九州大学が世界初、癌治療薬に依存しない細胞医薬の動物実験に成功
#鷲尾香一
九州大学の研究グループは4月21日、治療薬に依存せずに、からだ⾃⾝にがんを治療させるという細胞医薬の動物実験に世界で初めて成功したと発表した。
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/913
抗がん剤などの治療薬は、体内に投与され、それががんに到達することで効果を発揮する。しかし、投与された抗がん剤の多くは体内で代謝、消失するために効果が⻑続きしないため、抗がん剤を⽤いたがん治療は、2週間毎に1回というように複数回の投与が必要。
しかし、抗がん剤を投与すればするほど治療効果は出る反⾯、副作⽤のリスクはますます⾼まる。このため、近年では抗がん剤に依存することなく⽣体がもつ潜在能⼒を最⼤限に活かす免疫療法が注⽬されてきた。だが、がんは免疫からの攻撃を回避できるため、免疫療法で⼗分な効果を発揮できないのが現状。
発表文によると、研究チームは抗がん剤治療と免疫療法のそれぞれの問題点を同時に解決できる新しいがん治療として、感染などによって炎症となった細胞(傷)は⽣体から異物と認識されるようになり、NK細胞やキラーT細胞といった免疫細胞によって⽣体から排除される異物排除能の活⽤を目指した。
研究チームは、がん全体を“治る傷(急性の炎症組織)”にするためのアイテムとして、免疫細胞の⼀つのマクロファージに着⽬した。
マクロファージはがんに積極的に集積し、通常型(M0型)から抗炎症型(M2型)に変⾝することでがんを免疫抑制的な環境へと導く。このマクロファージの性質を活⽤し、M2型に分極することで、初めて炎症性物質を⼀気に放出するよう遺伝⼦を改変し、がんで炎症の「Trigger(引き⾦)役」となる細胞医薬マクロファージ“MacTrigger”を開発した。
MacTriggerはがんに到達するとおよそ4⽇以内で消滅するようにプログラミングされている。実験では、MacTriggerを担がんマウスに注射したところ、MacTriggerが消失する4⽇よりはるかに先の8⽇以降から抗がん効果が確認された。
これは、MacTriggerが4⽇おきに投与する必要がなく、最初の1回の投与で強⼒な抗がん効果が得られたことになる。がんを取り出してみたところ、炎症の程度を⽰す様々な値が上昇していることが分かった。
特に、⽣体からの異物の排除に最も関与するナチュラルキラー(NK)細胞やキラーT細胞といった免疫細胞ががんに侵⼊していることを確認した。これはMacTriggerによって炎症となったがんをからだが排除しようとしている証拠になった。
MacTriggerにはがん以外にTriggerとして働かないように「ロック機能」が搭載されており、マウスを⽤いた動物実験では、MacTriggerは健康な臓器にも⼀定数集積するが、臓器の炎症といった副作⽤は確認なかった。
臓器に集積したMacTriggerを詳しく調べてみると、M2型に分極せずM0型で存在し続けていることが分かった。つまり、M2型に分極しない限り炎症を引き起こさない「ロック機能」が機能し、MacTriggerを安⼼して投与することが可能となった。
今回、開発したMacTriggerは、「がんを殺傷する治療薬」というこれまでの細胞医薬とは異なり、「からだ⾃⾝にがんを治療させるきっかけを与える物質」という全く新しい概念の細胞医薬の考え⽅を提案するもの。
研究チームは、「今後は臨床応⽤に向け、効果の最⼤化やさらなる安全性の担保などMacTriggerを最良な細胞医薬へと育成していく予定」としている。
研究成果は、国際誌「JournalofControlledRelease」に4⽉19日に掲載された。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事