庵野秀明が竜王!? 映画『マリオ』大ヒットの下にある「ゲーム映画化」失敗の歴史
#しばりやトーマス #世界は映画を見ていれば大体わかる
任天堂のテレビゲームを原作にした映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が凄まじい勢いで世界中を席捲している。北米興行では週末3日間のオープニングで1億4600万ドルを稼いだ。これは2023年公開作品でトップの成績。その後も勢いが止まらず4週連続でトップ、世界興行収入は10億2000千万ドルに達している。アニメ映画の歴代興行記録『アナと雪の女王2』の14億000千万ドルを抜き去るのは時間の問題だ。
テレビゲームを原作として作られヒットした映画といえば『バイオハザード』『トゥームレイダー』シリーズ、今年公開のスマッシュヒット『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』などがあるが、それらのタイトルを軽く超える勢い。『ミニオンズ』シリーズで知られるイルミネーションはディズニー、ピクサーすら超えようとしている。
「何でこんなゲーム映画がヒットしているの? 映画見るよりゲームで遊べばいいじゃん」
といった意見を耳にすることも多い。言うまでもないが、ゲームと映画は違う。これまでの「ゲームの映画化」は、その違いをまざまざと見せつけられてきた歴史がある。失敗し続けてきた「ゲームの映画化」と『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は何が違うのか? ゲーム映画の歴史とともにその謎を紐解いていきたい。
ゲーム映画の歴史は1988年にはじまった。この年に2つのゲーム映画が誕生する。ひとつは『未来忍者 慶雲機忍外伝』。ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)のアーケードゲームの実写映像化だ。
和風の世界にサイボーグの戦士、‟機忍”が存在するという時代劇とサイバーパンクをミックスさせた独特な世界観の作品で、のちに仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズを皮切りに90年代以降の日本特撮作品史に多大な影響を与える雨宮慶太の初監督作。
ゲームの方は2021年にダウンロードコンテンツとして配信されるまで家庭用ハードに移植されなかったので、みんなゲームは遊んだことないけど、映画の方は知っているという認知度。
もうひとつは『ドラゴンクエスト ファンタジア・ビデオ』。有名ゲーム、ドラゴンクエストの実写映像化……というか、内容はゲームの作曲家、すぎやまこういち指揮のオーケストラ演奏にゲームのイメージ映像が差し込まれるミュージックビデオの体をなしている。
本作品の製作はゼネラルプロダクツ。ガイナックスの母体となった会社で、庵野秀明、樋口真嗣、尾上克郎、貞本義行といった錚々たるメンバーがスタッフに名を連ねている。
東映特撮や東宝ゴジラシリーズに関わった造形家、品田冬樹製作によるクライマックスの実物大竜王の頭部とアクションは圧巻のひとこと。ちなみに竜王役は庵野秀明! この人ホント、コスプレが好きなんだなあ。
この二作品は映画というよりはオリジナル・ビデオ作品としてリリースされたため、映画館で上映されたゲーム映画は1993年まで待たねばならない。
今回の映画の大ヒットを受けて一番、揶揄されているのは1993年公開の実写映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』だ。
ゲームソフトが日本と同年の1985年に販売されていたアメリカでもすでに、マリオは知られた存在だった。日本でのキャッチコピー「マリオがハリウッドを本気にさせちゃった」に釣られて映画館に足を運んだ筆者は、本気で怒った。ニューヨーク・ブルックリンの地下には恐竜人という化け物が住んでいて、彼らが地上に這い出て人間界の支配を目論んでいるという物語は……控えめにいってゲームと関係がなかった。
映画はズッコケ、「ゲームと映画は違う」という事実をまざまざと見せつけられた。ちなみに『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の舞台もニューヨーク・ブルックリンで、駄作と言われた実写版のオマージュがきちんと含まれていることにはスタッフの熱意を感じた。
本作は映像ソフトが発売され、最近でも公開20周年記念盤などがリリースされたので、観たことがある人も多いが、1986年に公開されたアニメ映画『スーパーマリオブラザーズ ピーチ姫救出大作戦!』は筆者の周りでも誰も知らなかった。
86年に発売されたゲーム『スーパーマリオブラザーズ2』のタイアップ作品でゲームの攻略映像との2本立てで夏休みの時期に公開された。みんな、夏休みの劇場でゲームの攻略法を観ていたのだ。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ではピーチ姫が活発で、自ら飛んで跳ねて大活躍するキャラクターになっているのに比べ、こちらのアニメではマリオに助けられるのを待っているだけの受け身キャラなのが時代を感じさせる(当時のゲームだから、しょうがないんだけど)。
テレビゲームにマリオが熱中していると、突然画面からピーチ姫が飛び出し、同じように現れたクッパによってさらわれてしまう。ピーチに一目ぼれしたマリオはキビダンゴという名前の子犬のあとを追い、きのこ王国に捕らわれたピーチを弟のルイージとともに助けに行く。
芸能事務所のホリプロ制作だったため、ピーチ姫の声優は山瀬まみで、クッパはなんと和田アキ子! 悪の大王なんだけどなぜか礼儀正しい口調で憎めない悪役にされているのはさすが、ゴッドねえちゃんの所以か。
内容は子供向けだし、ルイージが金の亡者(マリオの危機を無視し、金塊を掘り出して大喜びする)になってたりと、出来はお世辞にも良いものではなく、やっぱり「ゲームと映画は違う」と思わされる。VHSソフト化されたきりでDVD、ブルーレイ化もされてないため現在ではほぼ幻。映画が大ヒットしている今、再リリースされないものか。
こういった今一つの作品を経て、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の成功があるのだ。決して無視することはできない。
1991年に登場し対戦格闘ゲームブームを巻き起こした『ストリートファイターⅡ』。こちらも当然のごとくハリウッドは手を伸ばした。格闘家から俳優デビューしたジャン=クロード・ヴァン・ダムを主役にした『ストリートファイター』(1994)だ。
アメリカ映画なので米国人キャラのガイルを主役にし(ヴァン・ダムはベルギー人だけど)、悪の軍事独裁国家シャドルーをガイル率いる連合軍の兵士たちが壊滅させるというストーリーは分かりやすかったが、ゲームの設定とはかけ離れたキャラを見て、「ゲームと映画は違う」と思い知らされた(またかよ!)
一部の登場人物はさまざまな問題から海外版のキャラクター名が使われており、日本版の登録名で登場するのは2009年の『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』まで待たなければならなかった。こちらは94年版よりは原作ゲームに近づいていたが、主役級キャラのリュウ、ケンが完全に蔑ろにされていて、ファンを満足させるには至らなかった。
そこで登場したのが2014年の『ストリートファイター 暗殺拳』! 原作ゲームのファンを公言するイギリス人俳優、スタントマンのジョーイ・アンサーはこれまでの二本の映画を
「こんなのストⅡじゃない! 俺が本物のストⅡ映画を見せてやりますよ!」
とばっさり断罪して短編映画をYouTubeにアップしたところ、ファンの間で好評を呼び、カプコンUSAの許可を得て長編映画を完成させた!
この映画は実写で初めてリュウ、ケンを主役にして、二人の師匠、剛拳とその弟、豪鬼も登場する。この映画何がすごいって登場人物がちゃんと日本語を話していて(ただし英語とのチャンポン)「波動拳」「昇竜拳」といった必殺技名も日本語で発する。
ほかにも「殺意の波動」とか「武者修行」まで英訳しないで日本語を使ってる!
さらにリュウ、ケンが繰り出す突き、蹴り、投げ技もゲームのキャラの挙動をそのまま再現しており、これぞ本当のストⅡ映画! ストⅡファンのジョーイ・アンサーからのアンサー(答え)だぜ!
こんな素晴らしいゲーム映画がなぜか、日本国内では一日限りの限定公開、ビデオスルーという扱いになり、興行的な成功にはたどり着かなかったのが残念だ。そこは『聖闘士星矢 The Beginning』ばりの拡大公開しないと! まあ、聖闘士星矢は拡大しすぎて失敗してるけど……。
『ストⅡ』の翌年、海を越えたアメリカにも対戦格闘ゲームが誕生した。『モータルコンバット』だ。「命がけの戦い」という名のこのゲームはなんと、実写取り込みのキャラクター同志が戦うのだ。
『モータルコンバット』が『ストⅡ』の流れを組む和製格闘ゲームと一味違う点は、相手のキャラに止めを刺す必殺技‟フェイタリティ”(日本語訳は「究極神拳」)の存在。相手を炎で燃やし尽くして骸骨に変えたり、相手の首を脊髄ごと引っこ抜くといった残酷な技の数々は、アメリカはもちろん日本人のゲーマーの度肝を抜いた。
人気を受け、当然のように実写映画が作られた。『モータル・コンバット』は『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』『ストリートファイター』たち失敗の記憶も生々しい1995年に公開。
血なまぐさい残酷ゲームの映画化なんだから、ゲームに引けを取らないスプラッター、ゴア描写の数々で全米の劇場を絶叫の渦に巻き込むのだろう……と思いきや、夏休みシーズンに公開された同作のレイティングは、PG-13(13歳未満は保護者同伴が望ましい)。このレイティングでは残酷描写は望むべくもなく、気の抜けたユーロビートが流れるこの作品は、どう見ても「命がけの戦い」には見えなかった。
しかし「残酷な描写がないからお子様も安心」という路線が全米のパパママを安心させたのか、『ストリートファイター』を上回るスマッシュヒットとなり、監督のポール・W・S・アンダーソンの名を一躍高め、彼はのちに『バイオハザード』シリーズ、『DOA/デッド・オア・アライブ』、『モンスターハンター』とゲームの実写映画を次々手掛けることになる。そして彼のすべての映画が「ゲームと映画は違う」ことを思い知らされるのだ(やっぱり)。
だが2021年にアンダーソン監督の手を離れリブートされた『モータルコンバット』が登場。今回のレイティングはR指定。ついに‟フェイタリティ”が映画館で解禁され、全米格ゲーファンが熱狂。超大作『ゴジラVSコング』を蹴散らして首位スタートとなった。
20年以上の時をかけ、『モータルコンバット』は「ゲームと変わらぬ映画」に達した。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も30年前の失敗を取り戻す大成功を収めた。
失敗したゲームの映画の多くは、クリアできずに途中で投げ出してしまった子供が「こんなクソゲー、二度と遊ばねーよ」とぼやくようなものだ。どんなゲームもクリアするまで遊ばなければ魅力はわからない。
ゲーマーたちはファミコンすら触ったことがなさそうなスタッフによる底の浅い、「クリアしていない」ゲーム映画を観ながら、
「俺なら、もっとうまくやれる」「この映画にコントローラーがあったら、最後までクリアしてやるぜ」
と映画館で空想のコントローラーを手にしていることに製作者たちは気づいているだろうか。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は見事に最終エリアまでクリアしてくれた映画だから、ヒットしたのだ。
フジテレビONEの人気番組、『ゲームセンターCX』はよゐこの有野晋哉が数々の激ムズゲームにチャレンジする。『プリンス・オブ・ペルシャ』に挑戦した回は番組中屈指の名作回で、三日間計23時間という苦闘の果てについにクリアするのだが、「疲れたけど・・・このゲーム面白かったわー!」と言わんばかりの表情を見て欲しい。ゲームの魅力はクリアするまでわからない。映画もきちんとクリアしてくれないとさあ!
ちなみにこのゲームにも『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010)という実写映画があるんだけど……「ゲームと映画は違う」って思ったね!
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