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「世界が滅亡した後のようだ」イーロン・マスクも嘆く米サンフランシスコの荒廃

「世界が滅亡した後のようだ」イーロン・マスクも嘆く米サンフランシスコの荒廃の画像1
(Getty Imeags)

 「全米で最も自由でリベラルな町」とされるサンフランシスコが荒廃している。ひったくりや路上強盗、車上狙いが横行し、街角にホームレスや麻薬常用者の姿が目立つ。店舗への押し込み強盗も常態化し、防犯を強化しても繰り返し狙われる店は少なくない。百貨店やスーパーなど大型店も標的となり、客や従業員の安全が確保できないため中心部からの撤退が相次いでいる。サンフランシスコに本社があるTwitterのイーロン・マスクCEOは「世界が滅亡した後のようだ」と町の現状を嘆いている。

 サンフランシスコのダウンタウンにあるユニオン・スクエアは、高級ホテルや百貨店、高級ブランショップが軒を連ねる、全米でも有名なショッピングスポットだが、現在は空き店舗が目立つ。ニュースサイト「サンフランシスコ・スタンダード」の調べでは、ユニオン・スクエアとその周辺で営業していた店舗は、新型コロナウイルス感染拡大が始まる直前の2019年には203店あったが、2023年5月時点で営業を継続しているのは約53%にあたる107件だけだったという。半数近い96店が撤退したことになる。この中には百貨店やスーパーなど米国を代表する大型チェーンの旗艦店も含まれており、近く閉店する店舗を含めると大型店の撤退は20を超える。

 新型コロナで人出が激減したことで営業が立ち行かなくなったケースもあるが、サンフランシスコの場合は治安の問題が撤退を決断する大きな要因となっている。

 米国を代表する高級スーパーのWhole Foodsは2022年3月に、ユニオン・スクエア近くに旗艦店をオープンした。近くにはハイテク産業で働く高所得層が多く住む。新店には新型コロナ後のリバウンド需要を獲得する狙いがあった。ところが開店直後から、店内では想像を絶する混乱が続いた。

 店舗を訪れた男たちが従業員を銃やナイフなどで脅し、騒ぎながら商品を奪って床にまき散らすことが日常的にあった。店内でのけんかは当たり前。食品棚の前の床に糞尿をしようとする男たちもいた。店舗のガードマンをナイフで襲った男が、その後、従業員に向けて消火器を噴霧したこともあった。

 9月には、30歳の男性が店内のトイレで死亡しているのが見つかった。鎮痛剤として使われるフェンタニルと強力なオピオイド、メタンフェタミン(覚醒剤)を過剰摂取したことが死因だった。

 Whole Foodsは、このままでは客や従業員の安全を確保できないとして、2023年4月にこの旗艦店を閉めた。営業期間はわずか1年1カ月。極めて異例の短さで、店内の混乱がいかに深刻だったかを物語っている。

 この間、店舗から警察などへの緊急通報は568件に上った。平均すると1カ月あたり約43件、1日あたり約1.4件となる。

 ユニオン・スクエアでは、すでにファストファッションのH&MやGap、ユニクロ、靴販売のDSW、キッチン用品販売のCrate&Barrelなどが撤退していたが、この4月にはオフィス用品販売のOffice Depotとアマゾンの店舗であるAmazon Goが、5月には婦人服のAnthropologieが閉店した。

 さらにカジュアルファッション販売のOld Navyが7月に、百貨店で全米ナンバーワンのNordstromが8月に、高級百貨店Saks Fifth AvenueのアウトレットショップSaks Off 5thが秋に、ファッション販売のBanana Republicが年内中にそれぞれ撤退する。

 表向きには、消費動向の変化などを撤退の理由に挙げている会社もあるが、サンフランシスコの小売業関係者は、いずれもユニオン・スクエア周辺の治安問題が大きく影響しているとみている。

 サンフランシスコでは窃盗事件は住民20人あたり1件の割合で発生している。この発生率は全米17大都市の平均値の約2倍、ニューヨークの約5倍だ。窃盗事件が増加した背景には、前サンフランシスコ地区検事による司法改革があるともいわれる。「人権派」のチェサ・ブーディン前地区検事は訴追や収監についての改革を実行したが、結果として犯罪に対して甘い対応となり、「窃盗をしても収監されない」という事態を招いてしまった。保守派は治安悪化の要因はこの司法改革にあると指摘する。

 米国では西海岸を中心に集団で店舗に押し入り、あっという間に商品を盗み出す「スマッシュ・アンド・グラブ」と呼ばれる窃盗事件が頻発している。サンフランシスコでは、深夜の侵入盗を含めて、荒っぽい窃盗事件が多発している。繰り返し狙われる小規模小売店もあり、被害に遭わないようにするためのセキュリティー費用がかさんで店の経営を圧迫している。大小にかかわらず、店をたたむという判断は、治安が改善されない限り続くのである。

 こうした中、サンフランシスコに本社があるTwitterのイーロン・マスクCEOが5月、自身のアカウントに「サンフランシスコのダウンタウンでは多くの店が閉店し、世界が滅亡した後のような感じだ。こうしたことが世界に広がったら文明の終焉となるだろう」と投稿した。

 Twitterの本社は、撤退したWhole Foodsの旗艦店から歩いて5分ほどのところにある。イーロン・マスクCEOは2022年10月にTwitterを買収した後、多くの時間をサンフランシスコで過ごしており、町の荒廃ぶりを肌で感じている。サンフランシスコは、今をときめく億万長者が嘆くような町に変わってしまった。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2023/06/19 09:00
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