「無限の時間を使ったバトルシーン」が斬新な異世界マンガ『時間停止勇者』の魅力
#マンガ #吉松ゴリラ
マンガ歴30年。人生のほとんどをマンガにつぎ込んできた男が、注目の異世界マンガ作品をピックアップしてご紹介。超個人的主観から語られる各ジャンルのマンガ解説は、今後のあなたのマンガライフを充実させてくれる事、請け合いである。
「時間停止勇者―余命3日の設定じゃ世界を救うには短すぎる―」のストーリー!
ふざけてネットに投稿した写真が炎上し、「もうこの世界にいたくない」と強く思った時、突如として異世界に召喚されてしまった主人公の葛野(くずの)セカイ。動揺する彼の目の前に広がるのは、中世ファンタジーゲーム風の街並みと住人。そして手には初期ファミコンを連想させるコントローラー。
実はこのコントローラー、ポーズボタンを押すことで無限に時間を停止させる事が出来るチート器具。事実上世界最強の能力を手に入れたセカイだが、同時にゲームクリアまでのカウントダウンが始まった。彼の視界の端に表示されるカウントダウンが示す時間は、たったの3日間。その時間内にステージクリア条件を探し出し、ゲームクリアをしなければならない。
タイムリミット付きの時間停止勇者の冒険は、今こうして幕を開ける――!
「時間停止勇者の魅力」!
淡々と進行するストーリーと小ざっぱりした絵柄が魅力の「時間停止勇者」。様々なクエストをクリアする勇者の物語でありながら、マイペースなテンポで、ゆるく物語が展開していくのも魅力の一つ。
しかし本作品のピックアップポイントは、何といっても「無限の時間を使ったバトルシーン」に他ならない。主人公以外が全て静止している世界でのバトルが、他作品とは一線を画すのだ。
ちなみに主人公は、時間停止が出来る以外は全て普通の一般人。いやむしろ、屈強な人間が多い異世界において、身体能力は低い方かもしれない。そのためひとたびモンスターと戦うとなると、時間が停止しているとはいえ、相当な労力が必要となる。
まずそもそも剣がモンスターに通らない。武器の強度を超えるモンスターの外皮を通す為、彼は静止した町中を練り歩き、切れ味鋭い名剣を探す。まずそれだけで三日使う。ここで「え? 三日?」と思うが、時間の使用はそれに留まらない。やっと探した剣をモンスターに振り下ろし、ハジかれ、腕力が足りないと言って彼は筋トレを始めるのだ。その間275日。
もはやバトルなのか何なのか分からなくなるこの戦闘だが、ここで描かれているのは戦略と思考による頭脳戦である。「時を止めながら無限にある時間を使い、状況を分析し、最適な解を見つける」という戦いであり、およそ読者が見た事のないモンスターの倒し方を提示してくれるのだ。
また「時間停止」という無限の時間を手にしている反面、カウントダウンによる時間制限が課されている構造は、物語の静と動を作り、メリハリを生んでいる。ストーリー進行上時間を進めざるを得ない場面で浪費する時間に対する焦り、かと思えばギリギリのタイミングで行われる時間停止からの逆転劇。
「世界にとっての1秒が、セカイにとっては無限である」という矛盾が、作品を通して物語を盛り上げるのだ。是非、ご一読頂きたい。
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