『BREAKING DOWN』オーディションを面白くする「試合時間1分」という見事な設定
#アレのどこが面白いの?~企画倉庫管理人のエンタメ自由研究~
放送作家の深田憲作です。
「企画倉庫」というサイトを運営している私が「あの企画はどこが面白いのか?」を分析し、「面白さの正体」を突き止めるための勉強の場としてこの連載をやらせてもらっています。
今回のテーマは「朝倉未来選手が代表を務める『BREAKING DOWN』について」です。
『BREAKING DOWN』は「1分間最強を決める。」というコンセプトで行われている総合格闘技。格闘家だけでなく、喧嘩自慢、ユーチューバー、セクシー女優、ダンサー、ホストなど、様々なジャンルの人が出場しています。激しい口論や掴み合いが恒例となっているオーディションは、YouTubeで1000万再生を超える動画も出るなど、人気を博しています。
『BREAKING DOWN』の大会が初めて開催されたのは2021年。当初はYouTubeの中だけのバズりコンテンツだったと思いますが、今となっては世間にも浸透してきています。
最近、私個人もそれを実感することがありました。
先日、私が参加しているテレビ番組の構成会議で「今、パロディするとしたら何か?」という議論になり「『イカゲーム』以降で国民の多くが知るコンテンツがあまり無いかも」「強いて言うなら『BREAKING DOWN』か」といった話に。1000万人を相手にするテレビというマスメディアで、パロディする題材の筆頭に喧嘩を見せ物としたYouTubeのコンテンツが挙がることに驚きと感心を覚えました。
そして、企画の視点で見た時に『BREAKING DOWN』で特筆すべきところは、“オーディション部分がメインコンテンツになっている”ということ。『BREAKING DOWN』で多くの人の脳裏に浮かぶのは試合ではなく、オーディションでのいざこざ。つまりは、本番であるはずの試合ではなくオーディションという過程が主役のコンテンツなんです。
『BREAKING DOWN』が立ち上がる前に、朝倉未来さんがYouTubeで「1分の格闘技イベントを作ろうと思っている」と話しているのを見た時に、「1分だったら素人でも出場できるし、素人が1分間全力で殴り合うのはプロ格闘技の試合とはまた違った面白さがありそうだな」と、試合時間1分という設定に感心した記憶があるのですが、今思うとこの1分という設定はオーディションの面白さを狙ううえで考案されたものかもしれません。
どういうことかというと、試合時間を1分にすることで間違いなく格闘技素人の出場者が増えます。練習なんかクソくらえという喧嘩自慢も、試合時間が1分なら練習無しでやれそうだから腰も軽くなる。また、自分の強さを証明したいモチベーションはないが、影響力を上げたいというユーチューバー、セクシー女優、ダンサー、ホストなども、1分ならば参戦しようと思えるわけです。これによって多種多様な人種が多く集まることで、オーディションのいざこざもバリエーションがあり、面白くなる。
そして、普段は格闘技を見ない視聴者でも、オーディションのいざこざが面白ければ、格闘技素人同士の試合でも見ようという気になる。1分という試合時間の設定は、オーディションを面白くするためには必須であり、見事な企画であると感じました。朝倉未来さんが試合の面白さではなく、オーディションの面白さを狙って試合時間1分の大会をやろうと考えたのならば、素晴らしい企画者だと思います。
この「過程を面白がる」という発想は、企画の考え方としてこれまでテレビの世界にも存在していました。モーニング娘。を輩出した『ASAYAN』という番組はオーディションからデビューまでを描いて人気を博していましたし、『BREAKING DOWN』に近しい内容でいうと『ガチンコファイトクラブ』という企画は街のならず者がボクシングのプロテストを受けるまでの過程を描いて高視聴率を獲得していました。
今回、私が感じたのは「過程を面白がる」という企画の考え方は、メディアが乱立する今の時代に、これまで以上に重要になってくるのではないかということ。『BREAKING DOWN』はYouTubeでオーディションの様子を公開し、試合はABEMAで放映しています。
このようにメディアをまたいで「過程」と「本番」のアウトプットを分けて、各メディアがマネタイズを実現させるやり方は今後、テレビや映画でも増えていくはずです。ドラマ本編をテレビ放送で無料放映し、メイキング部分をDVDの特典映像に入れることで、過程の部分でもマネタイズする仕組みはこれまでにありましたが、今後はそれが発展した形で様々な仕組みが生まれていくはずです。そのマネタイズの仕組みから逆算したコンテンツ作りも増えていくと思います。そういった仕組みも含めて、エンタメを見ていくと楽しいかもしれません。それでは今日はこの辺で。
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