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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.741

“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』

“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』の画像1
塩谷瞬演じる主人公は依頼者の要望に応え、あらゆる代行サービスを行なう

 血縁関係のないキャストが集まり、家族を演じる映画の世界では、血のつながらない“擬似家族”をテーマにした作品はとてもリアリティーを感じさせる。岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)や吉高由里子のデビュー作『紀子の食卓』(06)は、伝統的な家族制度が崩壊した日本社会の現状を映し出した社会派ドラマだった。塩谷瞬が主演した『レンタル×ファミリー』も、レンタル家族を描いた問題作だ。しかも、劇中で描かれる“レンタル家族”を提供する会社が実在することに驚かされる。

 本作の主人公・三上健太のモデルとなったのは、2009年に代行サービス会社「ファミリーロマンス」を立ち上げた石井裕一氏。2019年に石井氏が執筆した『人間レンタル屋』(鉄人社)を原作にし、本作は映画化されている。塩谷瞬演じる三上に“レンタル父親”を頼まざるをえなかった3つの家族のエピソードを通し、社会から孤立しがちなシングルペアレントたちの実情、また“レンタル父親”を本当の父親と信じて育った子どもの心情を追っている。

 3話構成のオムニバスとなっており、「Episode 1」ではシングルマザーの朋子(川上なな実)がネット上で見つけた三上の会社にレンタル父親を頼むことから物語は始まる。ひとり娘のさくらは幼い頃に父親が家を出ていったため、父親の顔を知らない。寂しそうな娘を不憫に思い、朋子は依頼を決心した。さくらの前に現れたのは、三上演じる、優しくて明るい「理想の父親」だった。さくらは三上に心を開き、明るい表情を見せるようになる。

 続く「Episode 2」で三上にレンタル父親を頼むのは、スーパーマーケットでパートタイマーとして働く雅美(川面千晶)。息子も三上にすっかり懐くが、それに従ってレンタル父親の利用頻度が高まっていく。「理想の父親」を演じる三上に母親である雅美も心酔し、生活費を削ってまで依頼するようになってしまう。

 さらに衝撃的なのは「Episode 3」だ。進学校に通う高校生の菜々子(白石優愛)は、レンタル父親として現れる三上を本当の父親だと信じて育った。だが、三上にいつも依頼していた母親が急死。これ以上はサービスを続けられない三上は、母親の葬儀を終えたばかりの菜々子に自分の正体を打ち明けることになる。

 孤独な人たちの心の隙間を埋めることに喜びを感じていた三上だが、三上を本当の父親だと信じていた子どもたちを結果的に傷つけてしまうことにもなる。家族制度が機能しなくなった現代社会に現れた三上は、一種のダークヒーローのようだ。本作を企画し、脚本から手掛けた阪本武仁監督、そして原作者であり、三上のモデルとなった石井裕一氏に内情を語ってもらった。

ドイツの巨匠監督も魅了した「人間レンタル屋」

“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』の画像2
「Episode 1」ではシングルマザー・朋子(川上なな実)と娘のレンタル父親に

 阪本武仁監督が「レンタル家族」を提供する会社が実在することを知ったのは、何気なく見ていたテレビのワイドショーがきっかけだった。当時、幼い子どもを育てていた阪本監督は、理想の家族を演じるレンタル家族に興味を持ち、石井氏の著書『人間レンタル屋』を読むことに。さまざまな代行サービスを請け負う石井氏の面白い逸話の数々に魅了されるのと同時に、本の表紙に本人が堂々と姿を見せていることに強い違和感も覚えたそうだ。

阪本「困っている人のために、石井さんが懸命に代行業をしていることは分かったんですが、本の表紙をはじめ、テレビや雑誌にも顔出ししていることが不思議でならなかった。もし、レンタル父親として通っている家庭の子どもが気づいたらどうするんだろうと。自分の神経では考えられない存在だったんです。そのことから逆に興味が高まり、石井さんの会社だけでなく、他の会社への取材も始めました」

 石井氏が経営する「ファミリーロマンス」の他、日本には現在7つの会社がレンタル家族サービスを行なっている。阪本監督が取材した会社の経営者たちはそれぞれ個性的だったが、やはり石井氏の人柄は格別なものがあったようだ。

阪本「レンタル家族を提供する会社は、日本だけのもののようです。中でも石井さんの存在はひときわ個性的で、ドイツの巨匠監督であるヴェルナー・ヘルツォークが石井さんを主演にした映画『Family Romance, LLC.』(19)を撮っているほどです。石井さんは仕事熱心で、頼まれたことは基本的に断らない人ですが、マスメディアに出続けていることを含め、僕には理解できないところも少なくありません。どこか掴みどころのない不思議な人なんです」

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