「宗教がない世界」のポンコツ神ファンタジー『神無き世界のカミサマ活動』の魅力
#吉松ゴリラ
人生のほとんどをお笑いとマンガにつぎ込んできた男が、今注目すべき異世界マンガ作品をピックアップしてご紹介。 あくまでこれは、吉松ゴリラの超個人的主観である――。
「神無き世界のカミサマ活動」!
今期アニメが絶賛放映中の「神無き世界のカミサマ活動」。絵柄自体は世界観に入り込みやすいポップな絵柄だが、10割10分10厘「グラップラー刃牙」に影響を受けているであろう筆者のマンガ的表現は、宗教布教をテーマにしながらも格闘術の体捌きや効果音が無駄にリアル。またギャグシーンが多めだが、不思議とギャグシーンにこそ、その画力が惜しみなく投入されているという謎を残す。
名作「銀魂」のように、ギャグをベースにストーリーを進めながらも、物語に軸があり、楽しみながら読み進める事が出来る、ポンコツ神ファンタジー。
ストーリー!
主人公はカルト宗教の教祖の息子「卜部征人(うらべゆきと)」。彼は次期教祖となるための儀式に無理矢理参加させられ、その最中の事故で命を落としてしまう。そんな彼は死の刹那の望み通り「神も宗教も存在しない世界」に転生する。この世界では「神」という概念は存在せず、それに伴い人々の死生観はどこかイビツ。ちなみに「異世界転生」としながらも、生まれ変わるというより「卜部ユキトとして」異世界の地に降り立っているため、「異世界召喚」に近いのかもしれない。
そんな彼の側に張り付いて離れないのは、全知全能の神たる「ミタマ」。幼い姿をしているポンコツ少女は、実はユキトが現世で信仰していた「神」そのものである。彼女の力は、信者の数に応じて強さが変わるが、当然異世界での信者数は0。そうしてユキトは、自分を救ってくれた村を敵から守るため、信者を集めミタマの力を取り戻し、闘う事を決意する。
そして彼はこの世界に「宗教」と「神」を作り出す……。
魅力!
この「神無き世界のカミサマ活動」の魅力は、その「切り口」と「切り口を活かす舞台設定」に他ならない。毎話毎話の面白さもさる事ながら、全ての話の土台となる「初期設定の発想」がこの名作を生んでいるのである。
「異世界転生マンガ」というジャンルは、ネットマンガを中心にスタートし、たった数年で圧倒的速度で進化をしてきた。王道の「バトル系」から始まり、個人戦ではなく国と国との闘争となる「領地開拓系」、剣と魔法の世界なのに闘わない「スローライフ系」、主人公が今後起こる全てのストーリー展開を知っている「ゲーム内転生系」と、まるで大喜利の如く切り口の上に切り口を重ね発展していった。
しかしその中で「宗教の流布」をテーマの中心に据えた本作品は、他の何にも被らない新ジャンルを形成している。言ってしまえば「ウォーキングデッドって、“ゾンビに滅ぼされた世界”という設定を考えた時点で、もう勝ちだよね」という感覚に近く、初期設定の時点で本作品の面白さは確定しているのだ。
また「神無き世界のカミサマ活動」では、「宗教が無い世界」という切り口を十二分に活かす舞台設定が準備されており、読み進めるごとにこの世界の深淵を更に覗く事が出来るのも魅力。
それは「“宗教が無い世界”だからこその死生観」から始まり、それを辿ると「その死生観を生んだ原因」に繋がり、果ては「異世界そのものの設定」へ移行する。
時に重くなりがちなテーマも、あくまでポンコツ神ファンタジーとしてギャグベースに語られており、読み手に全くストレスがかからない。もしかして「宗教」という重いテーマをライトに提供すべく、ミタマ様は筆者にギャグキャラにされてしまったのかもしれない。とにかく随所にこのような物語の仕掛けが施されており、今後も数多くの驚きを提供してくれるだろう。
ちなみにスピンオフで「神無き世界のおねーちゃん活動」という作品も現在連載中だ。こちらも本作品の設定を踏襲しながらも、更にバカバカしい設定を盛り込んで物語が展開されている。
そちらも併せて是非、ご一読頂きたい。
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