中田敦彦の批判に反応した松本人志ツイートの意図、オリラジが愛される理由
#松本人志 #中田敦彦 #檜山豊
芸人やタレント界隈で、ここ数年で大きく変わったことがある。それはテレビ以外に発信できる媒体が増えたことだ。しかも、思ったことをそのまま発信できるYouTubeのような媒体も存在し、タレントや芸人が何にも縛られず、誰に忖度することもなく、ありのままの姿や考えを公に発信できるようになった。
とはいえ、もちろん何でもかんでも思っていることを公表するのはさすがにタレント生命を脅かす可能性があり、事務所などに所属している限り、制限なく発言することはまかり通らない。
しかし、その思ったことを誰の目も気にせず、炎上しようがどうなろうが発言できる稀有なタレントや芸人が存在する。それはどこにも所属していない芸能人だ。
もちろん、どこにも所属していない芸能人全般を指しているわけではない。知名度も低く、影響力もないような、芸能人と呼ぶこともはばかられる自称芸能人ではなく、どこにも所属はしていないが、かつてどこかに所属していて、当時テレビ等で活躍し、そして世間的には十分認知されているが、現在どこにも所属していない芸能人だ。
このどこにも所属していない、もしくは自分で事務所を立ち上げて、芸能界特有の暗黙のルールが通用しない、いわば”野良芸能人”こそ、今の芸能界で最も自由でスリリングな存在なのではないだろうか。
さらに、この野良芸能人が人並外れた知能を持ち合わせていると、手がつけられない。なぜなら、何をどうすれば世論が動き、自身に注目を集めることが出来るかわかっているからだ。自分が思い描いた通りに世間を動かし、注目を集めることにより、自身の考えに賛同する人間を増やし、いずれは自分を頂点とする巨大なピラミッドを築き上げる事が出来てしまうからだ。
とまあ、後半は明らかに妄想なのだが、実際に多大な影響力を持ち、自分の意見を他者に左右されることなく思ったまま発信できる稀有な芸人が、また話題を振りまいてくれた。それはオリエンタルラジオの「中田敦彦」さんだ。
中田さんのYouTubeチャンネル「中田敦彦のYouTube大学-NAKATA UNIVERSITY」で5月29日に「【松本人志への提言】審査員という権力」という動画が投稿された。冒頭で先日の「THE SECOND~漫才トーナメント~」の感想を述べ、次第に漫才至上主義という話になり、その流れであらゆる賞レースの審査員にダウンタウンの松本さんがいることを問題視したのだ。
「他の業界だったら信じられないくらいの独占状態」「松本さんが面白いって言うか言わないかで新人のキャリアが変わる」「松本さんに対して何も物が言えない」「審査員何個かやめてくれないですか? 松本色が濃すぎて、おなかいっぱいになっちゃってる」など45分近く、お笑い界の権力一極集中を指摘していた。また、この話以外にも数々の苦言を呈しており、それが物議を醸している。
この動画を受けて、中田さんの相方「藤森慎吾」さんも、自身のYouTubeチャンネル「藤森慎吾のYouTubeチャンネル」で「相方へ。」という動画を投稿した。それは「平穏な暮らしがしたい」という言葉から始まり、自身の思いが吐露されていた。
中田さんの主張に対し「そんな事言わなくていい」と断言し、「審査員をやって当然だと思うし、松本さんがいらっしゃるからこそ大会の価値も上がる」と発言。さらに“松本さんに認められる為にネタをやるという価値観に違和感を感じる”という中田さんの考えに対し「それはそれはでいいんじゃないかなと思う。自分の面白いと思う人に認めてもらいたいと思うのは自然なことで、そこに情熱を傾けて毎日相方とネタ合わせする若手の後輩の芸人たちも、その努力は俺は素敵なものだと思う」と語った。
「誰も言わない事、やったことない事をあっちゃんは芸人としてやりたい人なんだよね」と中田さんへのフォローも入れつつ、自身は「ケンカとか争いごとしてたらお腹がキリキリしちゃう」と、中田さんとは真逆で誰かに噛みついて歴史を変えたいのではなく、平穏に芸能生活を送りたいというスタンスを提示した。
この二人のバランスこそ「オリエンタルラジオ」さんが愛される理由であり、今も第一線で活躍している要因だろう。
中田さんの動画を受けて、言及された松本さんもツイッターで下記のように投稿した。
「テレビとかYouTubeとか関係なく2人だけで話せばいいじゃん(笑顔)連絡待ってる!」
詳細が書かれていないので真意はわからないが、これは間違いなく中田さんの動画に対するアンサーだと思っていいだろう。『テレビとかYouTubeとか関係なく』という所に松本さんの意図を感じずにはいられない。中田さんは間違いなくエンターテイメントとしてこの“騒動”を起こしたはずだ。しかし、松本さんからエンターテイメントとは関係なく話をしようと言われたら、中田さんが描いていた道筋が狂ってしまうのではないだろうか。エンターテイメント外で松本さんに意見を言うのは何の意味もないし、ただの失礼な行為である。なぜ失礼か。それは中田さんが芸人だからだ。
今のお笑い界がそうならそれに合わせるのが現役の芸人がやるべきことであり、問題があるならそれをどうクリアするか、自分のやり方が違うならどう合わせるのかを考えるのが現役の芸人の仕事なのだ。
中田さんの中で今のお笑い界のシステムを変えたいと思う気持ちがあるのだろうが、そんなもの過去の芸人だって同じような気持ちを抱いていたはずだ。その時代に合ったシステムがあり、それに対して疑問を持ち、いつかこのシステムを変えてやろうと思う芸人は山ほどいたであろう。
というか、ほとんどの芸人がそう思っている。しかし、その時代のシステムを変えるのは言葉ではなく行動であり、渦中の松本さんも、自身の力で時代を変えた一人である。ダウンタウンさんに憧れた芸人たちは、ネタの面白さやブーム感に憧れたわけではなく、お笑い界を目の前で改革していく姿に憧れたのだ。
もし中田さんが今のお笑い界を改革したいと思っているなら、今のやり方は芸人らしからぬやり方だ。面白いと思われることをするのが芸人であり、面白いというのは笑顔になる事だ。ドキドキしたりスリルを味わったり、笑顔にならない「面白い」は本来芸人が責任を負う面白さではないのだ。芸人なら万人を笑顔にする「面白い」を追求してほしい。もし中田さんがもう“芸人”の枠にいないというのなら、お笑い界のことに口出ししない方が良い。
さらに、松本さんの恩で売れたことがないから自分の発信する所で言っている、ということも言っているのだが、今のお笑い界の形になったのは間違いなくダウンタウンさんが存在していたからだ。そうなると、今活躍している芸人は皆ダウンタウンさんの作り変えたお笑い界によって売れたと言える。直接何か恩がないからといってそう思うのはとても短絡的で、とても浅はかな考えで、思慮深いイメージのある中田さんが本当に思っているのか、にわかには信じがたい。
中田さんの発言は全て問題があるわけではなく、むしろそうだと思うものが多い。「松本さんが『もっと点数入っても良かったと思いますけどね』って言ったら、順位が低くてももの凄くフォーカスされたりする」という発言も、確かにその通りで、松本さん自身もそれを狙っての発言だと思う。順位が低いからといってノーチャンスで終わらせないという松本さんの優しさなのではないだろうか。これの一体どこが問題なのだろう。
ちなみに動画の中で「松本さんに対して何も言えない空気ってすっごいある」という話の流れで「松本さんの映画が面白いか面白くないかって誰も言わないんだよ芸人が」という発言をしたのだが、映画に対して誰も何も言わないのは、松本さんに対して何も言えない空気とは全く別の話な気がする。
確かに松本さんが作った映画「大日本人」や「しんぼる」はすぐに理解できる作品ではなく、僕も正直面白いとは思わなかった。しかし、面白くないと言えないのは、理解しづらい作品だからだ。面白い面白くないは理解した上で結果として出てくる答えで、理解する前に判断するなら「わからない」なのだ。特に我々のような一般的な面白さを求めている人間にはよりわかりづらく、松本さん自身も自分の面白いと思うことは「サブカル的なもの」と言い、決して大衆受けするものではないと、3月24日に放送された「人志松本の酒のツマミになる話」の中で語っていた。
ダウンタウンさんが大衆受けしたのは“超ベタ”である相方の浜田雅功さんが松本さんの「サブカル的笑い」を中和してくれていたからだと。さらに共演していたラッパーの呂布カルマさんに「松本さんが1人で作った作品はめちゃくちゃニッチなことしていた」と言われ、それに対して松本さんも「ニッチでしょ?そうなんですよね」と返答。
ご自身が大衆受けしないと言っている作品なので他人が面白くないといっても問題ないと思うが、芸人がなぜ誰も面白くないと言わないか。それは単純に先輩芸人の作った映画をわざわざ否定する必要がないからだ。それこそ芸人ならば面白くないという直接的な表現ではなく、もっとトンチの効いた面白い表現で面白くないというだろう。それが芸人の本質であり、芸人ならではの否定する形なのだ。なので芸人は松本さんの映画に対して直接面白いか面白くないか言わないのだ。
こういう書き方をすると松本さんを擁護しているように感じられるかもしれないが、中田さんは後輩芸人としてどうしても礼儀を欠いているように思えてしまうし、もし先輩を利用して話題作りをしたいのならば、利用の仕方が違う気がしてならない。もしすでに芸人という位置にいないというのであれば、余計に芸人の先輩を侮辱しないでほしいと思う。
SNSでは「勇気ある提言」と評価する声も上がっていたが、中田さんの発言に嫌悪感を抱く意見も多く寄せられた。視聴者が必要としていたのは中田さんの「勇気」ではなく「男気」だったのかもしれない。
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