トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「長篠の戦い」と家康の長女・亀姫の関係
歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『どうする家康』長篠の救出劇へ…家康の長女・亀姫と奥平信昌の結婚話はどう描かれる?

奥平信昌は妻を見捨て、亀姫との結婚を選んだ

『どうする家康』長篠の救出劇へ…家康の長女・亀姫と奥平信昌の結婚話はどう描かれる?の画像2
亀姫(當真あみ)と瀬名(有村架純)、松平信康(細田佳央太)ら| ドラマ公式サイトより

 ところで信昌は、分家筋の奥平貞友の娘・おふうという女性と結婚していたとされます。しかし、元亀元年(1570年)から彼女の身柄は武田家に人質として差し出されていました。それから3年後、信昌が武田を裏切り、徳川方についたことが確定すると、勝頼の命令により、おふうは他に二人いた人質たちと共に磔(はりつけ)にされてしまったという哀れな末路が伝えられています。これが一説に天正元年の話です。

 もっとも、武田の人質となった元亀元年の時点で、おふうは数え年13歳の少女にすぎず、信昌との結婚は形式的なものに過ぎなかったのではないか……とも思われます。妻というより、幼い婚約者という感じでしょうか。信昌はそんなおふうを、武田を裏切って徳川方に付くことで、“捨てた”わけです。信昌が亀姫との婚約・結婚話を受諾したのは、家康という将来が期待される有力者の娘婿となり、その一門に名を連ねることが彼にとって最善策であると冷徹に判断したからでしょう。この結婚のエピソードからは、戦国期における中小勢力の武士たちの生き残りが、いかに厳しかったかが読み取れるような気がします。

 こうして信昌は長篠の戦いの後の天正4年(1576年)、亀姫と再婚することになりますが、その夫婦仲を具体的に知ることができる逸話はあまり残されてはいません。しかし、2人は4人の男子と1人の娘をもうけました。また、信昌は側室を持つことはありませんでした。こうした事実から亀姫との仲は長期にわたってよかったとも考えられるでしょうが、「天下人」家康の娘婿としての地位を保ちたい信昌にとっては、妻、ひいては義理の父親の機嫌を損ないかねないような問題は極力避けたかったというのが、秘められた本音かもしれません。

 信昌と亀姫の政略的な結婚についてはこのように背景が明白ゆえに、ドラマ第21回で描かれるという、信長が家康に提示する参戦の「驚くべき条件」には当たらないような気がします。個人的には、家康の重臣・酒井忠次(大森南朋さん)を「オレに寄越せ(もしくは、しばらく貸してくれ)」という“スカウト”が条件になるのではないか……と考えてしまいました。

 長篠の戦いは、武田の騎馬軍を打ち破った信長の鉄砲隊の大活躍ばかりが注目されがちですが、それはフィナーレに過ぎません。戦いを徳川・織田連合軍の勝利に向けて大きく動かしたのは、酒井忠次が信長の軍議において考案し、信長を感嘆させたとまでいわれた鳶ヶ巣山砦奇襲作戦の成功でした。それゆえに、ドラマの信長が忠次に目を付ける展開もあるのではと思った次第です。史実の忠次は、本来の主君である家康を飛び越えて信長と意気投合する場面もしばしばあったと考えられており、ドラマでも信長と忠次の意外なツーカーぶりが描かれるかもしれません。

 しかし、次回・第21回「長篠を救え!」では開戦まで話が進むようにも思えず、件の奇襲作戦がドラマで描かれたとしても第22回以降の話でしょう。次回はその前段階、つまり奥平信昌が守る徳川方の有力な軍事拠点・長篠城を武田勝頼の大軍が取り囲み、窮地に陥った長篠を救うか否かが話のメインとなるであろうと考えられます。

 わずか500の兵しかいない長篠城を15000もの武田軍が取り囲んだのが、天正3年(1575年)5月のこと。武田軍の攻撃によって同城の兵糧庫は炎上し、城内は食糧不足に悩まされたとされており、一説には、奥平軍は川から採ったタニシなどを食べ、飢えをしのぐしかない惨状だったといいます。

 そこに鳥居強右衛門という雑兵が伝令役を志願し、家康に救援要請を出すため武田軍の包囲をかいくぐって岡崎城まで向かうのですが、彼の活躍をドラマでは「名もなきヒーロー、戦国版“走れメロス”」として描くようです。もっとも、長篠城は川沿いに位置していて、史実の強右衛門は水泳の達人だったということもあり、岡崎までの約60キロは、走破したというよりも主に水中を移動したのではと考えられますが……。

 次回は、岡崎城において、瀬名と武田の歩き巫女・千代(古川琴音さん)がお互いを味方に取り込もうと直接対決するシーンも見どころとなるでしょうが、ドラマでこれまで描かれてきた性格を考えれば瀬名が武田方に付くことはありえないでしょうし、千代とてそう簡単に篭絡できないでしょうから、これは決裂することが(ほぼ)確実です。となれば、次に千代が狙うのは、人間としてかなり未熟な五徳でしょう。ドラマの五徳であれば、「瀬名と信康は裏で武田と組んでいて、信長の身をも危うくしている」などといった怪情報も容易く信じ込んでしまいそうな気もするのですよね……。ドラマの瀬名と信康が亡くなるまでの流れは、多くの史書で語られてきた内容から大きく逸脱しないものになりそうな気がしてきましたが、瀬名は「家康を命がけで守って死んでしまう」ということにもなりそうですから、驚くような展開が待ち構えているかもしれません。今後の放送が恐ろしくもあり、楽しみでもあります。

<過去記事はコチラ>

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/06/04 11:00
12
ページ上部へ戻る

配給映画