井森美幸、浜口京子を通して見るバラエティ考
#テレビ日記 #飲用てれび
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(5月21~27日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
井森美幸「(憧れてるのは)高田純次さん。なんかこう、なんとなく」
2022年に大阪から東京に活動拠点を移したエルフの荒川が、24日の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)でこんなことを言っていた。
「女性タレントさん、平場強すぎません?」
大阪はテレビ番組の出演者が芸人中心だ。しかし、東京ではタレントと共演する機会が多い。そんななか、荒川が気づいたのが女性タレントの“平場”の強さだという。たとえば、少しでも緩いトークをするとすぐに若槻千夏にトークをとられてしまう。井森美幸、ベッキー、朝日奈央とクイズ番組で共演すると「ボッコボコ」にされてしまう。
「私、朝起きてもまだスベってたんですよ」
確かに、東京のテレビ番組は大阪に比べてタレントが多い。特に女性タレントは群雄割拠だ。朝日奈央やみちょぱ、藤田ニコルなどはここ5年ぐらいテレビに出続けているし、あのや村重杏奈、ゆうちゃみといった面々も新たに出てきている。若槻千夏を改めてテレビで見る機会が増えて久しいし、最近はMEGUMIもよく見る。ベッキーも復調傾向で、井森美幸や松本明子、島崎和歌子といった面々も元気だ。YOU、磯山さやか、菊地亜美、野呂佳代、佐藤栞里、滝沢カレン、王林、井上咲楽、ファーストサマーウイカ――もっと名前を挙げることもできる。
そんななか、25日の『アメトーーク』(テレビ朝日系)で「井森美幸大好き芸人」が放送されていた。タイトルどおり、井森の魅力を芸人たちが語る企画である。
考えてみれば、井森は謎である。ずっとテレビに出ている。面白い人だ。が、それ以上のことはよくわからない。芸人がテレビの“裏”を語る機会が増えるのに伴い、女性タレントの多くもテレビで売れるための戦略やテクニックなどを語ることが増えているように思うけれど、井森は自分自身についてほとんど語らない。「裸のトークバラエティ」を標榜する『あちこちオードリー』(テレビ東京系)に出演した際は、そのトークの“浅さ”を若林正恭(オードリー)にツッコまれていた。
この日の『アメトーーク』は大きく分けて2部構成。前半では、芸人たちだけで井森の魅力が語られた。芸人らは口をそろえて「共演者にいてくれると助かる」と語る。いわく、トークをつないでパスしてくれるし、イジられたときの返しも秀逸だ。カメラが回っていないところで出演者を盛り上げたりもする。あるいは、スタッフが編集しやすいようにトークをするのだという。井森自身がほとんど語らない、タレントとしてのテクニックのようなものが語られていった。
で、番組後半は井森も登場。共演の多い芸人たちにとっても謎が多い井森に対し、さまざまな質問が投げかけられる。井森がそれに答える。が、その返答にはやはり中身がほぼない。井森いわく、子どものころは餅が好きではなかった、シャツが好き(特に左胸にポケットがついているもの)、パジャマが好き(特に綿100%のもの)――ずっとこの調子で話し続けるのだ。そしてそれが、とても面白い。
この日、井森が自身の“内面”について直接的に語ったのは「(憧れてるのは)高田純次さん」と言ったときだけだっただろうか。しかも「なんかこう、なんとなく」と付け足しながら。
それにしても、なぜこんなに井森が面白いのだろう。ひとつは、“深い”トークが期待される場面で“浅い”トークをするから面白い、という面があるはずだ。加えて、自分についておそらくあまり語りたがらないのだろう井森は、深いところを聞いてこようとする芸人たちの質問をかわしていくが、そのかわし方が面白いのだと思う。
たとえば、「怒ったことってあるんですか?」と聞かれた井森は、「シャツ、私好きじゃない?」と語りはじめた。「怒ったこと」というトークテーマからかなり遠くにある「私はシャツ好き」との情報。おそらく井森は、質問にすぐに答えずに回答を遅延させることで、自分について語らなければならないような状況をかわしているのだと思う。で、質問から相当距離のある答えがいきなり投下されるから、見る側はその意外さに笑ってしまう。
本質をたずねるようなトークの包囲網を、井森は身をよじってすり抜けていく。そんなさまに、彼女の面白さが宿っているのではないか。なんかこう、なんとなく。
浜口京子「はーな、はーな、お花のタイム」
バラエティ番組にはさまざまな女性タレントが出ているけれど、彼女ほど言動が謎で、振る舞いが無軌道な人もいないかもしれない。女子レスリングで活躍し、現在はタレントとしても活動する浜口京子である。
22日の『キョコロヒー』(テレビ朝日系)には、そんな浜口がゲスト出演していた。さまざまなコーナーがあったけれど、ここでは「浜口京子さんになりたいクイズ」を振り返ろう。ヒコロヒーと齊藤京子(日向坂46)に浜口のような心優しい人間になってもらうため、浜口が考えていることや体験したことを出題するクイズである。
そのルールが絶妙だった。クイズに正解すると浜口からお花が3本もらえる。が、不正解でも浜口が素敵に感じた解答には、素敵度に応じた本数のお花がプレゼントされる。素敵度って何? という話だが、とにかくそういうルールだ。
で、浜口の考える理想のデートプランなどのクイズに齊藤やヒコロヒーが答えていくのだが、浜口はどんどんお花を配る。「はーな、はーな、お花のタイム」などと口ずさみ、踊りながらお花を渡す。正解したら3本どころかもっと渡す。素敵な解答にも3本どころかもっと渡す。素敵でなくても何かと理由をつけて渡す。
もはや、ルールはあってないようなものである。というか、ここでは浜口がルールである。そんな彼女が齊藤やヒコロヒーを翻弄していくさまが面白かった。
スポーツ界出身で、バラエティ番組にも積極的に出演するタレントにしばしば見受けられるのが、彼ら彼女らが想定しているのであろう面白いバラエティ番組のイメージに、技量が追いついていないパターンだ。もちろんその奮闘ぶりは理解する。がんばりも認める。けれど、うまくいってなさが目についてしまうのも確かだ。うまくいっていないから、がんばっているように見えてしまう。
一方、浜口は自身がイメージする面白いバラエティ番組を、ほぼ完璧に遂行できているはずだ。ただ、彼女の頭のなかにある面白いバラエティ番組のイメージは、少し変わっているのだと思う。
だとしたら、浜口が周囲を楽しませ、私たちがそれを見て笑うとき、ここにはある意味で幸福なすれ違いがある。浜口は笑ってほしいと思っている。そのミッションをほぼイメージ通りに完遂できている。それを受け取る私たちは、実際に笑う。けれど、本当は最初からズレているのだ。そして、自分は完璧にできているはずなのに周囲のリアクションが想定とは少し違う、そこに微かに疑問を感じている様子の浜口に、愛おしさを伴った面白さを私たちはさらに感じてしまう。
では、浜口が考える面白いバラエティ番組のイメージの全貌はどうなっているのだろう。――と次なる疑問が出てくるわけだが、そこは触れないほうがいいかもしれない。謎のままにしておいたほうがいいかもしれない。そこに踏み込むのは、あまり素敵じゃない。
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