日本野鳥の会の「バードウォッチング長靴」が夏の野外フェスで人気&必須なワケ
#フェス
今年も本格的な夏フェスシーズンが近づいてきた。屋外で行われることの多い夏フェスでは近年、ゲリラ豪雨など天候問題への対策も必須になってきている。
そんななか「公益財団法人 日本野鳥の会」(以下、日本野鳥の会)が販売する「バードウォッチング長靴」(税込6930円)が、音楽フェスをはじめ夏の野外イベントなどのシーンで重宝されているという。
梅雨時期にも活躍する同商品。数ある長靴やレインブーツのなかで、なぜバードウォッチング用に開発された長靴が支持されているのか。日本野鳥の会でグッズ販売などを担当する普及室販売出版グループ・瀬古智貫氏に、その開発経緯や隠れた人気商品となった背景を聞いた。
日本野鳥の会会員の発見がきっかけに
1934年に創立した日本野鳥の会は、日本最古の民間の自然保護団体だ。「野鳥を守ることは、自然を守ること」といった理念を掲げ、さまざまな自然保護活動を行っている。また、シマフクロウの保護活動を応援するTシャツや、バードウォッチング用のベストや帽子などの商品を展開し、収益は活動資金に充てられている。
バードウォッチング長靴も、干潟や湖沼など足元の悪い場所を訪れることが多い野鳥愛好家に向けた商品のひとつで、発売当初の売れ行きは“細々としたもの”だったという。
「しかし、2006年頃からネットの口コミなどでジワジワとフェス目的の購入者が増え、若者のユーザーも目立つようになっていきました。想定していなかった若い世代がショップでどんどん買っていくため、最初はスタッフもみんな不思議がっていました」(瀬古氏)
バードウォッチング長靴は、日本野鳥の会の会員がバードウォッチングのための長靴を買いに訪れた北海道のホームセンターで、田植え用の長靴を見つけたことが商品化のきっかけだという。そして、田植え用長靴をもとに、デザインやゴムの厚さなどを変更した初期モデルを2004年に発売開始した。
「田植え用の長靴がバードウォッチングにも便利ということで、そのきっかけとなった会員さんが当会とメーカーさんの両方に連絡をくださって。湿地や沼地でも歩きやすく、持ち運びもしやすいバードウォッチング用の長靴というコンセプトで共同開発が始まりました」(同)
最大の特徴は、やわらかく丈夫なゴム素材を使うことで、くるくると巻いてスニーカーサイズまでコンパクトにできる持ち運びのしやすさと、軽さを実現したこと。足首の部分が細めの設計になっており、ぬかるんだ地面でも歩きやすい。
そんなバードウォッチング長靴は、2010年頃からのフェス人気も追い風となってか、従来の長靴にはない使い勝手の良さが評判となり、想定外のニーズをつかんだようだ。2016年には「ロングライフデザイン賞」を受賞し、近年のコロナ禍でも釣りやキャンプなどアウトドアレジャー目的の購入が増加しているという。
「一時期はCDショップでも販売していました。コロナの影響で最近は減っていますが、野外フェス主催者の方から出店のお声がけをいただき、会場で出張販売をしていたこともあります。7月下旬に苗場スキー場で開催されるフジロックフェスティバルでは想像を超えるような大雨が降ることも多く、こうした長靴が必需品になっています。なかには『バードウォッチングはしないのですが、履いてもいいですか?』という問い合わせをいただいたこともありました(笑)。もちろん大丈夫です」(同)
日本野鳥の会だからこその強みとこだわり
「田植え用の長靴が原型なのでやわらかい靴底を採用していますが、別売りの硬いインソールを入れると、アスファルトの上で長時間歩いても疲れにくく、雨の日でもスニーカーを履いているような感覚で動くことができます。ゲリラ豪雨対策の“置き長靴”としてオフィスに一足あると便利ですし、野外で仕事する機会が多い方には特に喜ばれますね。取材に来られたテレビのカメラマンの方が『車に入れておく用に3つ買います』みたいな感じで、ご購入いただいたこともありました」(同)
重くて嵩張りがちな従来の長靴の欠点を補うバードウォッチング長靴は、初期モデル発売後も細かいモデルチェンジも重ねてきたという。
「ガーデニングなどで膝をついて作業する際、コードロックが膝に当たって痛いという声があり、2009年にコードロックの位置を前面からサイドへ変更しました。同時に、足首の部分がタイトでフィット感がある一方で脱ぎづらいといった声を受け、かかと部分に突起(キック)をつけて簡単に脱げるように改善しました」(同)
より使い勝手が良いように進化する一方で、現在は後発の類似商品が有名アウトドブランドなどからも販売されている。日本野鳥の会のバードウォッチング長靴が支持され続けているポイントはどこにあるのだろうか?
「やはり一番はコスパの高さでしょう。そもそも我々の商品は卸業者などを介して大きな流通に乗せているわけではなく、会員さんなどのエンドユーザーへダイレクトに販売するというのが基本方針。広告宣伝予算もほとんどないので、そうした前提があってこその価格設定になっています。昨今の物価高で6000円台後半に値上げせざるを得なかったのですが、価格と機能性のバランスが支持されているのだと思います」(同)
加えて、公益財団法人である日本野鳥の会は収益のすべてを自然保護活動に充てられるため、これらの商品を購入することで自然保護に貢献できる点も支持される一因となっているようだ。
「お仕事の現場で毎日のように履いている職人さんもいらっしゃって、1年ほどのペースで買い替えるケースが多いようです。軽くて薄いながらも丈夫なので、造園業の職人さんからは『靴底が薄くて、木に登るときに足が枝にしっかりかかっているか、よくわかるのが良い』とお聞きしました。『この長靴じゃないとダメ』という感じで、愛着を持ってくださる初期の頃からのリピーターも多く、そうした方々を大切にしていきたいと思っています」(同)
「人間と自然の共生」「長靴の蒸れ問題」2つの課題に挑戦中
カラーバリエーションは「グリーン」「ブラウン」「グレー」の3色がレギュラーで、毎年限定のカラー・デザインも販売している。また、伊藤忠商事とともに、長靴のフロントにも配置されている日本野鳥の会のロゴマークをあしらったアパレル商品なども展開している。
「野鳥が好きな人向けの商品の企画・販売ということで本当に細々とやっていますが、当会のロゴが多くの人の目に触れることは、とてもありがたいです。このバードウォッチング長靴も東京の街中や電車で履いている人と遭遇することがあります。若い女性が雨の日に履いているケースもあるようです。メディアやSNSインフルエンサーにも取り上げられ、コロナ前からインバウンドの方々にも購入されています」(同)
ちなみに、日本野鳥の会の入会者数が最も多かったのは1990年代とのこと。現在、会員の平均年齢は60代後半だそうだが、こうした独自商品の購入を機にバードウォッチングや同会の活動に興味を持つ人もいるようだ。
「長年バードウォッチングをしていると自然環境の変化を実感することが多いので、まずは当会の自然保護活動を知ってもらえるような取り組みや啓発にも力を入れていきたいと思っています。このバードウォッチング長靴に関しては、長靴の永遠の課題である“蒸れにくさ”を、今後はもっと突き詰めていきたいですね。長時間ハードに使うと、どうしても靴の中で汗が結露してしまうんです。相反する機能なのでなかなか実現は難しいのですが、メーカーの担当者様といつも話し合っています」(同)
バードウォッチング長靴は日本野鳥の会のECサイトや直営ショップ、楽天やアマゾンなどのネット販売のほか、全国に販売店が存在しており、取扱店は日本野鳥の会の公式サイトで確認できる。「普通の靴よりタイトなサイズ感なので、最初の一足は実際に試し履きしてお買い上げいただくのがおすすめ」(同)とのことなので、興味のある人は近くのショップを探してみると良いだろう。
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