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「THE SECOND」漫才らしくないのはマシンガンズよりギャロップ?元芸人の見解

「THE SECOND」漫才らしくないのはマシンガンズよりギャロップ?元芸人の見解の画像1
番組公式サイト」より

 5月20日、19時より結成16年以上の漫才師が頂点を目指して戦う新たな賞レース「THE SECOND~漫才トーナメント」の「グランプリファイナル」が4時間にわたり生放送され、関西を中心に活躍している「ギャロップ」さんが初代王者に輝いた。

 この「THE SECOND」は若手芸人をフィーチャーしている他の賞レースとは違って、その名の通りファーストチャンスを逃してしまった芸歴16年以上の芸人が第二のチャンスを掴み取ろうとする大会なので、若手芸人とはまた一味違ったバックボーンや実直さ、そして15年以内の芸人と何ら変わらないお笑いへの情熱やメジャーになることへの欲が垣間見られて、とても見ごたえのあるドラマチックな大会だった。

 今回はそんな「THE SECOND~漫才トーナメント」の感想を元芸人目線で書いていく。ネタのレビューはまた後日書くので、そちらも楽しみにしていただけたら嬉しい限りだ。

 まず僕が注目したのは戦いの形式とネタの分数だ。他の賞レースのような得点の高い方が残るという勝ち抜き戦ではなく1対1のトーナメントでその都度勝敗を決めて勝ち上がらせていくという形式で、優勝するためには最大3本のネタが必要となる。

 同じ組がネタを3本やるというのは、やる側も見る側もとても大変なことである。見る側はそのコンビのシステムに慣れてしまい、どうしても初見のような新鮮さを持つことができず、長時間見るのが苦痛になってしまう。逆にやる側はどうやったらお客さんを飽きさせないかを考える。その際に自分たちが得意とするスタイルを変えず見せ方を変えるのか、システム自体を変更して漫才ごとに違う笑いを提供するか、次に戦う相手を見据えてその相手に勝つためのネタにするのかなど、芸人によって選択肢は違うが、ひとつのネタを探求する若手芸人とは違い、様々な選択肢を持つベテラン芸人ならではのシステムであり、番組側がベテラン芸人を信頼しているのがわかるシステムであった。

 そしてもうひとつがネタの分数が6分であるということ。正直6分というのはとても中途半端な時間だ。現代の賞レースにおいて基本的なネタ時間は4分ほど。今大会に参加している僕と同じくらいの時期にライブをしていた芸人であっても基本的には5分。これが営業等になると少なくても15分以上。つまり6分というのはほんの少しだけ長いという微妙な分数なのだ。

 5分のネタをもっているならたった1分長いだけじゃないかと思う人もいるかもしれないが、その1分が芸人にとって何とも言えない長さであり、致命傷を負う可能性がある分数なのだ。本来のネタに1分ボケを足した結果、蛇足となり面白くなくなってしまったり、いつもより少しゆっくりやって時間稼ぎをした結果、間延びしたネタになってしまったり、そのくせ滑った空気を戻すには1分じゃ短すぎる。なのでとても厄介な分数なのだ。

 しかしその6分というネタ時間を上手く使い、どのようにお客さんを楽しませるかというのも芸歴が長い芸人の実力が試される部分であり、漫才ネタ以外の笑い要素が必要となるとても面白いネタ時間だ。この6分というネタ時間は本当にお見事な時間である。

 そして上記の二つと同じくらい注目されていたのが審査方法だ。他の賞レースとは違い芸人やタレントの審査員がおらず、会場のお笑いが好きだという100名の観客審査員の点数のみで勝敗が決まる。しかも審査前に余計なトークや、アンバサダーのダウンタウン松本さんの意見や評価などは一切挟まず、即座に審査に行き、トークなど別の笑いが審査に含まれないようにし、純粋に漫才の点数で勝敗を決めるあたりもとても良い点だ。

 ただ「とても面白かった:3点」「面白かった:2点」「面白くなかった:1点」という点数制になっている部分の「面白かった」と「とても面白かった」の境目がかなり難しいのではないだろうかと思ってしまった。さらに「面白かった」が2点で「面白くなかった」が1点という点差も少々疑問が残るのだが、単純に点数だけだと味気ないということでこのような表現になったのだろう。ほかの言い方が出来ればもっとわかりやすかったかもしれない。

 この大会は他の賞レースに比べ、終わった後の賛否両論が少なく、とても良い大会だったということがうかがえる。そして「ギャロップ」さんの優勝も、視聴者も含めて納得いくものだったに違いない。

 そんな平和な大会だったのだが、一点だけ賛否が分かれている部分がある。それは準優勝した「マシンガンズ」さんが準決勝で見せたネタだ。ヤフー知恵袋に「マシンガンズ」に対する悪口が書かれているとして、それをプリントアウトした紙を取り出し、書かれている悪口を読みながらそれに対して意見を述べていくというネタ。この実際に紙を取り出し読むという行為に対して、松本さんは「プロの審査員ならマイナスになる」といった表現をし、今大会唯一と言っていい“講評”をしたのだった。

 この意見に同調するように「小道具を出すのはどうかと思う」などという声がSNSで上がったのだが、正直僕としては先述した漫才の見せ方を変えるという手法を使っただけで何ら問題がないように思うし、他の芸人がしていない事なのでとてもオリジナリティがあり良いと思った。

 実際に紙に悪口が書いてあるかどうかなどわからず、全て「マシンガンズ」さんが考えたネタの可能性もある。しかし、紙を取り出すことにより、そのボケ達に“真実味”が帯びてくる。そうなると「マシンガンズ」さんのツッコミも一気にリアリティが出て、会場のお客さんは飽きることなく見ることができる。とても計算された良い手法だ。この手法がダメだという人の理由としては、基本的に漫才というのはマイク一本でやるというイメージが強く、小道具を使うことが卑怯なように感じるのだろう。

 しかし、漫才は時代と共に変化しており、今は多種多様な形が存在する。アドリブのように聞こえるオーソドックスな漫才もあれば、一言一句決まっているお芝居のような漫才もある。人数も2人ではなく「超新塾」さんのように5人でやる漫才もある。もはや現代のお笑い界では漫才の形などあってないようなものなのだ。

 そもそも「マシンガンズ」さんはボケとツッコミに分かれておらず、基本的な漫才の定義からは外れている。しかし、この方式は大阪でもやっている人が多く、僕が芸人をやっていた頃では「ハリガネロック」さんなどがこの方式の代名詞的な存在だった。なので漫才の本場大阪でもこのシステム自体に疑問を抱く人はおらず、ボケとツッコミが基本となる漫才でなくとも受け入れられるのだろう。

 なのでこの実際に紙を使うという手法も元々他の漫才師がやっていて大阪でも当たり前の光景ならば「プロの審査員ならマイナス」という評価もなかったかもしれない。ちなみにお客さんはこのネタを面白いと評価しており、ファイナルグランプリにおける最高得点をマークしている。さらに強敵である「三四郎」さんにも勝利しており、十分笑いが起こせる上に、紙が気になって笑えないという人がほとんどいないということなのだ。

 そもそも「面白ければなんでもあり」というお笑い界の根本的ルールがある限り、漫才で紙を使用したという些末な事でマイナスにするのは僕としては違う気がしてしまう。

 さらに言わせてもらうと漫才だから小道具を使用してはいけないというのなら、漫才の中4分程度をオチで笑いを爆発させるために使い、あえて笑いを起こさなかった「ギャロップ」さんの決勝ネタの方が僕としては漫才らしくないと思ってしまう。漫才の基本形は最初から最後まで会場にいるお客さんを笑わせるというもの。オチで大爆笑があるとしても中4分笑いが起きないというのは、漫才としては変化球。このような手法はあるにはあるのだが、間違いなく王道漫才ではない。

 そういった意味で「マシンガンズ」さんの小道具を使用した漫才も、「ギャロップ」さんの笑いを起こさない漫才も、どちらも王道漫才ではないのだ。なので漫才の手法を評価するのではなく、面白いかどうかで判断するべきであり、両ネタとも十分面白いネタだったということだ。

 最後に、この大会に対する僕の個人的な意見を述べて終わりたいと思う。優勝した「ギャロップ」さんのネタはとてもまとまっており、3本とも見せ方を変えていたのでさすがといったところだったが、面白いネタなら他の賞レースでも見ることができる。なので僕としては準優勝した「マシンガンズ」さんの方が、今大会の趣旨に合っていたように思う。決勝戦で見せた「マシンガンズ」さんのネタは十分笑いも起きていたし、自虐も交えて面白く披露していたのだが、たぶん本当にネタ切れを起こしてしまった中、何とか形にしたようともがいた結果あの形になったような気がする。それこそがベテランの良さであり、それこそが「THE SECOND」にふさわしい姿だったのではないだろうか。

 今回を踏まえてルールの改定や細かな修正が行われるかもしれないが、この「THE SECOND」は他の賞レースとは違い、ただネタを見せるための大会ではなく、ベテランの巧妙さや笑いに対する真摯な姿、そして漫才本来のアドリブ感を楽しめる大会になればとても嬉しい。

 希望的観測だが、この先この大会はもっと無名のベテラン芸人たちにチャンスを与える大会となるはずだ。腐らずにお笑いを続けてきたベテラン芸人たちよ、セカンドチャンスでありラストチャンスを手にするために今から最大限の努力をしてほしい。そして僕たちを楽しませてくれ。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/05/27 08:00
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