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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.741

“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』

10年以上、レンタル父親を続けている家庭も

“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』の画像5
夫のDVで苦しんだなど、レンタル家族を求める依頼者の実情はさまざまだった

 現在42歳になる石井裕一氏は、会社経営と並行して25家庭と契約を結び、レンタル父親を務めている。トラブルなどは起きないものだろうか。

石井「運動会などのシーズンは、1日に3つの家庭を午前、昼食時、午後と掛け持ちすることもあります。各家庭でそれぞれ違った理想の父親を演じているので、各家庭に入る前に確認するようにしています。子どもの名前は決して間違えないようにしています。テレビなどに僕が出ることは、依頼を受けた際に説明しており、納得してもらっています。子どもがもしテレビに出ている僕を見つけたら、『最近、お父さんはエキストラの仕事も始めたみたいよ』と答えてもらうことになっています。それほど出演しているわけではないので、意外とバレないものですよ」

 依頼者の子どもが大きくなっても、レンタル父親であることを自分からは明かさないのだろうか?

石井「10年以上、レンタル父親を続けている家庭がいくつかあります。長く依頼を続けていただくことは会社としてはうれしいわけですが、お子さんが結婚するなどのタイミングで打ち明けてはどうかと、依頼者であるお母さんには話すようにしています。打ち明けないままその子が結婚してしまうと、結婚先の家族も巻き込むことになりますし、孫が生まれたらレンタルおじいちゃんの役も務めることになりかねません。でも、ほとんどの依頼者は『本当のことを話すのが怖い』と躊躇されますね。僕が本当の父親ではないことに気づき、お子さんが家出してしまったこともありました。ごく稀ですが、『レンタルでも、お父さんはお父さんだよ』とうれしいことを言ってくれるお子さんもいます」

「理想の家族」に依存しがちな依頼者たち

“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』の画像6
塩谷瞬は実際に石井氏の会社にスタッフ登録し、現場を経験している

 4時間2万円でレンタル家族を演じる石井氏。明るい人柄とコミュニケーション能力の高さで、依頼者たちからリピート指名されることが多い。だが、理想の父親を演じる石井氏に子どもだけでなく、母親もハマってしまい、依存してしまうことも少なくない。

石井「クライアントであるお母さんから『本当のお父さんになって』とプロポーズされることが、けっこうあります。でも、そこで感情に流されると、仕事に悪影響が出てしまうので、すべてお断りしています。依存傾向のあるクライアントには、利用回数を抑えるように提案しています。レンタル家族は大変気を遣う仕事なので、僕以外のスタッフには5家庭を上限にしていますし、スタッフの心理的なケアにも充分に配慮しています」

 ここまで一気にしゃべり続けた石井氏だが、ひと息置いてから、こうも語った。

石井「仕事を終えて自宅に戻り、ひとりで過ごしていると、いつも誰かを演じ続けて、気を抜くことができずにいる自分がいることにふと気づきます。きっと、疲れているときなんでしょうね。レンタル父親の仕事を終えて、依頼先から帰る際の『なんで帰るの?』という子どもの声は、これまで何度も聞いていますが、やはり心に残ってしまいます」

 石井氏が経営する「ファミリーロマンス」という社名は、心理学者のジークムント・フロイトが提唱した精神分析の概念であり、家族がそれぞれが抱える「理想の家族」像を指している。家族代行サービス業が日本でビジネスとして成立しているということは、日本には理想の家族を求めている人たちがそれだけ多いということだろう。理想と現実とのはざまには、底知れぬ深い闇が広がっているように感じられる。

『レンタル×ファミリー』
原作/石井裕一 脚本・監督/阪本武仁
出演/塩谷瞬、川上なな実、白石優愛、でんでん、川面千晶、埜本幸良、鈴木ふみ奈、亀島一徳、石井裕一、野見隆明
配給/Atemo 6月10日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
©2023『レンタル×ファミリー』製作委員会
rentalfamily-movie.com

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最終更新:2023/06/08 19:00
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