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伊集院光「まさかウサちゃんに泣かされると思わなかったな」
一方で、まったく目を離せなかったのが27日の『魔改造の夜』(NHK総合)だ。
同番組は、エンジニアたちが子どものおもちゃや日用家電などを“魔改造”し、競技に挑む番組である。これまで、ポップアップトースターで食パンをどれだけ高く飛ばせるかを競ったり、歩く犬のおもちゃをすごく速く走れるように改造して25m走をさせたりしてきた。
特番で何度か放送され、この4月から月1のレギュラー放送となった同番組。そのレギュラー初回となった今回の競技は「トラちゃんウサちゃん50m走」である。トラとウサギの電池で動く小さなおもちゃを改造し、50mのバトンリレーで速く走ったチームが勝利するレースだ。スタートの操作はスイッチを1回押すのみ。試技は2回。改造費は試作もふくめ5万円以内に制限されている。おもちゃのトラからウサギにいかにバトンをパスするか。そこが勝利の行方を左右する。
挑戦したのはKセラ、T・DK、Yマハ発動機。もはや伏せ字の意味もないわけだが、いずれも国内の大手メーカーである。各チームの編成はそれぞれ30~40人ぐらいだろうか。撮影は工場のようなところで行われているのだけれど、そこに各チームが入場してくるさまは壮観だ。
入場が終わると、各チームの“魔改造”のお披露目タイムである。ぬいぐるみ部分が切り刻まれ、さまざまな金属で串刺しにされた、当初からは似ても似つかない姿へと変貌してしまったトラちゃんとウサちゃんが披露される。このとき敵チームの改造を見た各チームがザワつくのだが、その感じがいい。「全体的に華奢だね」「かわいい」「確実性は高そう」「(うちのと)近いね」「うまく作り込んでる」「下半身が妙な格好」「足が滑っちゃいそう。どう解決してる……」。自分たちが1カ月半ほどかけて取り組んできた難問に、別のチームはどのような答えを出したのか。そんな興味でめいめいにしゃべってザワザワする感じが、見ていてワクワクする。
第1試技。各チームが“魔改造”したトラちゃんにスイッチを入れる。だが、Kセラはコースのガイドにネジの部分が乗り上げてしまい、止まってしまう。T・DKは、トラちゃんからウサちゃんへのバトンパスがうまくいかずに、失格になってしまう。ミスの原因は、番組が用意した本番のコースがきれいなので制作時よりトラちゃんのスピードが速くなったためらしい。紙一重の偶然が勝敗を左右する。
一方、ファーストトライでゴールまでたどり着いたのはYマハ。トラちゃんを後ろ向きに走らせ、尻尾に突き刺したバトンをウサちゃんの耳にぶっ刺すという、合理性を優先したまさに“魔改造”のマシンで挑んだYマハは、ところどころでコースのガイドに引っかかりながらも確実にバトンを受け渡し、ウサちゃんがなんとかゴールにたどり着く。その“えっちらほっちら”という感じ。“魔改造”を施され見るも無惨な格好になってしまった無機物にもかかわらず、なぜか命あるものを見るときのように応援してしまう。タイムは1分24秒43。世界ではじめての競技の、世界ではじめての記録である。
試技の途中で各チームの制作過程のVTRが挟まるのだが、それもよい。失敗をいかに次につなげるかの試行錯誤。他部署にも応援を求めるチームワーク。予定通りに作業が進まないなか、チームの士気を高めまとめあげるリーダーシップ。個とチームの関係をめぐるあれこれが映し出される。子ども用のおもちゃを改造してリレーさせるといった遊びのようなものに、真剣に挑んでいる姿が見えるのもいい。
さて、第2試技だ。各チーム、1回目のミスを修正した上でのトライである。コースのガイドにぶつかってトラちゃんのスピードが落ちていたKセラは、モーターの出力を上げた。勢いよくスピードを上げて走るトラちゃん。しかし、センサーで受け渡されるはずのバトンを、トラちゃんは噛んだまま放さない。どうやら、スピードを上げすぎたことでセンサーが反応しなくなったらしい。第1試技に続いて、ギブアップとなってしまった。
続けて、T・DK。第1試技でバトンパスを失敗したこちらはむしろ、トラちゃんのスピードを落とす作戦に出る。結果、ギリギリでバトンの受け渡しがうまくいく。トラちゃんから発出されたバトンを、ウサちゃんががっちりとつかむ。そのままウサちゃんはゴールし、リーダーとメンバーががっちりと抱き合う。やはり“えっちらほっちら”と進むウサちゃんが健気だ。T・DKの社員はそんなウサちゃんを両手を広げて迎え入れる。記録は暫定トップの43秒41。Yマハの第2試技はこのタイムを超えられず、T・DKの優勝となった。
一部始終を見守っていた伊集院光が目元を拭いながらつぶやく。
「まさかウサちゃんに泣かされると思わなかったな」
合理性と偶然性。個とチーム。遊びと真剣さ。『魔改造の夜』にはいろんな要素がつまっていて、一般の人たちを主人公にした技術系の番組ながらも、時に手に汗を握ったり、時に目元を拭ったり、あるいは自身の仕事への向き合い方について振り返ったりもするような、極上のエンターテインメントになっている。私はあまり知らないエンジニアの世界の技術やチームワークなどを取り上げている番組なのだけれど(だからこそ楽しめるという面もあるかもしれないが)、目が離せなかった。そして、そんなすばらしい番組にもまた、私の十分に知らないテレビの業界の技術やチームワークがつまっているのだと思う。
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