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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 人気ロケ地「尼崎」誕生の裏にあった物語

人気ロケ地として爆誕した「尼崎」…その裏にあった物語【インフォーマ外伝】

ペンを握って作家を目指すと決意した22年前よりも、さらに一昔前の筆者。地元・尼崎にて。

Netflixで全世界配信中のドラマ『インフォーマ』。サイゾー文芸部から発売されている原作小説も以前、高い注目を集め続けている。その作者である沖田臥竜氏の定番コラム。今回は、昨今、映画やドラマ等のロケ地として取り上げられることが多くなった「兵庫・尼崎」と、そこに連なる、著者が作家になるまでの道程について綴る――。

「地元愛はまったくない」私が、尼崎をロケ地に選んだら…

 ドラマ『インフォーマ』の撮影に、多くの関係者が奮闘したあの熱かった夏が過ぎ去っていったかと思っていたら、また、次の夏を迎えようとしている。

 いつの間にか、私の地元・兵庫県尼崎市がロケ地として使用されることが多くなった。

 お世辞にも地元愛など微塵も持っていない私からすると、「へ~」と言いたいところだが、あえて言わせてもらおうじゃないか。尼崎を撮影のロケ地として爆誕させた仕掛人は100パー、ワシである。

 だからどうしたという話だが、言わせておくれ。尼崎で撮影するにあたって当初はね、制作費の問題とかそれはそれは大変で、本当、私のためにたくさんの人が骨を折ってくれたんだから…。そのぶんワシももちろん頑張ったさ…。

 いつも「地元愛はまったくない」と書いているが、それでも私の作品を映像化するために、生まれ育った尼崎に、スタッフや俳優部の人たちが大勢来てくれたときの感動は今でも鮮明に覚えている。2年前の『ムショぼけ』しかり『インフォーマ』しかりだ。

 また、そんな日が来てくれるように、よりよい作品を書いていかねばならない。そのために、少しばかり海外へと行って来ようと思う。武者修行である……というのはウソで、海外に短期間行ったくらいで筆の腕は上がらない。

 だけど、見知らぬ国の見知らぬ街角に身を置くことで、そこでしか経験できない出来事や、感じられない匂い、触れられない文化などに出会えるはずだ。それが小説を書く上で新たな刺激になるのではないだろうか。

 物語を生み出すとき、スタートはいつも不安の中でペンを握る。果たして、最後まで辿り着くことができるだろうかという想いが脳内に充満するのだ。そんな不安だらけの自分を支えてくれるのが、物語の向こう側にある空想だ。この物語が出版されて、映像化されたらと…そんな想いを抱き続けて、気がつくともう22年間、書き続けている。

 よくやったと思う日もあれば、まだまだやんけ、と思う日もある。だけど、作品は世の中に残っていて、ドラマ『インフォーマ』は今、Netflixで世界配信されているのだ。耳を澄ませば、続編を望んでくれる声だって聞こえてくる。それは本当に有難いことで、大手出版社から、新しい小説の依頼やマンガの原作の話ももらうようになった。

 2016年に初めての小説を出してから順風満帆の作家生活を送ってきたように思われるかもしれないが、本を3冊出版したあたりだっただろうか。書く仕事がなくなったこともあった。

 そんなときいつも道を切り拓いてきたのは、自分自身であった。そしてようやく私の中で、代表作と呼べる作品となったのが『ムショぼけ』と『インフォーマ』である。ノンフィクションや対談本も含めると、『ムショぼけ』が12冊目、『インフォーマ』が14冊目であった。ようやくだった。自分で自分のことを小説家と言えるようになったのは、この2冊を出してからだった。それまでは内心、自分のことを小説家というのは、おこがましいと思っていたのだ。

 ただ、その反面、この2冊を生み出し、ドラマ化され、そのロケ地として、私が地元にこだわったからこそ、厚かましくて申し訳ないが、その後も尼崎でドラマや映画の撮影が次々と行われるようになったと思ってしまっている。謙虚と見せかけて、結局は厚かましいのは、すまん、生まれつきである。

 生まれ育った尼崎という街を見渡したとき、本当になにもない街で、好きか嫌いかと聞かれれば、圧倒的に大嫌いだ。でも他の作品で尼崎が舞台になっているということを聞くとなぜか顔が綻んでいる私がいるのである。なんと表現したらよいのだろうか。上手くいえないが、もしかすると私は喜んでいるのかもしれない。

 ただ、これで満足しているかといえば、さらさらそんな気持ちはなくて、『ムショぼけ』も『インフォーマ』も超えていかなくてはならないと常に考えている自分がいて、だからこそいつだって、悩み、苦しみ続けているのだろう。物語を生み出すとはそういうことなのだ。

 今年はあらたな大作を書こうと思っているし、読者から期待が寄せられている物語も書きたいと思っている。

 22年前。ペンを握ったとき、私は暗くて狭い場所でのたうち回っていた。いつも思うが、そのときの私が今の私を見れば、それはそれは喜んで見せるだろう。それに対して今の私が「だが、楽しいことよりも辛いことのほうが圧倒的に多いぞ」と教えてやったら、当時の私はなんと言うだろうか。

 バカで無知だった私のことだ。舞い上がってしまい、未来の私からのその声は、耳に届いていないかもしれない。

(文=沖田臥竜/作家)

【お知らせ】
5月20日、沖田臥竜氏が河合塾の文化講演会に登壇する。詳細はこちらの河合塾HPにて。


小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円

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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!


ドラマ『インフォーマ』
現在は、Netflixで全世界配信中


4分で振り返る『インフォーマ』第1話~第5話 | Netflix Japan
 
桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。

作家・小説家・クリエイター・ドラマ『インフォーマ』シリーズの原作・監修者。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)がドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2023/05/17 09:33
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