“レンタル家族”サービスの是非を問う実話系社会派ドラマ『レンタル×ファミリー』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館
塩谷瞬はレンタル業務を実体験
阪本武仁監督が映画界に関わったのは、井筒和幸監督の『パッチギ!』(04)に演出部のボランティアとして参加したのが最初だった。主演の塩谷瞬とはそれ以来の付き合いとなる。
阪本「掴みどころのない石井さんをモデルにした主人公は誰が適任か。『パッチギ!』には桐谷健太さん、高岡蒼佑さん、加瀬亮さんらも出演していましたが、三上役に最適だと思えたのは塩谷さんでした。シングルマザーがどんどんハマってしまう、甘いビジュアルとミステリアスな雰囲気が、主人公役にぴったりでした」
塩谷に出演を打診したところ、すぐに快諾してもらえた。原作者と主演俳優を引き合わせるために食事の席を阪本監督がセッティングしたところ、2人はたちまち意気投合。塩谷は石井氏が経営する会社「ファミリーロマンス」に登録し、レンタル業務を体験した上で本作の撮影に臨んでいる。
阪本「塩谷さんは人間レンタルというサービスにかなり興味があるようです。塩谷さんだけでなく、レンタル家族サービスに代行スタッフとして登録している俳優はけっこういるようです。お受験などの面談で父親代行を急遽頼まなくてはならない状況があることは、僕にも理解できます。しかし、ずっと子どもに本当の父親だと信じ込ませたままでいることには、僕は正直なところ抵抗を感じます。劇中で三上を取材するディレクター役を石井さんに演じてもらったのは、石井さんにレンタル家族というサービスを客観的に見つめ直してほしいという潜在的な気持ちがあったからかもしれません」
日本社会は家族を単位にして、地域社会や血縁社会が成り立ってきたが、家族や社会のあり方は大きく変わってしまった。家事代行や介護と同じように、家族の存在そのものを民間企業に求めることを考える人たちがいるという現実がある。
阪本「レンタル家族だけが選択肢ではないはずという僕個人の考えから、最終エピソードの主人公となる菜々子には、レンタル家族とは異なる新しいコミュニティーを見つける物語にしています。レンタル家族について、僕は全否定も全肯定もしていません。映画をご覧になった方たちに、考えてもらいたいんです」
「本物以上の喜び」を与える会社経営者
阪本監督の話がひと段落したところで、タイミングよく石井裕一氏が登場した。にこやかな表情で、礼儀正しく名刺を差し出す。「株式会社ファミリーロマンス 代表取締役 石井裕一」と名刺にはあり、裏面には「本物以上の喜びを HAPPIER THAN REAL」という言葉が記されている。
石井「おかげさまで、会社の業績は順調です。コロナ禍中は結婚式の代理出席などの依頼は減りましたが、メインにしているレンタル家族の依頼は増え続けています。現場が好きなもので、経営者である僕自身も、現場に出て代行サービスを務めています。つい先日も葬式に代理参列してきました。亡くなった父親とは不仲だったため、最期まで会いたくないという方からの依頼でした。葬式の参列者は僕ひとりでした」
石井氏は高校卒業後は介護の専門学校に通い、介護の現場を経験。また、身長180cm以上あるルックスは見栄えがよく、芸能事務所に登録して役者を目指していた時期もあったそうだ。そうした体験を生かし、レンタル父親やレンタル彼氏、不倫の謝罪代行、集客に悩む地下アイドルの観客代行など、さまざまなニーズに対応している。
石井「介護を学んだこともあって、お年寄りのお世話などをするのが好きなんです。人と会話することでコミュニケーションを築いていく、この仕事に面白さを感じています。うさん臭く感じる人がいることは分かります。それもあって、テレビや雑誌からの取材依頼は断らず、ちゃんとした会社であることを説明するようにしているんです。依頼者からはいろんな案件が寄せられますが、もちろん犯罪に関わるようなケースはお断りしています」
どんな質問を投げ掛けても、淀みなく答え続ける石井氏だった。『アギーレ/神の怒り』(72)や『カスパー・ハウザーの謎』(74)など奇人変人たちを主人公にした実話ベースの怪作を撮り続けてきたヘルツォーク監督が、彼を主演にした映画を撮りたくなった理由が分かるような気がしてきた。
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