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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.743

本業で食べていける監督はごく少数!? 映画業界残酷物語『愛のこむらがえり』

人生の扉を開けようと、もがき続ける主人公たち

本業で食べていける監督はごく少数!? 映画業界残酷物語『愛のこむらがえり』の画像5
浩平が憧れ続けた、映画監督の蒲田志郎(品川徹)

 想像を絶するトラブルに見舞われる浩平たちだが、いちばん衝撃的なのは、憧れの映画監督・蒲田志郎と浩平が出会うシーンだろう。浩平は蒲田監督が撮ったスタイリッシュな映画に魅了され、映画業界入りを決意した。憧れの存在にようやく会うことができた浩平だったが、かつての名監督の口から出てきた言葉は、あまりにも残酷だった。

「映画監督とは職業じゃない。罪名だよ」

 映画監督とは、夢という嘘で人の人生を狂わせる罪人たちの呼び名だったのだ。映画監督になった者も、映画の世界に憧れた者も、その周囲にいる者も、みんな苦しみ続けることになる。自分が追い掛けてきた夢の正体を知らされ、浩平の頭の中の理想像はこなごなに砕け散る。

髙橋「これも加藤さんたちが書いた脚本に、最初からあった台詞です。あまりにも刺激の強い言葉です。実際、僕も思い悩み、30歳、40歳と節目の年齢には転職することを考えました。でも、踏ん切りがつかないうちに新しい現場の仕事が入ってしまい、今に至っています(苦笑)。やはり長年、映画業界で暮らしていることもあって、この業界での仕事が体に馴染んでしまっているんです。もしサラリーマンに転職しても、体か心がパンクして、倒れていたかもしれません。余裕のある生活ではありませんが、好きな仕事を続けられているのは幸せなことなのかもしれません」

 髙橋監督がプロデューサーを務めた作品は、中村倫也がパンクロッカーに扮した主演作『SPINNING KITE』(11)、篠原ゆき子がスランプ中の作家を演じた『ミセス・ノイズィ』(19)、のんが歌手デビューを目指す『星屑の町』(20)など、主人公たちは人生の扉を開けようと懸命にもがいている。監督デビュー作『RED HARP BLUES』や『渇水』の主人公もそうだ。

髙橋「たまたまそんな作品が重なっただけですが、主人公のもがき続ける姿が僕自身、好きなんでしょうね。『渇水』の原作小説はバブル期に発表されたこともあって、悲劇的な結末が胸に刺さる作品でした。でも、僕自身に幼い娘がいたこともあって、希望が感じられるラストに変えさせてもらいました。『愛のこむらがえり』も残酷なままではなく、観ている方たちが明るい気持ちで帰ることができるようなラストにしています。僕自身が、きっとそうなることを望んでいるんだと思います(笑)」

 厳しい現実に触れながらも、浩平と香織は自分たちの理想の映画づくりに突き進む。おそらくこの映画が完成しても、2人が経済的な成功を収めることは難しいだろう。だが、映画の世界に生きる喜びを見出した2人は、自分たちの映画をつくることで一生分の幸せを手に入れる。映画『愛のこむらがえり』には、映画業界で生きる人たちが味わうシビアさと多幸感との両面が描かれている。

『愛のこむらがえり』
原作/加藤正人、安倍照雄 脚本/加藤正人、安倍照雄、三嶋龍朗 監督/髙橋正弥
出演/磯山さやか、吉橋航也、篠井英介、菜葉菜、京野ことみ、しゅはまはるみ、和田雅成、伊藤武雄、小西貴大、前迫莉亜、藤丸千、川村那月、浅田美代子、菅原大吉、品川徹、吉行和子、柄本明
配給/プラントンフィルムズエンタテインメント 6月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、青梅シネマネコ、あつきぎのえいがかんkiki、6月30日(土)よりシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都ほか全国順次公開
©『愛のこむらがえり』フィルムパートナーズ
aikomu-movie.com

『渇水』
原作/河林満 監督/髙橋正弥 脚本/及川章太郎
出演/生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂、宮藤官九郎、宮世琉弥、吉澤健、池田成志、篠原篤、柴田理恵、森下能幸、田中要次、大鶴義丹、尾野真千子
配給/KADOKAWA 6月2日より全国公開中
movies.kadokawa.co.jp/kassui

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2023/06/22 19:00
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