「リトルタケシ」と呼ばれた二ノ宮隆太郎監督作『逃げきれた夢』 人生の岐路に立つ男の悲喜劇
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館 #光石研
起承転結にはこだわらないというこだわり
大事件は起きない周平の物語は、どんなクライマックスを迎えるのだろうか。家族との対話もチグハグなままの周平は、かつての教え子・南を連れて、北九州市の黒崎商店街を散策する。レトロな雰囲気のする喫茶店でお茶をする2人だが、ここで南が重大な告白をする。他人のリアクションの薄さを嘆いていた周平だったが、彼自身も年齢の離れた南に対し、彼女が期待しているような言葉をうまく返すことができない。
生き方を改めよう、真摯に人に向き合ってみよう。そう思い立っても、人間の性格は急には変われない。親子ほど年齢の離れた教師と元教え子の言葉のやりとりは、リアルさとシビアさの狭間で揺れ動きながら、ラストシーンへと向かっていく。起承転結という物語の流れからこぼれ落ちていく表情や仕草が、観ている者の胸をチクチクと刺す。
二ノ宮「起承転結に当てはめようとは考えていませんし、起承転結から外そうとも考えていないんです。映画全体のバランスは重視しています。心のささやかな動きを描きたいと思って、制作した作品です」
希望を感じさせるエンディングなのか、それともシビアな結末なのか。タイトルの『逃げきれた夢』も、どこか苦味を感じさせる。
二ノ宮「観ていただいたお客さんに、自由に感じてもらえればと思っています」
言葉では語り尽くせない二ノ宮隆太郎の世界
6月30日(金)より公開される福永壮志監督の『山女』ではメインキャストのひとりに選ばれるなど、俳優としての注目度も高まっている二ノ宮監督。「リトルタケシ」と呼ばれた初期作品のように、監督と出演を兼ねるスタイルはもうないのだろうか。
二ノ宮「リトルタケシなんて呼んでもらって、本当にありがたいです(照笑)。自分が北野さんみたいにもっと有名だったら、監督と出演の話も来るんでしょうが、それはないと思うんで。自分では監督と出演を絶対にしないわけではなく、自分が監督する作品で、自分みたいなのが必要になった場合は出ることもあると思います。必要がなければ出ないということです。俳優としては“キャラもの”である自分を呼んでくれる作品があれば、作品づくりに少しでも貢献できるよう全力で努めるつもりでいます」
終始にこやかに語る二ノ宮監督だったが、ふだん取材している商業映画の監督たちとは異なる不思議な雰囲気の持ち主だった。お互いの言葉と言葉は時折すれ違い、質問を重ねれば重ねるほど、二ノ宮監督が実像から離れていくような気がした。劇中の周平と会話しているような感覚に陥った。二ノ宮隆太郎と彼が撮る作品には、言葉では語り尽くせない独特な味わいがあることは確かである。
『逃げきれた夢』
監督・脚本・二ノ宮隆太郎 撮影/四宮秀俊
出演/光石研、吉本実憂、工藤遥、杏花、岡本麗、光石禎弘、坂井真紀、松重豊
配給/キノフィルムズ 6月9日(金)より新宿武蔵野館、渋谷シアターイメージフォーラムほか全国ロードショー
©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ
nigekiretayume.jp
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