松本人志「誰も損しない大会だった」──『THE SECOND』の“楽しさ”と東野幸治の司会術
#松本人志 #東野幸治 #テレビ日記 #飲用てれび
東野幸治「マシンガンズの得点はいかがですか?」 ギャロップ林「……うれしいです」
他方で、司会の東野幸治。彼はもちろん司会として松本以上にネタへのコメントを避けていた。芸人たちとのやりとりで、番組を盛り上げてもいた。番組がそれほど悲劇性を強調したものにならなかったのは、見る者にドライな印象を抱かせる彼のキャラクターや、悲劇的に見えることにも容赦なく踏み込んで笑いに変える彼の手腕によるところが少なくないだろう。
特に、決勝戦でマシンガンズの結果が出たシーン。これはもうギャロップの優勝だなと誰もが思ったところで、「マシンガンズの得点はいかがですか?」とニヤニヤしながらギャロップ・林に聞けるのは、そしてその林から「……うれしいです」のひと言を引き出して笑いにできるのは、東野をおいてほかにいないだろう。
東野については、特筆すべきは観客とのやり取りだろうか。今大会の特徴は、観客だけが審査員を務めたことにある。観客は1人3点を持っており、とても面白ければ3点、面白ければ2点、面白くなければ1点を各組に投じるが、それだけでなく、審査後にコメントを求められていた。各人に審査への緊張感と責任をもたせるための制度だったようだ。が、テレビの電波に自身のコメントが乗ることを同意したうえで席についているとはいえ、そこは一般の人たち、声が震えていたり、しどろもどろになったりする人もいた。
たとえば、テンダラーとギャロップの対戦で、「どちらのネタも面白かった」などとコメントした観客に対し、宮司愛海アナウンサーが「それぞれについて感想いただけたりしますか?」とさらに突っ込んで聞いていた場面があった。番組の制作側の意図としては、おそらく、その後の審査が“みんな違ってみんないい”的なものに流れることを避けるねらいがあったのではないかと推察する。が、聞かれた側としてはプレッシャーが大きいだろう。
そこに東野は「ごめんなさいね」と割って入りながら観客のコメントを待つ。観客が「(ギャロップさんは)自分の体の特徴を活かしつつ……」と少し面白いことを言うと、東野は「彼のお葬式のこと考えるとね」とギャロップのネタのなかに出てきたくだりを交えつつ笑いに変え、すぐに「テンダラーさんは?」と振る。慣れていない観客をサポートしながらコメントを前に進め、番組を進行するという点で、印象的なやり取りだった。
ほかにも、囲碁将棋のネタについて「モノマネをせずに笑いをとるっていうのはすごいなっていうふうに私は思いました」と落ち着いて理路整然と語る観客に、「演芸評論家ですか?」とツッコミを入れたり。あるいは、「ギャロップさんは事実上の決勝って感じで、あの……」としどろもどろになった観客に、「ちょっと言ってる意味がわからない」とツッコミの形をした助け舟を出して一息つかせ、「……というぐらい、両方面白かったっていうふうに思いました」と審査コメントを軟着陸させたり。相手に合わせて押したり引いたりしながら、観客のコメントを引き出していた。
芸人相手には容赦なく踏み込んで笑いに変えるところもありつつ、観客相手には支持的な構えで適宜介入しながらコメントを待つ。『THE SECOND』がとても楽しい大会だったという印象を受けたのは、芸人たちのネタの面白さはもちろんのこと、そんな東野幸治の司会によるところも大きかったように思う。
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