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『カリオストロの城』ミートボールパスタに込められた宮崎駿の真骨賞

『カリオストロの城』ミートボールパスタに込められた宮崎駿の真骨賞の画像1
日本テレビ系『金曜ロード―ショー』ウェブサイトより

 GWの2週連続ルパン三世特集、今週は日本テレビ系『金曜ロードショー』で13回目の放送となる常連プログラム、『ルパン三世 カリオストロの城』が登場です。
 
 ルパンと次元、五ェ門の三人は鮮やかな手口でモナコの国立カジノの金庫破りを成功させ、抱えきれないほどの大金を奪うことに成功。逃亡する車内に満載された大金を前に大はしゃぎする一味。しかしルパンはふと我に返り、これは偽物だと告げる。
 
 「幻の贋札」と言われた「ゴート札」。それがモナコの国立カジノにまで出回っていることに目をつけたルパンは、その出どころを探ることを次の標的と定め「前祝いにパーッとやっか!」と愛車フィアット500のサンルーフから、ゴート札を投げ捨てる。ここに主題歌「炎のたからもの」が流れてくるという最高のオープニング。
 
 ゴート札の出どころが小国、カリオストロ公国であるとにらんだルパンらは入国を果たす。道中、ウェディングドレス姿の少女が男たちに追われ、車で走り去るのを見るやいなや後を追い、男たちを撃退して少女を救うが、別の追っ手によって少女は連れ去られる。
 
 少女が残していったドレスグローブからこぼれ出た紋章入りの指輪を見て、ルパンは何事かを思い出すのであった。
 
 少女の正体はカリオストロ公国を統治していた大公の公女、クラリスで大公夫妻が事故死した後、長らく修道院で暮らしていたが公国の現在の統治者、カリオストロ伯爵との政略結婚を強いられそうになり、逃げだそうとしていたのだった。城に戻されたクラリスが指輪をしていないのを見たカリオストロは、指輪の奪還と証拠隠滅のため、ルパンらに暗殺者を差し向ける。その頃、伯爵の城には変装した不二子が召使として潜入していた。
 
 暗殺者の手から逃れ「クラリスをいただくために参上する」とメッセージを残したルパンと次元は、彼女が幽閉される城に忍び込む。予告状を聞きつけた銭形警部がやってきたのを利用し、ルパンはクラリスと再会するが侵入者を始末する地下牢獄へ落されてしまう。隙に乗じてクラリスの指輪をすり替えていたルパンは、地下で銭形と再会。地下には公国がゴート札の製造に関わっている動かぬ証拠があった。二人は脱出のため一時、共同戦線を張ることに。
 
 地下を脱出したルパンらは不二子の助けを得てクラリスを取り返そうとするが、伯爵らから銃撃を受け、すんでのところを逃げ出す。大公夫妻に使えていた庭師の老人に命を救われたルパンは、かつて若かりしころ、ゴート札の秘密に迫らんとしたが、重傷を負って這う這うの体で逃げ出すしかなかったことを語りだす。瀕死のルパンを助けたのはまだ幼いクラリスであった……。
 
 伯爵とクラリスの結婚式が行われようとする中三度、ルパンはクラリスを取り返さんと城へ向かう。
 
 本作は映画ルパン三世シリーズの第一弾『ルパン三世 ルパンVS複製人間』がヒットしたことを受けて制作がスタート。監督はテレビのルパン三世第1シリーズ後半の演出を担当していた宮崎駿だ。
 
 


 
 ルパン三世第1シリーズは当初、視聴率が伸びず途中から宮崎、高畑勲という後にスタジオジブリで名を馳せることになる二人が演出を手掛けることに。二人はそれまでの大人向けの作風に手を加え、子供向けに舵を切る。この路線変更はルパン三世テレビ第2シリーズが全155話というロングランヒットになるほどの成功を収める。
 
 そして『カリオストロ』監督の要請を受けた宮崎はかつて所属していた東映動画、ルパンテレビシリーズの総決算として本作を手掛ける。
 
 よって前作『VS複製人間』のようなテレビ第1シリーズ初期のハードボイルドタッチや稀代の大泥棒によるピカレスク・ロマン的な物語は影を潜め、その代わりに東映動画お得意の冒険活劇、重力に逆らった大胆な人物の躍動、派手なカーチェイスやオートジャイロによる空中アクションといった、「宮崎駿的な」演出が全編にわたって展開されている。ちなみに本作は宮崎駿の初映画監督作品だ。
 
 後の巨匠、国民的映画監督の最初の映画作品なのだが、公開当時は興行的な評価が得られず、『VS複製人間』の半分以下という数字に終わった。前作のヒットは「大人向けのアニメが見たいという観客の声によって支持されたからだ」と言われており、確かに『VS複製人間』のSFテイストや大人向けのムードに比べると『カリオストロ』には未来的なテクノロジーがなく、泥臭いアクションで、低年齢層向けに見える。
 
 宮崎は自身が子供のころに夢中になった江戸川乱歩の小説や海外のアニメ作品からの引用を散りばめているので、いかんせん古臭く受け取られてしまったことが興行的な成功に繋がらなかったのだろう。
 
 しかし作品としての評価は今も昔も圧倒的に高く、スリル満点のカーチェイスや、宮崎と作が監督の大塚康生の趣味が炸裂したリアルな銃器、不気味なカリオストロ城の設定や上や下に移動するアクション、クラリスを助けようとして一度、二度、失敗し、また挑戦するという繰り返しの展開など、その後のアニメに多大な影響を与えている。
 
 そしてこの作品をわずか半年ほどで完成させたということには、驚きを禁じ得ない。当時38歳(!)という若手だった宮崎は、若さゆえの勢いでがむしゃらに突っ走って初映画監督作品を作り上げた。
 
 宮崎駿のルパン三世像が受けたのは、当初のルパンのイメージだった「退廃的な貴族の末裔」から「素寒貧の貧乏人が面白いことをやらかそうとする」に転換したことだと言われている。カリオストロ伯爵が洒落た朝食を口にしているのに比べ、ルパンらは街の食堂でミートボールパスタを奪い合って食い、銭形はカップ麺を啜る。
 
 後半、カリオストロがゴート札作りに関わっている証拠を掴んだ銭形が、インターポール各国の代表を前に強制捜査を主張する場面は見所。
 
 カリオストロは世界各国の政権の裏に深く関わっており、それを暴かれたくない各国は「高度に政治的な問題だ」と口を濁し、ついには銭形を捜査から外してしまう。
 
 宮崎駿がこのシーンの絵コンテに「この映画最高の悪党ヅラ」と書き込んだことでも知られるこの場面に、多くの観客は正義を貫こうとする銭形がなぜ閑職に追いやられるのか? と怒りに震えるでしょう。
 
 こうした庶民の心に訴えかける作風はまさに宮崎駿の真骨頂ともいうべき重要な点で、庶民らしさ溢れるキャラクター像が今もルパンが国民的作品として人気がある理由だろう。
 
 『カリオストロ』は、映画としてはヒットはしなかったが評論筋の評価が高く、特にヒロインのクラリスは劇場版ルパンのヒロイン像を代表するキャラクターとして確立され、その後の映画ルパンシリーズには「クラリスみたいな」ヒロインが何度も登場する。
 
 『カリオストロ』はルパン三世というアニメ作品のイメージ、評価を決定づけた作品だ。女性や子供に対してロマンティックすぎるルパン像は今もファンの間で評価が分かれるところで、映画ルパンの最高傑作を『VS複製人間』、『カリオストロ』のどちらにするかで今もどこかでファンが激論を繰り広げている。さて、あなたはどっち?

 

 

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/05/06 21:44
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