『インディ・ジョーンズ』あの名場面は“スピルバーグ封じ”のおかげで誕生した!
#金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
今年の6月30日にシリーズ最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』公開を控え、日本テレビ系『金曜ロードショー』はシリーズ4作品を一挙放送。
第一回目は1985年にスタートした金曜ロードショーの第一回放送作品でもある『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』を本編ノーカット、25分拡大枠で放送。アメリカ国立フィルム登録簿に登録された、アクション映画の金字塔です。
1936年。大学で教鞭をとる考古学者にして世界中を宝を求めて冒険するトレジャーハンターという二つの顔を持つ男、インディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)葉は南アメリカの遺跡から黄金の像を発見、罠を掻い潜り脱出するも待ち構えていたライバルの考古学者、ベロック(ポール・フリーマン)に横取りされてしまい、這う這うの体で逃げ出すしかなかった。
後日、インディの元にナチス・ドイツがエジプトの遺跡から十戒の石板を収めた遺物「聖櫃(アーク)」を発掘しようとしているという知らせが、アメリカ陸軍情報部からもたらされる。聖櫃を手にしたものは、世界をわが物にできる力を持つという。
情報部の依頼でナチス・ドイツの野望を打ち砕くべく(また根っからの冒険者魂をくすぐられた)インディは聖櫃の在り処を示す「ラーの杖飾り」を持つ恩師、レイブンウッド教授のいるヒマラヤへ向かうが、教授はすでに亡くなり、娘のマリオン(カレン・アレン)は自分を捨てたインディを快く思っておらず、協力してくれない。
そこに同じく杖飾りを求めてやってきたゲシュタポのエージェントからマリオンを救い出したインディ。マリオンが隠していた杖飾りを手に二人は聖櫃を求めてエジプトへ。
エジプトでもゲシュタポの襲撃にあい、マリオンはトラックの爆発に巻き込まれ炎の中に消える。失意のインディはナチスが聖櫃が隠された「魂の井戸」を完全に発見できていないことを知り、マリオンの形見である杖飾りを使い、先んじて聖櫃を手に入れようとする。
発掘作業員に扮して「魂の井戸」を突き止めたインディは捕らえられていたマリオンを発見、「魂の井戸」から聖櫃を引き上げるがベロックに見つかってしまい、二人ともども井戸の底へ。
脱出した二人は聖櫃を奪い返すが、執念の捜索を続けるナチスに再び聖櫃は奪われる。ヒトラーに献上する前に聖櫃の中身を確かめようというベロックは儀式を行うのだが……。
インディ・ジョーンズシリーズを監督したスティーヴン・スピルバーグは70年代から現在に至るまで、ヒットメーカーとして第一線で活躍し続けている史上最高の映画監督といっても過言ではない。
特に70~80年代につくられた『ジョーズ』、『未知との遭遇』、『インディ・ジョーンズ』はスリラー、UFO、冒険活劇とあらゆるジャンルを横断してその後の映画に多大な影響を与え続けてきた時代だ。あちこちでジョーズもどきや未知との遭遇もどき、インディもどきの映画が溢れたが、箸にも棒にも掛からぬ駄作ばかりで誰一人スピルバーグに叶わなかった、彼は唯一無二の本物である。
筆者も少年時代は、スピルバーグで映画の面白さを教えてもらったものだ。『レイダース』は娯楽映画として完璧で、遺跡の罠を掻い潜り、悪党どもとの追いかけっこ、そして対決、数々の謎を解き、お宝にたどり着く……子供も大人も誰でもワクワクしそうな娯楽活劇のエッセンスがこれでもかと詰め込まれている。聖櫃は観客を楽しませるおもちゃ箱なのだ。
またフォードが演じるインディのキャラクターがいい。彼は完璧な人間ではなく、ドジを踏んで失敗することもあるが、決して諦めずに何度でも挑戦する。奪われれば奪い返す。悪党や権力には決して媚びない。そして何よりタフである。インディのキャラはその後の冒険活劇映画のお手本になった。
また彼のライバルであるベロックも、悪役として一味違うキャラクター性をもたされている。彼はインディを利用してお宝を横取りしたり、ナチスと協力して聖櫃を手に入れようとするが、考古学や遺物への愛情はインディと変わらぬものを持っており、聖櫃を権力への道しるべとしか考えていないヒトラーやゲシュタポを見下しており、クライマックスでインディがマリオンを取り返すべく、破れかぶれで機関銃を向けても「君に聖櫃は壊せない」と彼の本質を見抜いている。考古学者として立派だった彼が、最後に破滅したのはインディと違い、悪に加担したからだ。
『レイダース』はキャラクターの面白さはもちろん、その後も語り継がれる名場面がたくさんある。
本作の名場面として挙げられるのが、エジプト・カイロの路上で曲刀を持った剣士が「いざ参らん!」と刀を振り回すが、インディは剣士をあっさり拳銃で仕留めてしまう。
笑いを誘うシーンだが、実は当初予定されていた展開ではインディが鞭を振るって剣士と激しい戦いを展開するはずだった。
しかしロケ地のチュニジアは気温が54度もありスタッフ、出演者ともにヘトヘトで、予定はずれ込み撮影日数があとわずか。当時、スピルバーグは「予算と撮影日数をすぐ超過する男」として業界では評判であり、パラマウントはスケジュール、予算を超過したら罰則という条件で契約したため、スピルバーグはスケジュールを遅らせることができなかった。
なのに、現場で慣れない環境と食事のせいでフォードは調子を崩し、とても絵コンテ通りのアクションはできなくなった。あのシーンのインディはめんどくさそうな顔をしているけど、本当は調子を悪くしていたのだった。
アクションをトーンダウンしなければならないということになり、誰かが「銃を使えばいい」と言い出して、あの名場面になったのだ。名作映画には大抵トラブルが付き物で、そのトラブルを上手く回避したエピソードもまた、付き物なのである。
『レイダース』を今も語り継がれる名作にしたもう一つの要素はマットペインティングという技術だ。
ガラス盤に背景を書き込んでフィルムと合成するという技術は今も使われており、CGがない時代は特殊効果としてよく用いられてきた。パニック映画で崩壊する都市やSF映画の宇宙戦艦などは大抵がミニチュアかマットペイントで、例えば『スター・ウォーズ』のデス・スター内部のシーンや『猿の惑星』で倒壊した自由の女神が映るシーンなどが有名なマットペイントだ。
『レイダース』でも最後に陸軍情報部によって回収された聖櫃が、厳重に封印されて巨大な倉庫にしまわれる場面、あの倉庫はマットペイントで描かれたもので、筆者もあれが絵なんだと知った時はあの映画で一番驚いた!
本作を製作したスピルバーグとジョージ・ルーカスはその後、CGの発展で『レイダース』よりすごい映像を提供しているが、この時のマットペイントと、めんどくさそうに剣士を銃で始末するインディの魅力は今も色あせない。限りなく発展するデジタル以上にアナログの技術が人の心に深く刻まれることもあるのだ。
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