米国ビール王の誤算…キャンペーンに保守派猛反発で「バドライト」不買運動に発展
#ビール #米国
米国で最も売れているビール「バドライト」の売り上げが急落している。トランスジェンダー(出生時の性と自認する性が一致しない人)のインフルエンサーと提携して宣伝したところ、保守派の猛反発を招き全米規模での不買運動に発展したからだ。問題が発覚して1カ月以上たっても事態は収束せず、このままではナンバーワンブランドの座を失いかねない、との声も聞かれるようになった。
日本の国会では性的少数者(LGBTQ)らへの理解増進法案をめぐり自民党内の調整が難航し、日本の対応の遅れが浮き彫りになっているが、日本人が「性的多様性の先進国」だと思い込んでいる米国社会は、過激な意見対立に悩まされている。
「バドライト」は「バドワイザー」を製造するアンハイザー・ブッシュのビール。1982年に「バドワイザー・ライト」の名前で販売が開始され、2年後に今の「バドライト」に名称が変更された。
典型的なアメリカンラガービールである「バドワイザー」のアルコール度数が5%であるのに対し、「バドライト」は4.2%。既存のビールに飽きを感じていた消費者の心をつかんで売り上げを伸ばし、業界のトップブランドに昇りつめた。「ライトビール」という新しい領域を定着させた立役者である。
日本と同様に米国でも、ビール会社はスポーツイベントなどの主要なスポンサーだ。アンハイザー・ブッシュは、米国民が熱狂する大学バスケットボールのビッグイベント「NCAA・マーチ・マッドネス・トーナメント」のスポンサーとして「バドライト」をPRするため、今年3月、トランスジェンダーのインフルエンサーで俳優のディラン・マルバニーさんをキャンペーンキャラクターに起用した。
マルバニーさんは2022年3月から、自分が男性から女性になる様子を毎日、ソーシャル・メディアで報告している。スタート当初は男性で、無精ひげをファンデーションで隠すようにしているのがはっきり分かるが、徐々に女性らしくなり、その変化が視聴者の関心を集めた。
キャンペーンでは、マルバニーさんが泡風呂に入りながら「バドライト」を飲む様子などが配信され、「バドライト」は性の多様性と共に歩むというようなメッセージが米国市民に向けて発信された。マルバニーさんの似顔絵が描かれた「バドライト」の缶も登場(市販はされず)し、人気のインフルエンサーとのコラボレーションで売り上げの増加を目指した。
ところが、このキャンペーンに保守派が激しく反発した。歌手のキッド・ロック氏は缶入り「バドライト」を水辺に並べて、自動小銃を乱射して破壊する映像を自身のソーシャル・メディアのアカウントにアップした。ロック氏は銃を撃ち終えた後、テレビや新聞では使用できない侮辱的な表現を使い「糞バドライト、糞アンハイザー・ブッシュ。良い日を送ってくれ」と語り、キャンペーンへの嫌悪感を示した。
また、カントリー歌手のトラビス・トリット氏は、アンハイザー・ブッシュとのパートナー契約でツアーバスに持ち込んでいた同社の製品を、ツアーバスから排除したと発表した。保守派の有名人らの対応に呼応して、保守系の一般消費者も「バドライト」をトイレに流して捨てるところをソーシャル・メディアにアップするなど、「バドライトたたき」が広がり、あっという間に不買運動につながった。
このため「バドライト」の売り上げは急落した。ビール業界に詳しい調査会社、バンプ・ウイリアムズ・コンサルティングによると4月第3週は前年同期比で17%減、第4週は同21%減となった。飲料業界ニュースサービス会社のビール・ビジネス・デイリーによると、「バドライト」の4月単月の売り上げは同21.4%減だったという。
アンハイザー・ブッシュは保守派による不買運動に対応するため、4月中旬にキャンペーンの内容を変更した。テレビやインターネットのCMは、同社が長年、コマーシャルなどで使用しているクライズデールと呼ばれる馬が米国各地を走る愛国的な内容に差し替えた。CMには星条旗を掲げる米国市民の姿も映し出された。
4月14日にはブレンダン・ウィットワースCEOが「私たちは人々を分断させる議論の一部になるつもりはなかった。ビールを飲みながら人々を結びつける仕事をしている」と声明を発表し、キャンペーンが騒動を引き起こしたことについて事実上、謝罪した。マルバニーさんの起用に関わった担当役員らは、休職扱いになっている。
それでも、保守派の反発は収まらず、売り上げが急落したまま5月に入った。一方でライバルのクアーズやミラーはライトビールの売り上げを急増させている。専門家は「マルバニーショックは一過性ではない」との見方を強めており、トップブランドの座の維持を危ぶむ声が出始めた。
アンハイザー・ブッシュはこれまでも、虹色ボトルの「バドライト」を販売するなど、性的多様性を意識した商品を展開してきた。それでも、これまで保守派から大きな反発はなかった。マルバニーさんの場合は、2022年10月、トランスジェンダーを代表する形で、ホワイトハウスでバイデン大統領と面会している。このころから保守派はマルバニーさんを個人攻撃の対象にしていた。アンハイザー・ブッシュがこうした点を熟知していれば、キャンペーンに起用しなかったかもしれない。
企業としての緻密さの欠如が不買運動を誘発したのかもしれないが、アンハイザー・ブッシュは、性的多様性に対する保守派の反発を少々、甘く見ていたのかもしれない。
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