トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 『水ダウ』に見るドッキリ企画の変化

『水曜日のダウンタウン』新人マネージャー企画に見るテレビ“ドッキリ”の変化

『水曜日のダウンタウン』新人マネージャー企画に見るテレビドッキリの変化の画像1
『水曜日のダウンタウン』(TBS系)

 常に話題を提供してくれる番組がある。それはTBS系で放送されている「水曜日のダウンタウン」だ。今回もまた新たな話題を提供してくれた。

 いま話題になっているのは、19日に放送された「新人マネージャーと名乗る男と2人で山奥のロケ先に向かっている途中、本当のマネージャーから電話がかかってきて『そんなやつ知らない』と言われたらめっちゃ怖い説」というドッキリだ。ドッキリの内容はタイトルでまるわかりなので説明する必要はないと思うが、このドッキリのターゲットになったのは「お見送り芸人しんいち」さん、「コンピューター宇宙・はっしーはっぴー」さん、「ちゃんぴおんず・日本一おもしろい大崎」さんの3人。

 埼玉県飯能市にある東吾野駅で待ち合わせをするが、いつものマネージャーの姿はなく、電話をしても反応なし。夜間にローカル駅で途方に暮れていると、そこへ新人マネージャー「高橋」と名乗る男が車でやってくる。疑う事もなく車に乗り込むと、本当のマネージャーからそんな人間はいないと告げられパニックに陥る芸人。高橋と名乗る男性は「僕のこと覚えてないんですか?」と言い、芸人たちは一様に過去の悪行らしきものを思い出し謝罪をする。それを聞いた高橋は高笑いをし、恐怖がピークに達したところでネタばらしというストーリー。

 今回話題になったのは、まず狂気に包まれた高橋を演じた俳優さんの演技力だ。ネットでは「演技すごかった」「仕掛け人が上手すぎる」「サイコパス感が半端ない」など絶賛の嵐。そしてもうひとつ話題になったのはターゲットとなった「コンピューター宇宙」のはっしーはっぴーさんだ。はっしーはっぴーさんは恐怖のあまりパニック状態になり、車内で嘔吐してしまったのだ。かなり精神的に追い込まれてしまったのだろう。これに対して「さすがにやり過ぎ」「見てられない」「可哀相」など、こちらは非難する声が多数上がったようだ。

 恐怖のあまり嘔吐するという光景は確かにショッキングで笑えない人も多いとは思うが、今回僕が書きたいのはその辺りの問題提起ではなく、ドッキリの見方が変わってきたというところに注目していきたい。

 ドッキリといえば長年放送されていた「スターどっきり(秘)報告」(フジテレビ系)のシリーズだ。この頃のドッキリは「寝起きドッキリ」「コラおじさん」「お色気ドッキリ」など王道のドッキリを当時活躍していたスター達に仕掛けるのが基本的なスタイルで、視聴者も自分が贔屓にしているアイドルや俳優がどんなリアクションを取るのかを楽しむという見方が一般的だった。

 しかし、ある時期から、王道のドッキリは広く知れ渡ってしまい、ドッキリとしてのリアリティがなくなり、視聴者が感じるドキドキ感やスリルが減ってきてしまったのだ。さらに「過剰な演出」、言い換えると「ヤラセ」を暴露される番組も出てきてしまい、視聴者が事前にタレント側がドッキリの内容を知っていたのではないかという疑念をもってドッキリを見るようになってしまい、ドッキリのリアリティ減少に拍車がかかってしまったのだ。

 さらに今はYouTubeでもドッキリを主体としている動画を投稿する芸人やYouTuberが増えており、我々ユーザーはドッキリへの耐性が強化されてしまっているのだ。リアリティが減り、耐性が強化されている我々はそう簡単にドッキリで喜ばない体になってしまったのだ。かといって重要なバラエティコンテンツであるドッキリを無くすわけにはいかない。そうなると耐性を弱体化させるか他の方法でリアリティを出すしかない。

 どうすればリアリティが出るのか。そこでテレビ業界が目をつけたのが芸能界慣れしていない人だった。上記のように比較的テレビに露出して間もない人間を使ったり、我々のような一般人をターゲットにするというパターンがドッキリの主流になりつつあるのだ。

 例えばニンゲン観察バラエティ「モニタリング」(TBS系)で行われている「有名歌手が変装し、一般人のフリをして歌を披露する」という企画はまさにそれだ。最初は期待されていない人物が突然極上な歌声を披露し、その場にいる観客を魅了する。一般人の歌声を聞いた瞬間の驚いた表情や、歌声に感動しているリアクションを楽しむという、「ご本人登場ドッキリ」の進化版といったところだろう。「水曜日のダウンタウン」のように純粋にドッキリの過激さを楽しむ場合はターゲットを一般人にするわけにはいかないし、リアクションが悪いと内容もつまらなく見えてしまうので若手芸人を使うことが多いのだろう。

 さらにもうひとつ今までには無かったドッキリの楽しみ方がある。それはリアルではなくなってしまった王道ドッキリをフリに使うというものだ。こちらも「水曜日のダウンタウン」で行っていた企画「ナゾに大道具通路を歩かされて、向井からシルクハットにステッキのこらおじさん風男性が歩いてきたら、めっちゃ警戒しちゃう説」というもの。

 こちらは王道ドッキリである「コラおじさん」をフリとして使用したドッキリで、コラおじさん風の男性が来るが「コラ」と言わず、スタッフに怒られて、芸人が無意味に何度も大道具通路を歩かせられるというドッキリ。コラおじさんにも気づいているし、ドッキリというのも気づいているが、わかっていながらどれだけその茶番に付き合うのかを観察するという変化球ドッキリだ。

 このように少し見ただけでもドッキリの種類やジャンルは豊富になっており、まさにサブスク時代のいまにピッタリの形態になっている。王道ドッキリの「寝起きドッキリ」や「コラおじさん」はコンプライアンスが厳しいいまの時代では非難の対象になることは間違いない。そもそも人を驚かせるということ自体が問題視されかねない行為だ。となるとドッキリ自体の存亡も危ぶまれるが、「水曜日のダウンタウン」のように、どれだけ炎上しようが、どれだけ非難されようが、自分たちが面白いと思うものを発信し続けてくれる番組があることは本当にありがたい。

 抑圧されたお笑い界において、本来の芸人らしい芸人像を見られる唯一の番組「水曜日のダウンタウン」。批判的な声も多いが、その反面、現代のスマートなお笑いでは満足できない人達にとってはオアシスのような存在だ。今後も「ドッキリ」や「リアクション芸」など、先人たちが繋いできた伝統芸能の新たな形を生みだしてくれるだろう。ワクワクが止まらない。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/04/26 21:00
ページ上部へ戻る

配給映画