『美女と野獣』に向けられたあらぬ批判
#ディズニー #金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
ディズニーアニメ不朽の名作『リトル・マーメイド』の実写版が間もなく公開されることを記念して、日本テレビ系『金曜ロードショー』ではディズニーの名作を2週連続で放送。今週は大ヒットしたアニメ版を、リメイクした2017年版の実写映画『美女と野獣』!
『リトル・マーメイド』、ジブリに対抗して作り上げた狂気の作画シーン
海底の王国、アトランティカ国王トリトンの末娘、アリエルは父王の命令で地上の人間と関わりあいを持つことを禁じられていたが、好奇心旺盛な彼女は仲良しの友達フランダーと一...人を愛することを知らない王子が、魔女の呪いで野獣に姿を変えられる。呪いを解くためには野獣に人を愛し、愛されることをだれかに説かれなければならない。
ハリー・ポッターシリーズのハーマイオニー役で、世界中の少年をキュンキュンさせたエマ・ワトソンがヒロインに扮し、粗暴な野獣に人の愛を解く道徳作品です。
中世のフランス。城に暮らす王子は傲慢無礼に振る舞い、人の愛というものに縁のない生き様を送っていた。嵐の夜に行われた舞踏会に、一人の貧しい身なりの者が現れ、一晩だけ泊めてほしいと一輪の薔薇を差し出すが王子は拒絶する。
するとその者は魔女の正体を現し、王子と従者たちに呪いをかける。それは一輪の薔薇の花びらがすべて散るまでに王子が人を愛するようにならないと、この呪いは永遠に解けないと。
それからしばらく経ち、城の近くにある小さな村に住むベルは本が好きで、いつかおとぎ話の中に出てくるような王子様に出会えることを夢見る女性。周囲からは「変わり者」と嘲られていたが、気にも留めず父親と二人で暮らしていた。
出稼ぎにいったベルの父親・モーリスは迷ってしまい、森の中にある城にたどり着く。城の荘園には立派な薔薇が咲いており、ベルの土産にと薔薇を一輪もぎとるが、城の主である野獣に捕まえられてしまう。その野獣こそが魔女に呪いをかけられた王子だったのだ。
父親を探して城にやってきたベルは、牢獄に入れられたモーリスと再会。野獣の怒りをかって終身刑にされたモーリスの身代わりとなったベルは、呪いで城の家具にされてしまった従者たちから「呪いを解くためには王子に愛することを教え、愛してくれる人が現れなければならない」と教えられる。
傲慢で恐ろしい野獣を最初は拒絶していたベルだったが城で暮らしていくうちに打ち解けあい、お互い母親を亡くしてしまったことで辛い日々を送るようになってしまった境遇に共感するようになる。だがそんなおりに、野獣の存在を知った村人たちが、たいまつを手に城を襲撃するのだった。
『美女と野獣』は「人は見た目が9割」と言われがちな現代において「人の良さは外見に現れない、内面にこそ秘められているのだ」という道徳を解く物語の定番として語り継がれてきた。
だが同時に、批判を受けてもきた。
野獣が恐ろしいのは外見だけで実は心優しい人間であり、しかも王子であるということは早い段階で明かされるので、最後にベルが野獣を愛することで呪いが解ける、という感動のオチも穿った見方をすれば「彼がイケメンの金持ちという正体を知っていたから助けたんじゃないの!?」というわけだ。そう考えるとイヤな話だなあ。夢もおとぎ話もあったもんじゃない!
そうしたストレートな批判を避けるために物語は、ベルに求婚する村の若者ガストンを登場させる。ガストンは村の人気者で力持ちで誰からも好かれていたが、人気者であることを鼻にかけ、粗暴な一面があり、さらに無教養だった。それを見抜いていたベルは、彼の求婚をはねのける。
自分を拒絶する女がいることが理解できない(こういう男、いますよね)ガストンは、なんとしてもベルをモノにしようとする。娘同様、自分を拒絶する邪魔な父親を殺そうとし、それが失敗すると異常者扱いして施設に送り込もうとする、とんでもない悪党だ。
ベルは「本を読む」ということだけで村人から「変わっている」と決めつけられ、彼女が子供に読み書きを教えようとすると「余計なことをするな」と怒鳴られる。
女性には教養なんかいらないってわけだ。
『美女と野獣』は人の知性に関する物語である。
「人と違っていても気にすることなんかない」という父親に育てられ、本を読みふけるベルは知性溢れる女性で、外見は恐ろしい野獣も書斎にあらゆる本があり、「ギリシア語で書かれたもの以外は読める」と嘯くほど教養がある。
ガストンや村人たちがベルやモーリスを蔑み、野獣を恐れるのは自分と違うものを理解しようとしないからだ。この世界では知性や教養は悪の象徴なのだ。
原作者ヴィルヌーブ夫人の書いた本で、野獣を示す言葉はbêteという。フランス語で野獣、もしくは知性に欠けている、という意味でもある。ヴィルヌーブ夫人はある男と結婚するが知性に欠けて浪費家であったため、離婚に至った。ヴィルヌーブ夫人が『美女と野獣』で言いたかったことは人の良さは外見ではない、内面にあるということよりも知性に欠けた男は野獣にも劣る! という、自身の経験に裏付けされた真実だったのだろう。
昨今の世界情勢でも知性に欠けた野蛮で粗暴な連中が、そこそこ良いだけの外見を利用し、デカい面して国政を牛耳っているのを見せられ辟易させられるばかりだ。そんな時、筆者は『美女と野獣』を見て「知性に欠けた男は野獣にも劣るって本当だな」とつぶやくようにしているのだった。ヴィルヌーヴ夫人よありがとう。
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