「リトルタケシ」と呼ばれた二ノ宮隆太郎監督作『逃げきれた夢』 人生の岐路に立つ男の悲喜劇
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光石研に、二ノ宮監督が魅了される理由
二ノ宮隆太郎監督がリスペクトしてやまない俳優・光石研。二ノ宮監督が光石をイメージして書き上げたシナリオが「フィルメックス新人監督賞」グランプリを2019年に受賞したことから、『逃げきれた夢』の制作が本格化した。カンヌ国際映画祭のACID(インディペンデント映画普及協会)部門に本作が正式出品され、フランスへの渡航を前にした二ノ宮監督に独特な作風について語ってもらった。
二ノ宮「自主映画として撮った『魅力の人間』や『枝葉のこと』などには自分も役者として出ていたんですが、前作の『お嬢ちゃん』は女性を主人公にして描いてみたいと思い、萩原みのりさんに出てもらいました。今回もこれまでとは違う新しいことをやってみたく、世代の異なる光石研さんが主演した映画を撮ろうと思い、光石さんに当て書きする形でシナリオを書きました。光石さんが故郷の北九州に仕事で行くことになり、僕もお願いして同行させてもらったんです。光石さんの育った地元の商店街を、半日にわたって案内してもらいました」
常に映画界で活躍を続ける光石研の存在感に、二ノ宮監督は特別な魅力を感じるという。
二ノ宮「光石さんはいろんな映画に出ていて、その佇まいに惹かれるんです。演技がすごいのはもちろんなのですが、光石さんには”そこにいる”という感覚があるんです。豊島圭介監督の『森山中教習所』(16)では俳優として僕も、光石さんと少しですが共演させていただき、光石さんの現場での過ごし方も勉強させてもらいました。どのキャストやスタッフとも分け隔てなく接している様子が印象的でした。光石さんへの憧れもあって、光石さんの所属事務所『鈍牛倶楽部』に僕も入らせてもらったほどです」
二ノ宮監督にとっては、キャスト自身の持つ存在感が重要なようだ。多彩な作品に出演し続ける光石研を、二ノ宮監督は気取らない人柄も含めて尊敬している。また、北九州を共に旅した際には地元を案内しながら自身の少年時代を語る光石に、哀愁めいた大人の魅力も感じたそうだ。この体験は、本作の終盤、周平と南が街を散策するシーンとして再現されている。
キャストの表情を逃さないカメラワーク
光石研にとって、石井裕也監督の『あぜ道のダンディ』(11)以来となる単独映画主演作は、光石の故郷・北九州で撮影された。光石演じる主人公・末永周平は、介護施設で暮らす父親のもとを訪ねる。実はこの父親役は、光石研の実の父親・光石禎弘さんだ。台詞のない役だが、映画の後半、実の息子を見つめる視線がたまらなく温かく、そして優しい。ストーリーや台詞だけを追っていると見逃してしまう、些細なショットこそが二ノ宮監督作品の真骨頂だろう。
二ノ宮「自分の父親は学校の教員をしながら、自分を育ててくれました。そんな父親の背中を見て育ったので、光石さんを主人公にした物語に父親の想いも盛り込ませてもらいました」
二ノ宮監督の父親は劇中の周平と同じように定時制高校に勤め、教頭まで務めたそうだ。本作は光石研父子の共演映画であるのと同時に、二ノ宮監督と父親の物語でもある。
映画の後半、光石研のベテラン俳優としての本領が遺憾なく発揮される。自分のこれまでの人生を振り返った周平は、妻と娘に自分の想いを吐露した挙句に「二人に好かれたいんよ。ただ、それだけ」と泣き崩れる。感情ダダ漏れ状態の周平に、唖然とする妻と娘だった。光石研の壊れっぷりが強烈だ。
撮影を担当したのは、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(21)の撮影監督を務めた四宮秀俊。二ノ宮監督とは『枝葉のこと』『お嬢ちゃん』に続いてのタッグとなる。緊張感のある長回しが特徴的な四宮のカメラワークだが、今回はカット割りを見せるなど、『枝葉のこと』『お嬢ちゃん』とは違った変化を見せている。
二ノ宮「四宮さんとは、今回は光石さん演じる周平と、周平と影響を与え合う人物を切り取る映画にしたいと事前に話しました」
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