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台湾へ圧力強める中国、代理戦争で久々に敗北も米国にとっては最悪の政治ショーに

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写真:新華社/アフロ

 台湾と外交関係のある国に断交を迫る中国は、その圧力を強め、次々に中国への「鞍替え」を実現させているが、久しぶりに「黒星」が付いた。長く台湾と外交関係を持つ南米パラグアイの大統領選は4月30日に投開票が行われ、台湾派の与党候補が当選した。選挙は中国との外交関係樹立を公言する野党連合候補との事実上の一騎打ちとなり「中台代理戦争」の様相を呈したが、結果は圧勝だった。

 台湾外交部(外務省)は間髪入れずに歓迎の声明を発表した。台湾有事への警戒感を強める米国にとっても、胸をなでおろす結果のように見えたが、話は単純ではなかった。当選を宣言した台湾派候補の隣には、イスラム系テロ組織とのつながりが疑われ米国の制裁の対象になっている元大統領の姿があったからだ。米政府関係者にとっては台湾派勝利の安堵感が吹っ飛ぶ最悪の「政治ショー」となった。

 パラグアイの次期大統領に決まったのはサンティアゴ・ペニャ氏(44)。国際通貨基金(IMF)にも勤務したことがある経済学者だ。パラグアイは35年間続いたストロエスネル軍事独裁政権の時代を含め70年以上に渡りコロラド党が政権の座にある。1党独裁による政治腐敗に国民の反発が強まったため、今回コロラド党は若いペニャ氏を擁立して政権維持を目指した。

 対する野党連合候補は中道左派で、「ピンクタイド」と呼ばれる南米での左派政権誕生の波に乗ろうとした。中国と国交がないことで主要農産品である牛肉や大豆を中国に輸出できないことに対する農家の不満を吸い上げて、中国との国交樹立を公言し、支持を急速に拡大した。

 保守政治の続くパラグアイは米国にとっては友好国だ。中国がラテンアメリカで経済的影響力を強める中で重要なパートナーである。そういう意味で米国は、今回の大統領選でも単純にコロラド党のペニャ氏を支援すれば良いことなのだが、問題を複雑にしているのは、コロラド党の党首であるホラシオ・カルテス元大統領(66)の存在だ。

 カルテス元大統領は銀行やタバコ会社、食品会社などを所有する実業家で、パラグアイの大富豪として知られる。政界でも影響力を誇示したいと2009年に入党。資金力にものを言わせ2013年の大統領選で当選した。ただ、その手法は強引で政治腐敗の象徴となった。

 米財務省によると、カルテス元大統領は自らへの支持取り付けや政権運営を円滑にするために、政治家や役人らに広く賄賂を渡した。2013年の大統領選では多くの党員に1人当たり1万ドル(137万円)を渡し、買収した。大統領在任中も与党の国会議員に1カ月5万ドル(685万円)を個人的な手当として渡していた。

 米財務省は、こうした汚職行為が中南米で暗躍する親イランのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラと結びついていると見ており、国際的なテロとの戦いをカルテス元大統領が妨害しているとして今年1月、制裁の対象にした。

 米国としてはパラグアイの政治腐敗の一掃を望んでいるが、中国をけん制するためにも台湾派の政権は維持したい。カルテス政権で財務相を務めながら、どろどろとした政治とは縁遠いとされるペニャ氏は微妙な立ち位置でうまく舵取りができるだろうと米国は考えた。

 しかし、ペニャ氏は米国の期待を裏切った。カルテス元大統領と一線を画すどころか、当選早々、カルテス元大統領が勝利の立役者であると賞賛したのである。

 パラグアイが台湾と外交関係を結んだのは1957年。共に独裁政治家が統治している時代だった。ラテンアメリカではキューバを筆頭に共産勢力が台頭していた。米国は足元のラテンアメリカで共産主義政権が誕生することを阻止するため、各地の独裁者と手を組んだ。中国に対抗する台湾と外交関係を持つ国がラテンアメリカに多いのはこのためだ。

 しかし、時代は移り変わり、中国が世界経済の中心的プレーヤーになると、台湾よりも中国と外交関係を持つ方が自国に優位となると考える国が増えた。中国もこのタイミングを見逃さず台湾追い落としの圧力を強めた。

 ラテンアメリカでは2007年にコスタリカが、2017年にパナマが、2018年にエルサルバドルとドミニカ共和国が、2021年にはニカラグアが、そして今年はホンジュラスが、台湾と断交し中国と外交関係を結んだ。

 台湾との外交関係を維持しているのは13の国だけとなった。人口が700万人に満たないパラグアイは、台湾にとって最大の外交関係国となる。台湾を側面支援したい米国にとっては、時代とともに複雑になる政策のもつれを一本一本ほぐしながらのラテンアメリカ外交が続く。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2023/05/04 07:00
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