『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』に見る、マーベルとインドの深まる仲
#映画 #インド #スパイダーマン #バフィー吉川
もともと海外にはモーションコミックというアニメシリーズがあって、文字通りコミックの絵に声を吹き込んだ『X-MEN』や『アイアンマン』といった作品がリリースされてきた。だが、それらとはまた少し異なり、アニメーションではありながらも、コミックがそのまま活かされたされたような斬新な演出が話題となり、新たなアニメーション像を確立したのが『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)の続編となる『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』だ。第91回アカデミー賞においては長編アニメ映画部門を受賞した今作は、6月14日から公開中!!
このような『スパイダーマン:スパイダーバース』の演出の数々は、『バッドガイズ』(22)や『長ぐつをはいたネコと9つの命』(同)、今年9月に公開される『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』も影響を受けているほどだが、今作では前作をさらに超える表現の限界に挑んでいる。
今作の主人公マイルス・モラレスがコミックで初登場したのは、2011年に出版された「Ultimat」シリーズという、並行世界の別ストーリーライン『アルティメット・フォールアウト』であり、実はまだ最近のことだった。
2011年はマーベル全体を通して“スパイダーマンの死”がひとつのテーマとなっていたこともあり、さまざまなシリーズでスパイダーマンことピーター・パーカーの死が描かれることになった。そのひとつ「Ultimat」シリーズのみで、実験的にアフリカ系アメリカ人のスパイダーマンが採用されることになった。そこで登場したのがマイルス・モラレスであり、当時は新聞などでも報じられたほど、時事ニュースのひとつになった。
まだこの頃の黒人ヒーローというのは、バラク・オバマの米大統領就任の影響が大きく、マーベルだけに限らず、2000年代後半から2010年代前半にかけて、さまざまなコミックやアニメで黒人の主人公が誕生していた。当時としてはまだ多少の政治色がついて回っていたが、今ではすっかり一キャラクターとして溶け込んでいる。
前作は、マイルスがスパイダーマンになるオリジン(誕生秘話)をメインストーリーとして描きながら、サブ要素としてマルチバース(多元宇宙)を扱っていて、原作の『スパイダーバース』とは大きく異なった設定となっていた。スパイダーハムやスパイダーマン・ノワールといった複数のスパイダーマン、スパイダーウーマンが登場するものの、どちらかというと『Ultimate Comics: Spider-Man』(2011年9月にスタートしたシリーズ)に近い物語がベースとなっていたのだ。
“スパイダーマン=ピーター・パーカー”という印象の強い一般層にとっては、マイルスというキャラクターを知る良いきっかけになったことは間違いなく、導入作品としては申し分がなかった。
今作においては、マルチバースをメインテーマとして描いた「スパイダーバース」の本質そのものということもあって、前作とは比べものにならないほど数多くのスパイダーマン、スパイダーウーマンたちが登場する。
つまり、ここからが本番ということだ!!
マーベルやDC、イメージやダークホース、IDW……などもそうだが、アメコミにはひとつのタイトルやキャラクターに対して複数のシリーズが存在し、作家もまったく異なることから、それぞれ絵柄が違ってくる。
それを逆手にとって、それぞれのスパイダーマンの絵柄を分離させることで、別ユニバースのスパイダーマンであると表現したのは革命的な表現方法であり、アメコミならではの映像化だといえるだろう。
【ストーリー】
ピーター・パーカー亡きあと、スパイダーマンを継承した高校生マイルス・モラレス。マルチバースを自由に行き来できるようになった世界で、彼はともに戦ったグウェン・ステイシーと再会し、別の次元へ旅立つ。そこで出会ったのは、様々なユニバースから選び抜かれたスパイダーマンたち=スパイダーピープルだった。そしてマイルスは、かつてのスパイダーマンがみな受け入れてきた哀しき定めを知る。それは、この世界と自分の愛する人を同時には救えないということ。やがてマイルスは、それでも両方を守り抜くことを固く誓う。しかし、その決断はマルチバース全体を揺るがす史上最大の危機を招くのだった……。
スパイダーマン・インディアの活躍は、
マーベルとインドの急接近を意味しているのか!?
前作にも登場したスパイダーグウェンやスパイダーハムも人気キャラクターではあり、スパイダーグウェンの単独作も制作されるほか、スパイダーマン・ノワールも今後、Amazonプライムでドラマ化が予定されている。
しかし、マルチバースのスパイダーマンとして代表的なキャラクターといえば、スパイダーマン2099は欠かせない存在であるというのに、前作ではポストクレジットシーンに登場したのみだった。
そのため、むしろ続編では2099がメインキャラクターになってくるであろうことを、前作を観ながら感じていたファンも多いはずだ。
今作では、トビー・マグワイヤやアンドリュー・ガーフィールドが主演を務めた実写版スパイダーマンの映像も登場するほか、『ヴェノム』(18)に出てきたコンビニも映っているなど、コミックやアニメ、ゲーム、フィギュア、実写作品のいたるところからスパイダーマンたちが飛び出してくる。こんなギミックは、言うなれば、動く『ウォーリーを探せ』といったところ。
また、原作のマイルスのモデルのひとりでもあり、『スパイダーマン:ホームカミング』(17)にも出演しているドナルド・グローヴァーが“ある役”で登場していることにも驚くはずだ。
さらに、今回登場していなかった日本にゆかりのあるスパイダーマンが、次回作で重要なキャラクターとして登場するのではないかと思うと、それも待ち遠しい。
自分の好きなスパイダーマンがどのシーンにいるかを探すだけで楽しい作品になっているのだが、その中でも際立って活躍が描かれているのが、スパイダーマン・インディアだ。
こちらの記事でも触れた通り、『スパイダーマン・インディア』はもともと2004年にインドで出版された作品で、翌年にアメリカに逆輸入されたものだが、今作の中では新たな設定で登場する。
「スパイダーバース」シリーズの中でも、スパイダーマン・インディアはわりと活躍するキャラクターではあるが、どうもそれ以上のものを感じるのだ。
そんなスパイダーマン・インディアは、『デッドプール』(16)のインド系のタクシー運転手ドーピンダー役を演じたカラン・ソーニが声優を務めている。インドで公開されている今作のヒンディ版とパンジャブ版では、人気クリケット選手のシャブマン・ギルが声優を務めており、インド国内限定予告も公開されている。インド国内で公開されるハリウッド映画の中では、PRになかなか力が入っていて、しかも10言語バージョンで公開されているのだ。
実際にスパイダーマン・インディアは、今作の中で重要なキャラクターのひとりとして登場しており、すでに続編の『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』(24年公開予定)にも登場が決定していることから、マーベル(ディズニー)とインドのつながりを強く感じさせる。
Disney+で配信中のドラマ『ミズ・マーベル』のボリウッドリスペクトや、近年のマーベル作品のインド輸入率を考慮しても、マーベルがインドに寄り添っていることは間違いなく、インドと連携したビッグプロジェクトの序章にも感じられるのだ。
もしかしたら『スパイダーマン・インディア』はドラマ化されるかもしれない……!?
『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
6月16日(金)全国の映画館で公開
監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
脚本:フィル・ロード&クリストファー・ミラー、デヴィッド・キャラハム
声優:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソン、イッサ・レイ、ジェイソン・シュワルツマン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ルナ・ローレン・ベレス、ヨーマ・タコンヌ、オスカー・アイザックほか
日本語吹替版声優:
小野賢章、悠木碧、宮野真守、関智一、田村睦心、佐藤せつじ、江口拓也、木村昴ほか
日本語吹替版音響監督:岩浪美和
日本語吹替版主題歌:LiSA 「REALiZE」
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オフィシャルサイト:https://www.spider-verse.jp
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