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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.743

本業で食べていける監督はごく少数!? 映画業界残酷物語『愛のこむらがえり』

助監督よりも監督のほうが貧しくなる現実

本業で食べていける監督はごく少数!? 映画業界残酷物語『愛のこむらがえり』の画像3
ヤクザに拉致された浩平たち。「拉致された先輩は実際にいます」と髙橋監督

 浩平はフリーの助監督として仕事を受けてきたが、稼ぎは不安定だ。同棲する香織のバイトの収入によって生活は支えられている。慎ましき清貧生活。しかも、浩平が助監督として働いているうちはまだマシであるという、映画業界のシビアすぎる現実がある。もし、浩平が映画監督になれたとしても、年に何本かの仕事を請け負うことができる助監督時代より収入は減ってしまうのだ。映画監督になるという夢を叶えると、今よりさらに厳しい経済状況に陥ってしまう。

髙橋「劇中に『映画監督の99%は貧乏だ』という台詞がありますが、まさにそのとおりです(笑)。僕らの世代(髙橋監督は1967年生まれ)は撮影所システムがかろうじて残っていた時代で、がんばって助監督を続けていれば、40歳前後で映画監督になれるという甘い夢がありました。でも、冷静に考えると監督は増えていく一方で、下の世代へのチャンスはそうそう回ってこないのが現実です。助監督を続けていればいつか監督になれるという幻想に、僕らの世代はどこか甘えていた部分があったかもしれません」

 役者たちの多くは本業では食べていけず、日雇いバイトをしている実情が西村洋介監督の自主映画『ヘルメットワルツ』(22)では描かれていたが、映画監督も同じような状況だ。著名な映画監督は大学の講師などを務めることもできるが、映画とはまったく無関係の仕事に従事しているケースも少なくない。東映映画『ワルボロ』(07)でデビューした隅田靖監督は、監督第2作『子どもたちをよろしく』(19)の公開時に警備会社で働いていることを明かしている。

髙橋「僕も30代の頃は食べていけずに、警備員のアルバイトなどをしていました。他の監督たちも口にしないだけで、似たような状況のはずです。しかも、年齢を重ねれば重ねるほど転職は難しくなる。20代前半で見切りをつけて、まったく別の業種に転職したヤツが正解なんじゃないかと思っていました。監督になったら助監督はやらないという先輩もいましたが、僕は今も助監督をやらせてもらっています。現場から学ぶことは多いですから」

脚本が軽視されるようになった映画界

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「脚本が読める業界人は少ない」とプロデューサーの伸子(菜葉菜)は嘆く

 どんなにいい脚本があっても、映画化の企画はなかなか前に進まない。映画プロデューサの伸子が叫ぶ「スポンサーはポスター映えするキャストの顔と客が呼べる原作しか求めていない」という台詞は、今の日本映画界の窮状をリアルに言い当てている。

髙橋「脚本家の加藤さんらの心の声が聞こえてくるような台詞です。加藤さんとは、根岸監督の『雪に願うこと』(06)で仕事をご一緒し、同じ秋田出身ということから時おり日本酒を飲む関係です。今は漫画やアニメ、ベストセラー小説の映画化が主流になっていますが、大事なのはオリジナル脚本を作り続けることだと思うんです。映画業界の底上げのために、そこは忘れちゃいけないところです」

 人気キャストが決まっても、優秀なスタッフが集まっても、映画の設計図である脚本がダメだと面白い映画には決して仕上がらない。映画制作の不変の真理であるにもかかわらず、浩平と香織は渾身の脚本を抱えたまま、右往左往することになる。10年間、『渇水』の脚本を抱え続けた髙橋監督自身を思わせるものがある。

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