『だが、情熱はある』山里の“パワハラ期”という過去を忖度なく描ききった3話
#ドラマ #だが情熱はある #さわだ
南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭の反省を描くドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)。第3話は「ひとの心が見えますか?」と題して、山里(森本慎太郎、SixTONES)のパワハラ問題を扱った。一般的にも社会問題となっているパワハラだが、芸人の世界ではどう見られているのだろうか。芸人としてお笑いをかじったことのある筆者が振り返ってみたい。
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「ウケている同期が気に食わない」の次の感情は?
ついに覚悟を決めた山里は、大阪のNSC(吉本のお笑い養成所)に入学する。得意のハッタリを生かして相方を見つけてコンビ・侍パンチを結成するも、ネタ見せではなかなか高評価を得られない。さらに、若手コンビ・パンプキンポテトフライが演じる同期のエリート・ヘッドライト(モデルはおそらくキングコング)の活躍で、妬み嫉みが加速する。彼らに関する悪評を流したり、悪口を書いた張り紙をするなど、芸事以外にも力を注いでいた。
ウケている同期が気に食わない――は、最初の感情だ。この次に、他人のネタで笑っている同期が憎くなってくる。
「なぜ負けているのにヘラヘラしているんだ」
「お前らが笑うせいで余計に、エリートが調子に乗るではないか」
「少しは意地を見せろよ」
「嘘でもいい、自分のほうが面白いと言え」
芸人として当然の感情だと思う。
溜まりに溜まった妬み嫉みの矛先は、他の同期と同じくヘラヘラしていた相方の宮崎(九条ジョー)へ向けられる。「なんでやねん!」を永遠に練習させる、「エピソードトークを10個作ってこい」と無茶な要求をする、お笑いのビデオを観るためにバイトを休ませるなど、厳しい指導はパワハラに発展。いつしか宮崎はお笑いを楽しめないようになってしまい、解散することに。幼馴染ならともかく、養成所で組んだ急造コンビの絆では、この壁を乗り超えるのは難しい。
山里の言動は当然、お笑いの世界でもアリとされているわけではない。だが、少なからずこういったパワーバランスのコンビは存在するし、特に養成所生などの超若手には多い。この現象の主な原因は、「俺がネタを書いているのに……」にある。
自分が必死で頭を捻らせているなか、相方は遊んでばかり。一発ギャグを作ったり先輩と仲良くなったりするなど、ネタ以外のところで頑張っていればまだ納得できるが、そういうわけでもない。これで自分ができない女遊びなんかされた日には、ストレスはとんでもないことになる。そうなると本来の相方の良いところも忘れて悪いところにばかり目が行き、知らず知らずにパワハラをしてしまうのだ。おそらく山里もこの時点でパワハラの自覚はなかったことだろう。
第3話は山里のパワハラ全開回で、誰が見ても嫌なやつだった。だが、ここにこのドラマのフェアなスタンスを感じる。
例えば、宮崎がサボっていたりネタ見せでミスをしているシーンを挟めば、怒る山里の印象はだいぶ和らぐはずだ(それでも酷いことに変わりはないが)。それをせずに、ただひたすらに宮崎が可哀想で、山里が悪く描かれている。過去を中途半端に美化せず、真実を伝える。もちろん全部がぜんぶ忠実に再現しているわけではないのは十分承知だが、“パワハラ期”という山里を語る上で欠かせない過去を、きっちり描いたことに価値を感じる。
大手事務所と他事務所の違い
今回は山里がメインで描かれていたが、若林(髙橋海人、King & Prince)についても触れたい。結成、解散、結成と激動の一年だった山里に対して、若林は何もない一年だった。なんとか春日を口説き落としたこと以外、大した事件は起きていない。
これは“吉本と他事務所の違いあるある”だ。
吉本ではそこそこ面白ければ、金にならない舞台に山ほど立つことになる(養成所生の場合は授業が忙しい)。だが、小さな事務所の場合、そこそこ面白くてもスケジュールは埋まらない。ただただ暇で、やる気を持て余す。モヤモヤとした日々を送らねばならないのだ。
今の時代ならYouTubeやSNSで自ら発信できるが、若林の時代は本当に暇だったはずだ。「全然頑張ってねーじゃねーか」と思う視聴者もいたかもしれないが、頑張る場所がないのは、頑張るよりもずっとずっとしんどい。成長することができず、他人に置いていかれてしまう気分になるのだ。
果たして第4話では若林に変化が訪れるのか、山里の新コンビはうまくいくのか。筆者の経験上、一度相方にパワハラしたやつは、だいたい次の相方にもパワハラする。
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