和歌山で維新勝利の裏に隠れる「カジノの闇」…和歌山県、問題人物スルーの失態
#カジノ
衆参5補欠選挙が統一地方選挙の後半戦とともに4月23日投開票された。5補欠選挙は自民が4勝1敗としたが、衆院和歌山1区では「日本維新の会(維新)」の林佑美氏(41歳)が勝利し、維新発祥の地である大阪、兵庫に続き、衆院の小選挙区で議席を得る3県目となった。
維新は4月9日に投開票が行われた統一地方選挙の前半戦でも、大阪府知事選と大阪市長選で、「非維新」勢力の結集を目指す政治団体が擁立した候補に対し圧勝している。
その維新が掲げる目玉政策の一つにIR(総合型リゾート)・カジノ誘致がある。政府も2029年の開業を目指す大阪府と大阪市のIR・カジノの整備計画を4月14日、国内で初めて認定した。
和歌山も名乗りを上げていたカジノ誘致
カジノ誘致に手を挙げていたのは大阪だけではない。これまでに長崎県、北海道、愛知県が名乗りを上げていた。大阪府と隣接する近畿圏の和歌山県もカジノ誘致には手を挙げており、今回、整備計画の認定が見送られた長崎県とともに一時は誘致活動をリードしていた。
その和歌山県のカジノの誘致に、三合会(さんごうかい・香港を拠点とする幾つかの犯罪組織の総称)との関係も指摘される「マカオの賭博王」アルビン・チャウ(周焯華)が絡んでいた。
チャウは自らが最高経営責任者(CEO)を務めるカジノ仲介業者、サンシティ・グループを通し、早い時期から和歌山県に対し売り込んでいた。2020年4月3日付の同社のプレスリリースは、和歌山県の歴史、伝統、自然の風景や地元の文化を生かした新たなコンセプト「IR2.0」を目指すとしている。
https://kyodonewsprwire.jp/release/202004038781
「ラスベガスのコピーでなく、和歌山県の特徴に焦点を当てたIR・カジノ作り」をすると話すチャウには何の問題もないように見えたが、実はチャウはこの時点でオーストラリアへの入国が禁止されていた。
2019年8月1日付のオーストラリア・メルボルンの日刊紙「ザ・エイジ」の記事によると、マカオを拠点するサンシティと組織犯罪の関係が疑われたためという。
それでも何も疑われることなく、和歌山県への提案審査書類は受理された。和歌山県のホームページによると、チャウはカナダのクレアベスト・グループとともに2021年1月15日に提案審査書類を提出している。
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/d00207455.html
チャウに禁錮18年の実刑判決
今年1月18日付の英BBCの記事などによると、前年11月末に、マカオ司法警察局に違法賭博などの容疑で逮捕されたチャウに対し、マカオ初級法院(第一審裁判所)は同日、チャウに禁錮18年の実刑判決を言い渡した。
https://www.bbc.com/news/world-asia-china-64314043
チャウは違法賭博経営、詐欺、詐欺未遂など計289の罪で起訴されていたが、マカオ初級法院は162の罪を認定した。
街のチンピラ、波止場のカジノの客引きから「マカオの賭博王」に上り詰めたチャウ率いるサンシティ・グループはカジノの富裕層を相手に賭博行為を仲介したり資金を貸し付けたりする「ジャンケット」のオペレーションで事業を拡大していった。中国本土ではカジノ(賭博)が違法なため、大金を儲けたい富裕層はチャウの力を借りてマカオのカジノに行きギャンブルを楽しんだという。
競合するマカオのカジノ仲介業者によると、「ジャンケット」の仲介業には中国本土からの飛行機の手配、ホテルの予約、家族連れで来る場合はベビーシッター・家庭教師の手配、また要望によっては女性コンパニオンの手配なども含まれていたという。加えて、負けが込んだ時の資金の貸し付けも大事な仕事の一つだった。これらをチャウのサンシティ・グループは豊富な資金に物を言わせて大々的に展開していたという。
サンシティ自らの撤退申し出で発覚しなかった和歌山県の失態
提案審査書類を提出し、和歌山県のカジノ運営事業者に名乗りを上げていたサンシティ・グループは2021年5月12日、突如撤退を発表した。チャウは「新型コロナウイルス感染拡大による業界への甚大な影響」と「日本のIR区域認定手続が当初の予定よりも時間を要する」ことを表向きの理由として挙げた。
和歌山県の関係者が「チャウがこれほど問題のある人物であることを県庁も県警も把握していなかった」と話すように、オーストラリアへの入国が禁止されるなどのチャウの黒歴史が露見したために県側が排除した訳ではないようだ。
インバウンドに富裕層の観光誘致! どうする「ジャンケット」運営業者の素性調査
政府は本格的に再開した日本のインバウンドをより効果的なものにするために、今後は富裕層の観光誘致に力を入れると謳う。皮肉にも富裕層の中で一番、日本にお金を落とす効果を期待できるのはカジノの仲介業者の「ジャンケット」オペレーションで訪日する中国本土を中心とする富裕層だ。
政府は大阪府と大阪市のIR・カジノの整備計画を認定した。オリックスと米国のMGMリゾーツ・インターナショナルが合弁で設立した「MGM・オリックスコンソーシアム」が2029年の開業を目指し設置・運営を手がける。
こうした動きに早くも世界各地の「ジャンケット」オペレーターたちが「千載一遇のチャンス」と社員を情報収集のために日本に長期出張させるなど、富裕層を大阪に案内することで得られる莫大な富に狙いを定め動き始めている。一方で、今後、日本に富裕層を送り込む「ジャンケット」を手がけるカジノ仲介業者については現時点でその素性を調べる手立てがない。アルビン・チャウのような犯罪者を和歌山県が事前に調査もせずに受け入れた愚は二度と繰り返してはならない。
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