12歳の少年の気持ちになれる?恐竜への愛情と見せ場が詰まった映画『65』
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映画『65/シックスティ・ファイブ』が5月26日より公開されている。本作のコンセプトは、「6500年前の地球を舞台にした脱出サスペンスアクション」でとてもわかりやすい。さらに、「アダム・ドライバーVS恐竜」という対戦カードが決まった時点で「勝ち」とも言える。さらなる本作の魅力を紹介していこう。
作り手の無邪気さが伝わるジャンル映画
本作のあらすじは「小惑星帯と衝突して宇宙船が墜落したため、言葉が通じない少女と共に、どこかに切り離されたであろう脱出船を目指す」というもの。メインの登場人物はたったの2人で、上映時間も93分とタイト。娯楽性を突き詰めたシンプルな「ジャンル映画」だ。
監督は同様に恐るべき存在との戦いをサスペンスフルに描いて好評を得た『クワイエット・プレイス』の脚本・原案を手がけたコンビ。そのひとりであるスコット・ベックは「特に好きなのがホラー、サスペンス、アクション、アドベンチャー」「ジャンル映画に、大好きなキャラクターたちが合わさったらもう最高です」などと無邪気に「こういうのが好き」と語っている。
しかも、この『65』ではそのジャンル映画に、男の子みんなが大好きな「恐竜」が組み合わさるのである。ベック監督は案の定「私たちの中にいる12歳の少年たちが、ずっと恐竜映画を書きたがっていたんです」とも言っていて、なんだかもう微笑ましい。それでいて、決しておふざけには走ったりしない、恐竜が後述する理由でしっかり「怖い」存在に映る、良い意味で容赦のない演出がされているのも美点だ。
巨大隕石の衝突の史実がタイムリミットサスペンスに
さらに、舞台は「6500万年前の地球」であり、それは「巨大隕石がぶつかり恐竜が絶滅する」時代とも符号する。つまり、良い具合に巨大隕石の衝突前に地球から脱出できるかという「タイムリミットサスペンス」も展開するのである。
あえて下世話な感じに言うのであれば「脱出アクションと恐竜が組み合わされば超面白いんじゃね?」「あっ巨大隕石もタイムリミットサスペンスに生かせるぞ!」的な、良い意味で小学生のような発想を、大資本と最新の技術と尋常ではない努力の積み重ねで実現させる、夢のような企画というわけだ。
また、危険な状態になった地球でたった2人の登場人物が奮闘する様は『アフターアース』を連想させるし、言葉の通じない男女のコンビが次第に信頼し合い危機を乗り越えていく様は実写映画版『モンスターハンター』にも近い。その両方の魅力を一挙に味わえるという、おトクな内容とも言えるだろう。
天然の恐竜たちがいっぱい
さらに、ベック監督の無邪気さは止まらない。「6500年前の地球ではT-REX(ティラノサウルス)などのおなじみの恐竜が繁栄していた頃です!」「その景色や恐竜たちの姿、そして地球がどれほど危険な荒れ地だったかを見せる、最高のチャンスだと思いました!」などと、やはり12歳の少年がそのまま夢を叶えたようなコメントもしているのだ。
恐竜映画の代表格と言えばご存知『ジュラシック・パーク』だが、そちらが人間の手によって人工的に生み出されて現代のパーク内にいるのに対し、この『65』で登場するのは自然に生息している当時の恐竜という違いもある。いわば「天然の恐竜たち」がたっぷりお目見えとなるのだ。
「獣脚類型巨大恐竜」「獣脚類型中型恐竜」「トカゲ類恐竜」「鳥類恐竜」と、バラエティ豊かな恐竜の姿は、恐竜ファンにとって眼福ものだろう。それぞれが獰猛に襲いくる、はたまた狡猾に忍び寄る様は、本作の一番の見所なのは間違いない。
アダム・ドライバーから伝わる「言葉以上の感情」
その恐竜たちから逃げ惑うのが、アカデミー賞に2回もノミネートされているアダム・ドライバー。どこか弱々しくもあるも、だからこそ守ってあげたくなる魅力を持つ役柄も見事に演じていた彼だからこそ、なるほど生きるか死ぬかの極限サバイバル状態に陥る今回のキャラクターにもバッチリと合っていた。相棒となる少女と言葉が通じないからこそ、その一挙一動や表情から伝わる「言葉以上の感情」にも注目してほしい。
もう1人の主人公である少女を演じるのは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にも出演経験があるアリアナ・グリーンブラット。今回はアダム・ドライバーが相手ということもあって相当なプレッシャーだったそうだが、小生意気ではあるが愛らしいキャラクターを堂々と演じており、漫才的なやり取りもとても自然に感じられて楽しい。1分以上ジンバル(回転装置)から逆さまにぶら下がるなどスタントをやる機会にも恵まれたとのことなので、彼女自身のアクションにも注目だ。
見えないものが肝心
ベック監督はブライアン・ウッズ監督と共に、本作のサスペンス性を高めるため「見えないものが肝心」であることを重視したそうだ。「謎に満ちた危険な何かがいる」ことを、サウンドデザインやカメラやプロダクションデザインを工夫し、VFXスーパーバイザーとも協力して突き詰め、「ここだ」という場面まで恐竜たちの姿を見せないようにした、「今だ」というときに初めて観客を驚かせるようにしたのだという。
そうした「見せない」ことでかえって恐怖感が増すのは、映画前半でほとんどサメの姿を見せていなかった『ジョーズ』に通じることであるし、『クワイエット・プレイス』でも踏襲されていた演出だ。「恐怖の対象の姿をなかなか出さない」とだけ聞くと、手抜きあるいは予算不足といったマイナスイメージを持たれるかもしれないが、その「出てくるまでの緊張感」はむしろこの手のジャンル映画において重要であり、それでこそ「ついに出てきた!」ときに大盛り上がりできる。その演出は、男の子の憧れのような存在である恐竜を、良い意味で本気で怖く思えることにつながっているのだ。
この『65』では草木が生い茂る地、または一寸先は暗闇の洞窟というシチュエーションを生かした、どこから恐竜が襲いくるのかわからない緊張感に満ち満ちていたし、クライマックスではジャンル映画×恐竜×タイムリミットサスペンスの面白さを全部ぶちまけたようなサービスが待ち受けていたのも嬉しかった。
正直に言えばツッコミどころもあるのだが、ほんの少しのトンデモぶりを許せるくらい、主演2人の演技と存在感は素晴らしく、タイトな上映時間に恐竜への愛情と見せ場がたっぷり詰まった映画だった。ぜひ劇場でこそ、ベック監督と同じように、12歳の少年の気持ちになって楽しんでほしい。
『65/シックスティ・ファイブ』
5月26日(金)全国の映画館で公開
原題:65
監督・脚本:スコット・ベック&ブライアン・ウッズ(ともに『クワイエット・プレイス』脚本・原案)
製作:サム・ライミ(『ドント・ブリーズ』製作/『死霊のはらわた』、『スパイダーマン』シリーズ、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』監督)
出演:アダム・ドライバー(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)、アリアナ・グリーンブラット(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』)
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