トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > マリオ映画は本当に「原作に忠実」か?
社会がみえる映画レビュー#15

マリオ映画は本当に「原作に忠実」か?超大ヒットの本当の理由と見事な仕掛け

マリオ映画は本当に「原作に忠実」か?超大ヒットの本当の理由と見事な仕掛けの画像1
C) 2023 Nintendo and Universal Studios

 世界中で超大ヒット記録を更新し続けている『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は日本でも3週連続No.1、公開からわずか17日間で80億円突破する興行収入を打ち立てた。100億円突破も秒読み段階、さらなる大記録にも期待できるだろう。

 当然というべきか、その超大ヒットの理由についての議論もネット上で行われている。その中には、過去のゲームの実写化作品と比較して「原作に忠実だったから成功した」という意見も多く見かける。

 その意見に同意できるところもある一方、筆者個人はそれほど単純ではないとも思う。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は決して「原作に忠実」とばかりは言えない要素もあり、そこにこそ成功の理由もあるのではないか、とも思うのだ。

ゲームをそのまま映画にしても面白くない

マリオ映画は本当に「原作に忠実」か?超大ヒットの本当の理由と見事な仕掛けの画像2
C) 2023 Nintendo and Universal Studios

 まず、本作の共同プロデューサーを務めた宮本茂による、電ファミニコゲーマーのインタビュー(https://news.denfaminicogamer.jp/interview/230428w)での言葉が的を射ているので、引用しよう。

宮本氏:だって、ゲームはインタラクティブで、自分からどんどん積極的に考えて入っていって、自分が遊ぶから面白いわけじゃないですか(中略)でも、映画ってゲームの全く逆で、基本的には受動的に見るものです(中略)だから、クリスさん(イルミネーションの最高経営責任者クリス・メレダンドリ)には「ゲームのあらすじをただ追ったら、大して面白くないですよ」と最初に伝えていました。

 まったくもって、その通りだろう。想像してみてほしい。ファミコンのゲーム「スーパーマリオブラザーズ」の内容は、ダッシュとジャンプを駆使してステージを進み、ゴールを目指すことをひたすら繰り返す、というものだ。もちろん、ゲームとして主体的に遊べば上達していく楽しさを味わえるのだが、受動的に楽しむ媒体である映画に置き換えると、とてつもなくつまらない、単調な内容になることは目に見えているのだ。

 では、この『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、「ゲームをそのまま映画にしても面白くない」という、ある意味でわかりきっている事実にどう向き合ったか。そのアプローチのひとつが、物語上で「修行」をすることだろう。異世界に来たばかりのマリオは、「お手並み拝見」のためのコースに何度も何度も挑み続ける。そのマリオの努力は、受動的な立場の観客だからこそ応援できるし、ゲームの繰り返し遊んで上達する様にも通じている。やはり、「映像作品ならではのアプローチ」がされているのだ。

ピーチ姫とルイージの立場がガラリと変わった

マリオ映画は本当に「原作に忠実」か?超大ヒットの本当の理由と見事な仕掛けの画像3
C) 2023 Nintendo and Universal Studios

 その上で、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、「スーパーマリオブラザーズ」だけでなく、「スーパーマリオ 3Dワールド」や「スーパードンキーコング」や「マリオカート」シリーズなど、多数のゲームの要素や世界観が組み合わさっており、それだけでバラエティ豊かな楽しさがある。93分間という短い時間に見せ場がたっぷりと詰まっており、未就学児でも退屈しない内容になっているのも成功の大きな理由だろう。

 それ以上に大きいのは、ゲームでは「囚われのお姫様」という立場でもあったピーチ姫を、国の一大事に立ち向かうカッコいい「為政者」、かつ異世界での「先輩」としてマリオを導く立場にしたことだ。これまでのゲームでも、ピーチ姫は「スーパーマリオUSA」では長く跳ぶことができたり、「スーパーマリオRPG」では強力な回復能力を持っていたり、「大乱闘スマッシュブラザーズ」でも常連ファイターになっていたりと、「強さ」そのものは描かれていたが、それでも「マリオと初対面かつ冒険に導く立場」は今回の映画独自の魅力だ。

 さらに、ピーチ姫の立場がガラリと変わったことと引き換えに、マリオの弟のルイージが離れ離れかつ囚われの身となる。これまでのゲームでは「マリオとルイージが交代でステージを進んでいく」ことが多かったのが、これにより「何よりも弟のためを思っている」お兄ちゃんとしてのマリオのカッコ良さや愛おしさが際立つ。このマリオとルイージの「兄弟愛」はむしろゲームでは見えにくかったところとも言えるのだが、「マリオがルイージを助けに向かう」シンプルなプロットでそこを強調したのも実に上手いのだ。

 また、本作はポリティカル・コレクトネス的な配慮がないから成功したとの声もあるが、これには意を唱えたい。今回のマリオはブルックリンで家族と共に暮らすイタリア系の移民であり、ブルーカラーのキャラクターであることは先の宮本茂へのインタビューでも明言されているし、前述した強いピーチ姫のキャラクターは少なからず「今の時代ならではの女性像」も感じるからだ。そうした社会的な要素を備えつつも、それが今回の映画のキャラクターの魅力に直結している、ノイズにならないバランスになっているのも見事だろう。

「ゲームを忠実に映画化しない」ことで大成功した例も

マリオ映画は本当に「原作に忠実」か?超大ヒットの本当の理由と見事な仕掛けの画像4
C) 2023 Nintendo and Universal Studios

 「ゲームを忠実に映画化しない」ことで大成功した映画作品も挙げてみよう。たとえば、2002年から計6作が制作された映画『バイオハザード』シリーズは、日本での累計の興行収入は200億円、世界での興行収入は1200億円を突破する超大ヒットを遂げた。こちらはゲームのキャラクターやモンスターが登場したりもするものの、主人公は映画オリジナルで、1作目の内容は『エイリアン2』的な潜入&脱出ミッションかつ『CUBE』を彷彿とさせるトラップが登場するなど、ゲームとはまったくの別物と言える内容ではあった。

 それでも映画『バイオハザード』シリーズは、賛否両論はあってもエンタメ性を押し出した内容で商業的に大成功を収めたのだが、2021年公開のリブート作となる『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』は(コロナ禍の状況もあり単純な比較はできないものの)興行収入も観客からの評価も今ひとつの結果となった。

 こちらはゲームの1作目と2作目のストーリーを繋ぎ合わせたような、比較的「原作に忠実」と言える内容であり、ゲームを遊んでいるとわかる小ネタを笑って楽しめたし、制作者の原作へのリスペクトも大いに感じられたので個人的には大好きだった。だが、ゲームをそのまま映画に置き換えた場面が多すぎるためか、実写映画としてはツッコミどころが満載な内容になってしまったのも事実だ。

 ホラーゲームである「バイオハザード」と、幼い子どもでも楽しめる「スーパーマリオ」シリーズはまったく異なる内容であり、その(実写とアニメの違いもある)映画化作品を単純に比較することできないのはもちろんだが、やはり「原作に忠実に映画化すれば必ず成功するわけではない」ことがわかる事例ではあるだろう。

 それを踏まえても踏まえなくても、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、必ずしもゲームに忠実ではないものの、ゲームの繰り返し遊んで上達する様を「修行」シーンで表現し、複数のマリオのゲームの世界観を違和感なく融合させ、ピーチ姫とルイージの立場の改変により主人公のマリオがより魅力的に見えるなど、やはり見事な「ゲームから映画へコンバート」が行われていると感心するばかりだ。

 さらには、1本の映画としてのカタルシスがあり、かつマリオのゲームで遊んでいた人ほど感動できるクライマックスが待ち受けている。何より、ゲームへの愛情が、ここまでの「アニメの作り込み」に反映されているからこそ、予告編を観た段階から多くの人を魅了し、そして大絶賛の評価に繋がったのだろう。

 改めて、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は超大ヒットを遂げた理由が確かにある。ぜひ映画館で、ゲームの映画化作品の歴史を塗り替える様を目撃してほしい。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 4月28日(金)全国ロードショー
ジャンル:アクション/コメディ
声の出演:クリス・プラット、アニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・デイ、ジャック・ブラック、キーガン=マイケル・キー、セス・ローゲン、フレッド・アーミセン、ケヴィン・マイケル・リチャードソン、セバスティアン・マニスカルコ
日本語版吹替声優:(マリオ) 宮野真守、(ピーチ姫)志田有彩、(ルイージ)畠中祐、(クッパ)三宅健太、(キノピオ)関智一、(ドンキーコング)武田幸史
脚本: マシュー・フォーゲル
監督:アーロン・ホーヴァス、マイケル・ジェレニック
製作:クリス・メレダンドリ(イルミネーション)、 宮本茂(任天堂)
配給:東宝東和
C) 2023 Nintendo and Universal Studios

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/05/25 20:35
ページ上部へ戻る

配給映画