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日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 『ラヴィット!』山添炎上を元芸人が分析

『ラヴィット!』山添の“唐揚げ爪楊枝事件”を生んだクズキャラならではのボケ

『ラヴィット!』山添の唐揚げ爪楊枝事件を生んだクズキャラならではのボケの画像1
吉本興業公式サイト」より

 とある芸人の炎上騒動が終息したかと思った矢先、また新たな芸人の炎上騒動が勃発した。少し前のことなのでご存知の方も多くいると思うが、TBSで放送されている朝の情報バラエティ番組「ラヴィット!」でお笑いコンビ“相席スタート”の「山添寛」さんが炎上した。

 日帰り韓国ロケという企画で、問題となったのは市場で韓国式の唐揚げ「タッカンジョン」を食べたときだ。一緒にロケに参加していた「3時のヒロイン」の福田麻貴さんがお店の店員さんからサービスとして一人だけおまけの唐揚げが入れられた。それを不公平だとツッコミを入れるお笑い的なシーンだったのだが、山添さんがおもむろに自身が使っていた爪楊枝を店頭の唐揚げに直接刺して食べてしまったのだ。

 この行為が炎上の原因となった。コンプライアンス遵守の動きが強まっている現代において、さすがに見逃せない行為であり、炎上する理由もわかるのだが、相変わらず、このご時世ならではの「本人が公の場で直接謝罪しない」という余計とも思える過剰炎上もしている。

 さてこの騒ぎに関して、今までの炎上と少々違うのは擁護する声もあるというところだ。どの辺りが擁護するポイントかというと、この韓国ロケは生放送ではなく収録で、VTRにはもちろん編集が入っている。つまり問題となったシーンはカットしようと思えば出来たわけだ。もちろんこの行為自体は今の時代的に良くないボケではあるが、放送しなければ炎上騒ぎにはならなかった。

 なので責任の所在はカットせずに放送したロケを行ったディレクターや、同行したであろうマネージャーさんにもあるのではないかという話にもなってきている。

 「相席スタート」さんと同じ吉本興業の芸人で先輩にもあたる「ロザン」のお二人もYouTubeチャンネルにて「本人が大前提として悪い」としたうえで、マネージャーが同行していたとすれば、問題のシーンを事前にカットするようテレビ局側に願い出ることで炎上騒ぎを阻止できたのではないかと指摘したのだ。

 確かに皆さんの仰る通りで、この炎上騒ぎを事前に防止する手立ては沢山あったように思う。これは当の本人、山添さんもそう思っているのではないだろうか。

 元芸人目線で今回の山添さんの行動を分析してみるが、まず「ラヴィット!」における山添さんのキャラクターを踏まえたとき、このボケは間違いなく成立する。何故なら山添さんは番組において“クズ”というキャラクターだからだ。クズキャラである山添さんは間違いなくこの韓国ロケで「唐揚げ爪楊枝事件」以外にも「クズボケ」を繰り広げているはずだ。カットされているものからカットされていないものまで含めると相当な数になるだろう。これは芸人として当たり前の行為であり、逆に自身のキャラクターを客観視出来ずに、キャラにないボケや行為をしても番組サイドとしては使いづらいだけなのだ。

 そもそもこのロケに山添さんをキャスティングした時点で「クズキャラのボケ」を求めているわけだし、それをしなければ山添さんを呼ぶ意味がないのだ。なので山添さんにブレーキをかけられるように「3時のヒロイン福田」さんや「若槻千夏」さんがキャスティングされており、それに加えて「クズ」キャラとは真逆の愛嬌のあるボケの「インディアンス田淵」さんを入れることにより別のお笑いを組み込めるようにもしてあるのだ。

 僕が山添さんなら今回のキャスティングを見たときに、やり過ぎたときに止めてくれる人間がいるし、違うテイストのボケをする人間もいるので、目いっぱい「クズキャラ」を発揮しようという考えになるだろう。さらに、もしやり過ぎたとしてもロケなのでカットされるという安心感もあり、生放送ならやらないようなボケまでやったのだろう。

 本来、芸人が怒られるのはコンプライアンスに反するボケをする事ではなく、ボケない事だ。この番組の事、そしてロケのこと、さらには自分の立ち位置を考えて精一杯頑張った結果、やり過ぎてしまっただけのことで、僕の独断と偏見だが、芸人として何一つ間違ったことはしていないように思う。

 もし山添さんがコンプライアンスを気にしすぎてクズキャラを封印したり、ボケる事に憶病になってしまったら何も起こらない面白味の無いロケになってしまっただろう。しかも山添さんはこの番組をきっかけにクズというキャラクターが周知され、そのお陰で仕事も増えている。つまりこのクズというキャラクターは「相席スタート山添寛」という芸人におけるライフラインなのだ。

 キャラクターを守るということを第一に考え、キャラ崩れしない為にも直接謝罪を行わないというのは芸人サイドから見れば至極真っ当なことで、謝らないという行為自体がエンターテイメントとして成り立っており、素晴らしいとさえ思ってしまう。

 しかし、このような炎上騒ぎを起こしてしまうとクズキャラ自体を非難し「だったら違うボケ」や「違うやり方」を身につければ良いと思う人がいるかもしれない。もちろんそう思うのはごもっともなのだが、芸人という職業は隙間産業で、自分のキャラクターを見つけるのは至難の業。山添さんのように自分の見た目や声や雰囲気に合っていて、さらにボケが思いつき笑いを起こせるキャラクターを手に入れられたというのは奇跡的な事。

 もちろんそれまでに努力し、経験を積み、そして運が味方したからこのキャラクターと出会うことが出来たのだ。そんな宝物のようなキャラクターをおいそれと捨てることは出来ないのだ。もちろん山添さんのキャラが年齢やシチュエーションによって変化していくことはある。しかしそれは急な変化ではなく緩やかに自然に変化していくもので、無理やり変化させるものではないのだ。それがわかっているから芸人も関係者も擁護する人が多いのではないだろうか。

 昨今、面白いと思う事とコンプライアンスの狭間で苦しんでいる芸人さんが多い。そもそもコンプライアンスが強化されたのは、我々一般視聴者がフィクションとノンフィクションの境目が曖昧になってしまったことが大きな原因だ。テレビという媒体はテレビという媒体でしかない。YouTubeと混同している人が多いが、まったく別物なのだ。YouTubeはある程度リアリティを発信していくツールだが、テレビ、特にバラエティ番組はほとんどがフィクションであり、ファンタジーだ。

 これからはテレビ業界を我々の方に寄せるのではなく、我々がテレビへ対して正しい認識で視聴することがテレビを面白くする第一歩なのではないだろうか。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/05/19 06:00
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