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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.735

愛を求めたチェコ最後の女性死刑囚 実録犯罪映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』

愛を求めたチェコ最後の女性死刑囚 実録犯罪映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』の画像1
無差別殺人を起こしたオルガの生涯が描かれる

 無差別大量殺人はなぜ、どのようにして起きたのか。このシリアスな問題に真正面から迫ったのが、実録犯罪映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』だ。1973年、社会主義国だったチェコスロヴァキアでトラックを暴走させ、8人を死亡、12人を負傷させた女性、オルガ・ヘプナロヴァーを主人公に、彼女の少女時代から23歳で死刑執行されるまでを克明に描いた作品となっている。

 チェコ最後の死刑囚となったオルガを演じたのは、ポーランド映画『ゆれる人魚』(15)でセクシーな人魚を演じたミハリナ・オルシャニスカ。愛を求めながらも、自分は誰にも愛されていないと悩むオルガの孤独さを切々と演じている。作家、歌手でもあるミハリナは、2016年に製作された本作での演技が高く評価され、その後も『ヒトラーと戦った22日間』(18)や『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(19)などの実録社会派ドラマで活躍中だ。

 本作でオルガの短い生涯は、モノクロの硬質な映像で描かれる。オルガ(ミハリナ・オルシャニスカ)は裕福な家庭で生まれたが、厳格な両親からは愛情を感じることができず、無口で内向的な少女へと育っていく。13歳のときに精神安定剤を大量摂取し、自殺未遂騒ぎを起こす。精神病院へと収容されるが、病棟内でいじめに遭い、性格はますます歪んでしまう。

 家族のもとを離れたオルガは、仕事を転々とした後、ドライバーとして働くようになる。職場で知り合った美しい女性・イトカ(マリカ・ソポスカー)との交際も始まる。だが、イトカとの恋愛期間は長くは続かなかった。タバコや薬の量が増えていくオルガだった。

 母親や精神科医に助けを求めようとするオルガだったが、誰も親身になって彼女に向き合おうとはしない。不幸な生い立ちをを持つ年上の男性・ミラ(マルチン・ペフラート)と仲良くなるも、彼もまたオルガの前から去ってしまう。疎外感に悩むオルガは、犯行声明の手紙を新聞社宛てに投函。そして、ついにオルガはトラックのアクセルを踏み、バス停留所の人混みへと走らせる――。

チェコ人が決して忘れることができない存在

愛を求めたチェコ最後の女性死刑囚 実録犯罪映画『私、オルガ・ヘプナロヴァー』の画像2
ポーランド出身のミハリナ・オルシャニスカが主演

 感情表現が不得手で、職場も人間関係も長続きしない。オルガは、自分を苦しめる社会への復讐を決行した。オルガのあまりにも悲しい青春を映画化したのは、チェコの映画学校で共に学んだトマーシュ・ヴァインレプ(1982年生まれ)とペトル・カズダ(1978年生まれ)の両監督。チェコの作家ロマン・ツィーレクが2010年に発表したノンフィクション小説を原作に、本作を撮り上げている。チェコにいる両監督に、本作について語ってもらった。チェコで暮らす人たちにとって、オルガ・ヘプナロヴァーはどんな存在なのだろうか。

ペトル「映画を制作した時点で事件から40年以上の歳月が経っていましたが、チェコではオルガとオルガが起こした事件のことを覚えている人は多いんです。当時のチェコは社会主義時代で、起きてはいけないはずの凶悪事件であり、しかもオルガは女性で、チェコで最後の死刑囚でした。そのことから強い印象を残し、チェコの人たちの心に深く刻み込まれています。チェコで有名なアニメーション作家のヤン・シュヴァンクマイエルとその妻エヴァも、オルガに感化された作品をつくっています。そのくらい、彼女は影響力があったんです。チェコ人にとって決して忘れることができない存在なのが、オルガ・ヘプナロヴァーなんです」

トマーシュ「事件後にはさまざまなオルガ像がチェコでは噂されました。実はオルガは処刑されず、ソ連に極秘に連行され、今も生きているなんてデマも囁かれていたほどです。都市伝説的な存在になりつつあったオルガですが、そんな中で作家のロマン・ツィーレクが執筆したオルガの伝記は画期的でした。裁判の調書などが丹念に読み込まれており、それまでのオルガ像を一新したリアルな内容だったんです。当時のチェコでは大変な話題になりました。僕も読んで衝撃を受け、これは映画化しなくてはと思ったんです」

 ペトル&トマーシュの両監督は、ロマン・ツィーレクから映画化の許可をもらっただけでなく、裁判調書の写しなどの資料もすべて提供してもらったそうだ。脚本執筆から編集まで、両監督は意見が食い違うことなく本作を完成させたと語る。

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