相席スタート山添寛の高円寺街ブラロケと“違和感”の上書き
#テレビ日記 #飲用てれび
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(4月23~29日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
山添寛「どうやった、クレーム勢?」
視聴者にいかに番組を見させるか、チャンネルを変えさせないか。テレビの制作者たちはそのことに知恵を絞り、試行錯誤の末にさまざまな技が生み出されてきた――といった話を聞くことがある。視聴者にはあまり知られていない、気づかれていないものも含め、番組を見させるための工夫が番組のなかにはあれこれあるはずだ。
ただ、そんなテレビの“至上命題”とでもいえそうなものを、あまり気にしてなさそうな企画を見ることがときどきある。
『スーパー山添大作戦』(テレビ朝日系)。相席スタートの山添寛がMCを務める、この4月からはじまった新番組だ。24日の放送は、山添の次のような導入ではじまった。
「さあはじまりました、かん散歩でございます。本日は高円寺ということでございまして、この高円寺、若手芸人がたくさんお世話になってる街でございます」
高円寺の商店街の入口をバックにした、なんだか穏やかなオープニング。『ラヴィット!』(TBS系)などで“悪童”っぷりを発揮してきた彼とは思えない導入だ。が、番組はそのまま何事もなかったかのように進行し、ゲストのニューヨーク(嶋佐和也、屋敷裕政)が呼び込まれる。いつもと違う山添のゆるい雰囲気を、当然、屋敷はいぶかしむ。
「なんなんすかさっきからそのテンション。気持ちの悪いテンションで。おもろないな、さっきから」
その後も山添はニューヨークの強めのツッコミに怪訝な顔をしたり、指をさしたりスタッフの体型をいじるニューヨークに注意をしたり。なんだか違和感がつのるオープニングだ。
しかし、そんな違和感は特に処理されることなく、街ブラロケは続く。3人が訪れたのは高円寺の駅からほど近い居酒屋。そこで、山添らはお店のおすすめだというマグロの中落ちと、さばみそグラタンに舌鼓をうつ。味のおいしさを褒め、値段の安さに驚き、嶋佐が服に食べこぼしをしているのを指摘する。特に笑いはない。波風は立たない。山添がニューヨークを置いてロケを終え、先に帰るといったことはない。
3人は続けて洋服店を訪ねる。個性的な服が並ぶ店だ。山添は将棋の駒がプリントされたMA-1など、ちょっと変わった服を試着してみたりする。それを見て、ニューヨークは「高円寺のラップグループの5人くらいのうちの1人におりそう」とかたとえたりする。が、そこから特に展開はない。そこから3人が“悪ふざけ”をはじめるといったこともない。嶋佐や屋敷も変な服を試着したようだが、そのあたりはナレーションで説明されるのみでほぼカットされていた。
何事もなく街ブラは終わり、エンディング。答え合わせをするように、山添が語りはじめる。
「ノークレームロケ大作戦は以上になります」
山添いわく、今回の企画は、面白さがまったくないノークレームのロケの遂行だった。というのも、少し前、ワールド・ベースボール・クラシックをめぐって嶋佐が言ってもいないことを「言った」とされ“炎上”した。言ったことを切り取られて“炎上”するのはこれまでもあったが、言ってないことで“炎上”するとなると、これはもうボケる人がいなくなってしまう。だから、ノークレームロケを今回はお届けしたのだ、と山添は言う。答え合わせを終えた山添は、いつものような“悪童”の顔をカメラにさらし、煽るのだった。
「どうやった、クレーム勢? この15分おもんなかったって感じたんなら、すんなよ?」
それにしても、である。私たちは何か違和感を覚えても、それを抱き続けることは難しい。少なくとも私は、オープニングで少し違和感をもったものの、その後、ゆるすぎるロケを見るなかでそんな違和感を手から離してしまった。見どころが特にない、ただただ時間が流れるだけの映像を見るうちに、違和感は上書きされてしまった。
というか、ながら見をしてしまった。Twitterのタイムラインとかに目を通し、気もそぞろに番組を見てしまった。エンディングを見て、そういう仕掛けだったのかと思ってもう一度配信で見直してみた。が、そんな2回目も気を抜くと、ながら見しそうになった。というか、した。
だが、改めて考えてみると、この企画の趣旨をふまえるならば、ながら見が正解とも思えてくる。どこからもクレームをつけようもない番組をつくろうとすると、それは、ながら見を誘発するものになる。企画の目的を達成するためには、じっくり見られるものであってはいけない。だからある意味、ながら見が視聴態度として正解とも言える。とはいえ、それなりに見てもらわないと、そもそも企画の目的が伝わらないわけだが――。
番組をしっかり楽しんでもらうためには、しっかり見てもらうようなものであっては困る。テレビ番組の臨界にあるような、奇妙で面白い企画だった。
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