ポール・シュレイダー監督『カード・カウンター』 スコセッシとの関係、三島由紀夫について語る
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三島由紀夫とトラヴィスは対照的な存在
ポール・シュレイダー監督は、大の日本文化通としても知られている。映画批評家時代には小津安二郎作品についての評論も残している。三島由紀夫と彼の代表作を映画化した『MISHIMA A Life in Four Chapters』はカンヌ映画祭審査員特別賞を受賞した力作だが、残念なことに日本では劇場公開されていない。前作『魂のゆくえ』の主人公は世の中の不正を憂い、自害しようとする。衝撃的な最期を遂げた三島由紀夫を彷彿させるものがある。
また本作の主人公・ウィルも、どこか任侠映画の高倉健を思わせるストイックなキャラクターとなっている。ポール・シュレイダー作品は、日本文化からの影響を受けているのだろうか?
シュレイダー「僕が三島由紀夫に惹かれたのは、『タクシードライバー』の主人公とは真逆の存在のように感じたからなんだ。デニーロが演じたトラヴィスは、ひどく自虐的なキャラクターだった。そんなトラヴィスとは対照的な存在を、太平洋の向こう側、日本にいた三島由紀夫の中に僕は見たんだ。三島は作家であり、インテリであり、そして右翼でもあった。トラヴィスとはまったく真逆の存在だった。でも、2人ともそんな自分を変容させ、最終的には死に至ろうとする。その点では、三島もトラヴィスも同じかもしれない。日本文化からの影響についてだけど、そうした人間の本質的なことは、日本とか米国とかの国籍とは関係ないものじゃないかなと僕は思うよ」
どうしようもなくバイオレントな一面を捨てることができない人間の暗部を描き続けるポール・シュレイダー監督。本作も悲壮感あふれるクライマックスが待っているが、ラストシーンは一抹の希望を感じさせるものとなっていることがうれしい。
シュレイダー「三部作として『魂のゆくえ』『カード・カウンター』を続けて撮ったわけだけど、最終作となる『Master Gardener』は、もっと希望が感じられるものになっているよ。今日はどうもありがとう」
ハリウッドをサバイバルしてきたポール・シュレイダー監督が、長いキャリアの果てにどんな希望を見出したのか。『タクシードライバー』で映画が持つ狂気に魅了された世代は、確かめずにはいられないはずだ。
『カード・カウンター』
監督・脚本/ポール・シュレイダー 製作総指揮/マーティン・スコセッシほか
出演/オスカー・アイザック、ティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・デフォー
配給/トランスフォーマー 6月16日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国順次公開
©2021 Focus Features. A Comcast Company.
transformer.co.jp/m/cardcounter
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