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結成28年目で注目され始めたテンダラー、見た目とのギャップと唯一無二の名人芸

結成28年目で注目され始めたテンダラー、見た目とのギャップと唯一無二の名人芸の画像1
テンダラーの(左)白川、(右)浜本 Twitter(@hammer1974)より

 ここ最近、ネット上で取り上げられる芸人関連のニュースはどちらかと言えば炎上ネタや誰が誰を批判した、あのコンビが解散したなど、比較的平和では無い話題が多い。

 そんな中、とても平和で微笑ましいニュース?が飛び込んできた。M-1ラストイヤーの敗北から一転、芸歴16年以上のベテラン漫才師のナンバーワンを決める大会「THE SECOND~漫才トーナメント~」で見事ファイナル進出を決めたお笑いコンビ「金属バット」のボケ、小林圭輔さんのツイートが微笑ましい話題となっているのだ。

 31日、小林さんのツイッターに下記の文章と共にメッセージ付きのタバコワンカートンの写真が投稿された。

「タバコ1本くれへん?」
「いいですよ」
「今度返すわ」
「カートンで頼んます」

数日後NGKに行くとスタッフさんから渡されました
かっこよろしいな

 そして写真に映されたメッセージには

「テンダラー浜本さんから 金属バット小林さんへ 5/30お渡し」

と。

 ツイートの文章とタバコに添えられていたメッセージで大方のストーリーは想像出来る。想像の内容を具体的に書くと野暮なのであえて書きはしないが、何ともカッコいい先輩だ。

 ファンの方達もこのやり取りに惹かれており、「痺れる」や「カッコよすぎる」など称賛の称賛する声が寄せられた。中には「太っ腹」や「何というわらしべ」など少しズレたコメントも混じっていたが、それでも「テンダラー」浜本さんの芸人らしさというか、先輩らしさというか、何とも言えない粋なカッコよさは伝わっているだろう。

 テンダラー浜本広晃さんと言えば、金属バットさんと同じく「THE SECOND」のファイナリストになり、初戦で惜しくも敗退してしまったが、その実力や存在感はまさにファイナリストと言ったところ。アンバサダーである松本さんの「浜本はあんなことあってね。それも込み込みで面白かった」と過去の不倫報道をいじられてしまい、ネットでは「浜本何があった?」と検索する人が多くなってしまい、漫才とは違うところで大きな話題となってしまった。

 僕が芸人をしていた頃、テンダラーさんとは数回お会いしたことがある。最初はNHKで放送されていた「オンエアバトル」。第3回チャンピオン大会のセミファイナルでは直接戦っている。そしてその後は何かの賞レースに参加した際に司会をされていた。同じ番組に出たことがあるとはいえ、全くと言っていいほど交流は無かったのだが、緊張している僕に笑顔で話しかけてくれたことを鮮明に覚えている。ただなんの賞レースだったかはまったく覚えていない。

 大阪ではメジャーな芸人であった「テンダラー」さんだったが、正直なところ東京での知名度はあまり芳しいものでは無かった。しかし「THE SECOND」で久しぶりに見た「テンダラー」さんは、努力を積み重ねていたことが一目でわかるほど進化しており、参加した芸人の中で唯一“名人芸”と言える出来栄えであった。

 大会をご覧になった皆さんは浜本さんのどこに注目しただろうか? 浜本さんのシュッとした見た目から、しゃべくり漫才をイメージする人が多いと思うが、浜本さんの武器はその動きだ。なので大半の人は見た目とボケのスタイルのギャップに驚き、動きに注目してしまったと思う。

 しかし本当に名人芸と呼べるポイントは動きではなく、その“表情”だ。お笑いにおける芝居というのは、演劇とは違い、一瞬で感情が変わる。さっきまで笑っていたのに急に怒ったり、真剣な話かと思えばいきなりふざけたり。この感情の切り替えの早さがお笑い芝居であり、これは漫才でもコントでも使用する演技法だ。

 この感情の切り替えは明らかにコントより漫才の方がスピードが早く、使用頻度も多い。漫才の基本はツッコミがストーリーを進行している最中にボケが余計な事をするというものなので、突っ込むたびに感情が切り替わる。なのでボケは基本的にマイペースに感情を切り替えていくのだが、テンダラーさんの場合、浜本さんが瞬時に独自の世界に入り込むので、ボケの感情が一気に変わるのだ。

 さらに突っ込まれた後に我に返るという演技が入っているので、とんでもないスピードで感情を変化させている。そしてその全ての感情変化に対して表情をつけているので、百面相並みに顔が変化している。しかも感情と共に大げさに変化しているので、違和感なく面白いというとんでもないテクニックを披露していたのだ。

 動きが面白い芸人は数多くいるが、動きと表情が一番面白い状態でシンクロし、それをお客さんに自然に見せられる芸人はほとんどいないだろう。見た目とのギャップにより面白さを倍増し、浜本さんしか出来ない動きと表情のシンクロは唯一無二の名人芸と言える。

 ではなぜそこまで凄い武器を持っているのに「THE SECOND」で敗退してしまったのか。先輩芸人のネタに意見を言うのはおこがましいので、僕の偏見として聞いてほしいのだが、まずネタがオムニバス形式であったこと。戦った「ギャロップ」さんは最初から最後まで一貫して“カツラ”をボケの主軸としていたが、テンダラーさんは次から次へ設定が展開していくネタであった。

 ネタが別の展開を見せるとどうしても見ているお客さんの感情がリセットされてしまい笑いが繋がらないのだ。お客さんを飽きさせない工夫であったとは思うのだが、6分間目まぐるしく展開する漫才はお客さんにとって少し平坦なネタに見えてしまったかもしれない。

 さらに浜本さんのボケがオリジナリティ溢れているだけに、相方「白川悟実」さんのツッコミがオーソドックス過ぎてそのバランスの悪さも気になってしまった。浜本さんのボケはツッコミサイドから見るとワクワクするボケで、如何に自分が上手く振り回されるか楽しみになるボケである。

 しかし白川さんのツッコミはオーソドックス過ぎるので、どこでつっこむ、どんなフレーズでつっこむかを想像しやすく、そこに裏切りが無い。なのですごくベーシックなネタに見えてしまうのだ。王道の漫才でなくなっても良いので、突っ込まずに1分くらいひたすらボケさせたり、逆にすぐに止めてボケさせないようにしたり、無視してひたすら話を進めたり、会場から去ってみたり、いろいろな方法で浜本さんに振り回されればもっとテンダラーさんの魅力が詰まった個性的なネタになりそうな気がする。これはあくまでも僕個人の意見なので、それが正解と言うわけでは無いのはご了承ください。

 結成28年目にして、良い意味で注目され始めたテンダラーさん。この調子で全国区芸人となり、今よりももっと活躍してほしい。これは僕を含めたファンの総意だろう。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/06/02 07:00
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