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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 井口昇流フェティシズムを追求した映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.739

井口昇ワールドのヒロイン集結! 商業映画では描けない禁断の世界『異端の純愛』

拒食症から救ったのはSM映画だった

井口昇ワールドのヒロイン集結! 商業映画では描けない禁断の世界『異端の純愛』の画像5
撮影現場の井口昇監督(画像中央)。演出は丁寧で、分かりやすい

 3つのエピソードはそれぞれ少しずつ関わり合っており、井口監督流マルチバース(多元宇宙)な世界となっている。初期代表作『クルシメさん』の公開から25年、大林宣彦監督や鈴木則文監督らを敬愛してきた井口監督の映画作家としての成熟ぶりを感じさせる。クラウドファンディング出資者たちを招いた上映会や知人を集めた試写会は、熱い盛り上がりを見せたそうだ。

井口「特に第3話で中村有沙さん演じるヒロインの秘密が明らかになるクライマックスは、会場全体が異様な熱気を帯びていました。劇場の支配人が室温モニターを調べたところ、その瞬間に劇場の室温が2度上昇したそうです。2回目の上映では湿度もアップしたそうです。もちろんキャストとは綿密に演技内容を確認し合い、お互いに納得した形で撮影を行なっています。映倫の審査はまったく問題なく、PG12指定になっています。お子さんでも保護者と一緒なら、劇場で観ることが可能です。

 僕は高校を卒業するまで落ち着ける居場所がどこにもなかったんですが、卒業したその日に団鬼六のSM映画の特集上映を観に行って、『こんなに面白い世界があるんだ』と感激したんです。それ以来、拒食症が治り、もりもりご飯を食べるようになりました。きっと、子どもは見てはいけないとされていたイマジネーションに触れて、初めて開放感を感じたんでしょうね。いかがしいイメージがあったけど、実際のSM映画を観てみたら、ロマンティックでとても丁寧に撮られた世界観で、何よりもモラルを大切に生きるべきだというメッセージが感じられて感銘を受けました。だから現在、自分の性癖や心の居場所がないと悩んでいる人たちに、『異端の純愛』が届けばいいなと思っています。僕が団鬼六のSM映画に勇気づけられたみたいに、若い人に勇気を与える作品になれればいいですよね」

 映画監督として見えない壁にぶつかっていたと語る井口監督だが、本作を完成させたことで、そうした行き詰まり感からも解放されたそうだ。AV男優とその妻を主人公にした家族の物語などのオリジナル脚本を、現在は快調に書き進めているという。若い頃にアダルトビデオ業界を経験している井口監督ならではの、リアルかつユニークなホームドラマになるに違いない。

 純粋すぎるがゆえに傷つくことも多かった井口昇監督は、そうした体験と妄想を創作へと昇華させることで数々の愛すべき作品を残してきた。井口昇という監督の名前を聞くだけでも、きっと生きる勇気が湧いてくる人もいるはずだ。『異端の純愛』は、ある人にとっては危険な劇薬だが、別のある人にとっては孤独さを癒してくれる最高の妙薬となるだろう。

『異端の純愛』
脚本・監督/井口昇 プロデューサー・音楽/福田裕彦
出演/八代みなせ、中村有沙、山本愛莉、岡田佳大、九羽紅緒、大野大輔、井上智春、まお(せのしすたぁ)、中村優一
配給/大頭 PG12 5月27日(土)よりK’s cinemaほか全国順次公開
※5月28日(土)~6月7日(水)K’s cinema、6月12日(月)~21日(水)高円寺シアターバッカスにて「異端の映画監督 井口昇 純愛の世界」を開催。『クルシメさん』『わびしゃび』『恋する幼虫』『片腕マシンガール』『ラブレター』『キネマ純情』『ゴーストスクワッド』『変態団』『ゲスに至る病』『自傷戦士ダメージャー』『おばあちゃんキス』を上映
©2022 Noboru Iguchi/WONDER HEAD
itannojunai.wixsite.com/official

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2023/05/25 19:00
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