が途中で差し止められたのか? そんな憶測も飛ぶなか、16日にある動画がネット配信される。動画のタイトルは「検証」。そこに映し出されたのは「SIX HACKがなぜあのようなかたちになったのかインタビューと再現ドラマを通して検証しご説明します」の文字。「なぜ極めて偏った思想の番組が放送されてしまったのか」「なぜ誰も止めることができなかったのか」が検証されていく。その内容については、これはちょっと詳しく書けない。TVerやYouTube、Paraviで公式に配信されているので、それを見ていただきたいと思う。
6月8日、6月15日の放送は休止となりましたが、配信をただいま開始いたしました。https://t.co/dPJqzMcXl2
— SIX HACK@SIXHACK_TX) June 16, 2023
おそらく、放送休止まで含めて演出だったのだろう。もちろん、この記事執筆時点(6月19日)では製作側から“種明かし”は特に何も出ていないので、本当のところはよくわからない。というか、この番組の構造上、出ている映像が説明のすべてということなのではないか。
番組が徐々に不穏さを濃くしていき、ある回を境に放送されなくなる。そのような構成は、一方的かつ定期的に映像が届けられるテレビという設定だからこその仕掛けだったのかもしれない。放送休止が演出に含まれた番組を、私はほかに知らない。
が、以上のように考えていくと徐々に気づくのである。すべては演出である、すべては製作者の手の内にある、そのような考え方の構造が“陰謀論”と同型になることに。もちろんまったく同列に並べることはできないが、思考の型としては似ているはずだ。自分は番組の仕掛けに気づいてるけど人によったら勘違いしてしまうかもしれない、というような自分を安全圏においた先回りの心配も“陰謀論”にはまってる人っぽくはないか。
あるいは、「検証」と題された動画のなかに「そういう意味深なのが(番組内に)あると考察好きがSNS上で騒ぐんですよ」と語られるシーンがあるが、『SIX HACK』の映像の点と点をつないで番組のメッセージを“考察”していく、そのような身振りも”陰謀論”を構築する手際に接近していくところがあるように思う。――というように、映像のなかからヒントを読み取り読解してみせる手際もまた。
もう、何を言っても番組の構造のなかに絡め取られてしまう。おそらく製作側も少なからず絡め取られているのではないか。そういう意味で怖さのある番組だが、そんな怖さにあらかじめ触れておくことが“陰謀論”的なものへの接近に気づき回避するための抗体をつくりだすのかもしれない。ワクチンのように。
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