ポール・シュレイダー監督『カード・カウンター』 スコセッシとの関係、三島由紀夫について語る
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強迫観念に囚われた主人公は監督自身なのか?
オスカー・アイザック演じるウィルは、独特の美学の持ち主だ。ホテルの部屋にある家具や照明類はすべて白い布で覆い、ひとつひとつ丁寧に紐で縛り付けている。異様な強迫観念めいたものを感じさせるシーンだ。このアイデアはどのようにして生まれたのだろうか?
シュレイダー「あのアイデアは、僕が監督した『キャット・ピープル』(82)のプロダクションデザイナーをヒントにしたんだ。彼はすごく美意識の強いデザイナーで、彼が泊まっているホテルの部屋を訪ねると、部屋中の家具という家具をすべてシーツで覆っていたんだ。『なんでこんなことをするんだ?』と尋ねたところ、彼は『部屋のインテリアがきれいじゃなかったから。僕はしばらくここで暮らさなくちゃいけない。だから美しくないものは見たくないんだ』と明かしてくれた。そのことを思い出して、ウィルなら同じようなことをやるだろうなと考えたんだ。ただし、そのデザイナーは気に入らないホテルのときだけシーツで覆い、気に入ったホテルのときは普通にしていたけどね」
ギャンブルの世界でウィルは大儲けは考えず、大負けしないスタイルを当初は貫こうとしていた。ハリウッドではシナリオライターとして超ビッグネームだが、近年のシュレイダー監督は予算規模の大きくないインディペンデント映画で成功を収めている。映画の主人公とシュレイダー監督自身が重なるものを感じさせる。
シュレイダー「もちろん、そのとおりだ。僕の場合は脚本も書き、監督もするわけだから、映画の中の登場キャラクターに否応なく自分が重なってくるんだ。自分が『これは奇妙だな』と感じるような逸話や、自分自身にとって特別なものを物語として書き上げ、お金を集め、映画にしているんだ。主人公はどうしても自分自身と重なると言っていいだろうね」
ひどい考えに取り憑かれた男たちの旅
ギャンブラーのウィルは、若いカークを伴って、旅を続ける。カークは父親を失い、家庭は崩壊。大学には奨学金申請しながら通っていたが、リタイアしたために借金だけが残ってしまった。「生きづらさ」を抱える若い世代への、主人公・ウィルなりの温かい視線を感じる。
シュレイダー「若いカークが悩んでいるのは、決して経済的な問題からではないんだ。ウィルもカークと同じように、以前は上官への復讐を考えていた。だが、ギャンブラーとして忙しく毎日を過ごすことで、その恐ろしい考えを紛らわせることができるんだ。ウィルは忙しく働くことで、待つこと、耐えることを学んだんだよ。カークにもそのことを教えようと、旅に誘ったわけだ。違った人生を歩むことで、君の知らない世界が見つかるかもしれないよ、とね」
迷える一匹の子羊を救うことで、ウィル自身も救われることになるようだ。
シュレイダー「そのとおり。ウィルは自分の人生に何かが起きることを待っている。何かが起きれば、自分の頭の中を占めているひどい考えから抜け出すことができるかもしれない、と考えているんだ。ウィルはそのきっかけ、口実を求めて、旅を続けている男でもあるんだ。若いカークを救うことで、自分自身も救われるはずだとウィルは考えているんだ」
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