トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > アイドル > STARTO(旧ジャニーズ)  > ジャニーズ事務所、ファン無視の不誠実さ

性加害告発会見後もジャニーズ事務所がファンを無視し続ける不誠実さと不気味さ

性加害告発会見後もジャニーズ事務所がファンを無視し続ける不誠実さと不気味さの画像1
故・ジャニー喜多川氏

 元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏は2023年4月12日に喜多川擴(ジャニー喜多川)氏の性加害についての記者会見を行った。それから9日後の4月21日、ジャニーズ事務所の藤島ジュリーK.社長が、音楽関連会社などに文書を提出した。

 その文書には「問題がなかったなどと考えているわけではございません」「メディアでの報道、告発等については真摯に受け止めております」などとあり、「最大限個人のプライバシー等の人権に配慮しながら、弊社から独立した立場で行える外部専門家の相談窓口の設置、個別対応を行う準備を進めております」などと具体的な施策も綴られている。沈黙を続けていたジャニーズ事務所が、「まず一歩」前進したことそのものは肯定できるだろう。

「まず一歩」前進しても、これでは不十分

 だが、その文章では被害者への謝罪も、賠償についても綴られていない。また、オカモト氏の記者会見があった4月12日時点でのジャニーズ事務所からのコメントは「本年1月に発表させていただいておりますが」などと前置きをする、「すでにちゃんとしている」とだけ訴えるかのような中身のないものだった。

 そもそも、BBCのドキュメンタリー番組により「再び」暴かれた喜多川擴氏の性加害は、1960年代からすでに噂されており、1999年には週刊文春で報道され、2004年には喜多川擴氏の性加害は事実であると認定されている。オカモト氏が15~20回もの性被害を受けたのは2012年から2016年と、それよりもかなり後だ。

 つまりは、問題が明るみになった時点での対応ができていれば、性加害を受けなかった者がいる。それは、社内で“黙認”をされてきたということでもあるだろう。喜多川擴氏が故人であっても、その事実を踏まえてジャニーズ事務所は説明責任を果たすのはもちろん、それ以上の賠償などのさらに重い責任を負わなければならないはずなのに、この文書だけではまったくもって不十分だ。

あくまで「関係者」宛てという不誠実さ

 さらに問題なのが、文書があくまで音楽関連会社など「関係者」宛てに送られていたもの、ということだ。4月29日現在、ジャニーズ事務所の公式サイトにはオカモト氏の告発も、性加害の問題も何も触れられていない。被害者本人だけでなく、ジャニーズのファンに対する釈明もまったくなされていない状況だ。

 このジャニーズ事務所の対応は、不誠実であるのはもちろん、もはや不気味ですらあると思う。ここまでの重大な犯罪行為が何十年も野放しにされ続けたという事実が日本のみならず世界中に知られ、その加害者の愛称を使っている以上、事務所自体が存在し得ない、ジャニーズという看板をおろす(社名やグループ名の変更をする)段階にすらあると思えるのだが、それでも芸能事務所にとってもっとも大切な顧客であるはずのファンに対して「無視」を貫いているのだから。

 なぜ、そんなことができるのだろうか。筆者自身は特にジャニーズのファンというわけではないが、タレントのファンの方にとって、これはどれほど腹立たしいことだろうか。「ファンは何も言わずともお金を出してくれるから放っておこう」「それよりもタレントの仕事に直接関わる音楽関連会社などに釈明しないといけない」という事務所の姿勢がありありと見えたのだから。

切実な声をあげるファンからの署名活動も開始

 それほどまでにジャニーズのファン層は厚く、芸能事務所として絶大な権力を持っているということでもあるのだろう。確かに、ここまで大々的に喜多川擴氏の性加害が問題になったことによる、ジャニーズのタレントの出演作への商業的な影響についてはあまり語られてはいない。「Eternal Producer:ジャニー喜多川」とクレジットが入った、 映画館で生中継がされている『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』はオカモト氏の記者会見があった後でも連日満席の大盛況だ。

 だが、タレントを応援したいと願いつつも「今のままではできない」と考える、いやジャニーズ事務所に強い怒りを覚えているファンもいる。事実として、「ジャニーズ事務所の所属タレントをこれまでこよなく愛し、応援してきた者」による「PENLIGHT ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」が発足し、具体的な対応を求めるための署名活動が行われている。そのTwitterアカウントでは、ファンからの切実な声が続々と掲載されているのだ。

 これらの声を聞いても、ジャニーズ事務所はファンを無視し続けられるのだろうか。それは「気兼ねなく、心から推しを応援したい」と願うファンの心を踏みにじっていることに他ならない。今は商業的に影響が少なくても、このままではファンの心はますます離れていき、今後は大きな影響が出るだろう。長期的なビジネス面を鑑みても、ジャニーズ事務所は被害者を第一にしつつ、優先的にファンへの釈明をするべきなのに、そうしないのはやはり不気味だ。

 なお、「PENLIGHT」では賛同者の中にトランスジェンダーへの差別などで問題視された人物がいることが指摘されており、その点について立場表明もされている(https://twitter.com/Penlight0412/status/1649057847278469120)のだが、残念ながら納得できる内容ではなかった。あくまで賛同者として名を連ねており、筆者個人は元の主張に同意しているため署名を取り消したりはしないが、この点には真摯に向き合っていただきたい。

 他にも、4月17日に「24時間テレビ」のメインパーソナリティーをジャニーズ事務所所属のなにわ男子が務めることが発表されており、ファンからの祝福の声が上がる一方で、カウアン氏の記者会見の5日後ということもあって激しい反発を受けていた。

 そのなにわ男子のファンも喜多川擴氏の性加害を完全に無視できている人などほとんどいない、複雑な心境を覚えながらも応援する方もいると思うのだが、こうしたことのために「ジャニーズ事務所のタレントのファン」へ十把一絡げな嫌悪を募らせたり、ファンとそうではない人との溝がますます深まっていくのも残念だ。タレントたち本人にいっさいの責任や罪がないことは言うまでもない。やはり「ファン層を広げる」というビジネス面を鑑みても、事務所はこのことに向き合わなければならないだろう。

悔しさは「これから」のために

 ジャニーズ事務所の問題は連日ネットニュースで取り沙汰され続け、いよいよNHKだけでなく各キー局のテレビでも報じられている。だが、ここまでとても長い時間がかかったこと、それでもまだ「少し進んだ」くらいということも、重く受け止めなければならない。権力者から未成年への性加害が続けられた事実は残り続け、ファンもタレントも安心できる健全な状態にするには「これでもまだぜんぜん足りない」のだから。

 また、現在は配信などでレンタルができる映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』では、性加害を続けていたプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインを告発するため、2人の女性記者が何度も何度も地道に取材と交渉を続け、そして#MeToo運動につながるまでの過程が描かれている。この映画を踏まえると、喜多川擴の性加害を1999年からの報道や裁判の時点で、同じようにもっと追及できなかったのか……とやはり悔しい気持ちになる。

 その悔しさは、報道に関わる者に限らず、ジャニーズ事務所所属のタレントのファンも、そうでない人も覚えておくべきだろう。世界が#MeToo運動で変わったように、日本の芸能界に限らない性加害の問題、報道の不健全さや不自由さが変わるのは「これから」なのだから。

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/04/29 07:00
ページ上部へ戻る

配給映画