『アダマン号に乗って』ナレーター・内田也哉子が「おとぎ話のような本当の話」
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第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞「金熊賞」を受賞した、ドキュメンタリー映画『アダマン号に乗って』の初日舞台挨拶が4月28日、ヒューマントラストシネマ有楽町で開催された。
本舞台挨拶には本作を手がけた現代ドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督と、本作で予告のナレーションを務めたエッセイスト・内田也哉子が登壇。歴史的快挙を成し遂げた本作の魅力などを語った。
「自然さと作家性を感じる稀有なドキュメンタリー作品」
『アダマン号に乗って』は、パリのセーヌ川に浮かぶデイケアセンターの船「アマダン号」を取り上げたドキュメンタリー映画。精神科医療の世界に押し寄せる「均一化」「非人間化」の波に抵抗し、共感的なメンタルケアを貫くアダマン号の日々を優しい眼差しで捉えた。
『音のない世界で』(92)や『ぼくの好きな先生』(02)などで知られるフィリベール監督だが、本作には監督と20年来の交流をもつ配給会社ロングライドが『人生、ただいま修行中』(18)に続き、共同制作として参加。
ドキュメンタリー映画の金熊賞受賞はベルリン国際映画祭史上2度目の快挙とのことで25カ国以上での公開が決定し、このほど日本でも時期を繰り上げて公開されることになった。
4年ぶりの来日を果たしたフィリベール監督は、金熊賞受賞について「まったく予想していませんでした。コンペ部門で上映・ノミネートできただけでも嬉しいことでした」とトーク。
「アダマン号は船でありながら航行するのではなく、セーヌ川に浮いている建造物です。旅行や旅はしない、けど『アダマン号に乗って』という作品はここまで旅をしてきました。日本の皆さんに届けられることをとても嬉しく思います」と語った。
『ぼくの好きな先生』の日本公開時にコメントを寄せるなど、フィリベール監督と20年来の縁がある内田は、フィリベール監督へ花束を贈呈。本作の感想を語った。
「『ぼくの好きな先生』に出会ったときも本当に静かな衝撃を受けましたが、今回の『アダマン号に乗って』もそうでした。人ってカメラを向けられると、どうしても自然さが失われてしまうと思うんですが、本当にカメラが溶け込んでいるかのように自然体の姿が撮れている。それでいてフィリベール監督の作家性もきちんと感じられる稀有な作品です」
社会的マイノリティーとされる存在に長年スポットを当ててきたフィリベール監督は、内田からドキュメンタリー制作の醍醐味について尋ねられると、次のように語っていた。
「僕にとってドキュメンタリーを撮ることは、他者や世界に出会い学ぶことであり、自分について学ぶことでもあります。フランスではドキュメンタリーというジャンルは少し過小評価されていて、本当の意味での映画ではなく、報道的な意味合いの作品とされる。もちろん、そういう作品もあるんですが、僕自身はドキュメンタリーも本当に映画そのものだと思っているし、ドキュメンタリーに対する皆さんの考え方が少しずつ変わっていけばいいなと思っています」
精神疾患のある人々を無料で迎え入れ、さまざまな創造的な活動を通じて社会と再びつながりを持てるようサポートするアダマン号が舞台となった本作だが、内田さんは「おとぎ話のような本当の話」と評する場面もあった。
「ドキュメンタリーとして日常を切り取りながら、まるでフィリベール監督が禅のお坊さんのようにずっと禅問答をされている。私たち観客もそれと一緒にたゆたうような感覚の作品で、観終わった後もずっと思いを巡らせられるような作品だと思います」(内田)
フィリベール監督は「「アダマン号」はフランスの精神医学の現場でもユニークな存在」とした上で、本作に込めたメッセージを語っていた。
「精神疾患を持つ人たちに対して不信感を持ったり、暴力的な怖い人たちなんじゃないかと思ったりするかもしれませんが違うんです。非常に感受性が強い一方で、やはり少しか弱いところを持っている。それこそが私たちとの共通項であり、だからこそ彼らの姿が私たちの胸を打つんじゃないかなと思います」
『アダマン号に乗って』は、4月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中だ。
『アダマン号に乗って』心を病んだ人が感じる「居心地の良さ」とは?
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