『だが、情熱はある』元芸人が語る山里が叫んだ「怖いんです!」の意味
#日本テレビ #山里亮太 #若林正恭 #だが情熱はある #高橋海人 #森本慎太郎
別のコンビ、別の事務所、でも似たもの同士――。
南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭のユニット・たりないふたりは2009年に結成して以降、それぞれの忙しい仕事の合間を縫って活動。2021年5月の無観客配信ライブ『明日のたりないふたり』での2時間ぶっ通し漫才を最後に、解散した。どちらも元のコンビではツッコミを務めているため、知らない人からすればどんな漫才をするのか想像もつかないことだろう。
日本テレビ系で放送されている『だが、情熱はある』は、この2人がそれぞれ執筆したエッセイを元にしたドラマだ。2人の接点のない青春が同時進行で繰り広げられる。自意識過剰と人見知りに苦しむ若林を髙橋海人(King & Prince)が、妬み嫉みで人格を歪ませた山里を森本慎太郎(SixTONES)が、それぞれ超ハイクオリティで演じきっている。
1話の冒頭では「2人の友情物語でもないし、サクセスストーリーでもない。そして全く参考にはならない」と語られているが、一体どんな物語なのだろう。お笑い界に少しだけ足を踏み入れたことのある筆者がまず、これまでの放送(第1~2話)を振り返ってみたい。
隠キャ芸人あるあるの若林と、ドラマティックにはみ出す山里
似たもの同士のような2人だが、青春時代は意外と対照的だった。いわゆる陰キャという印象のある若林は、そのイメージ通りにクラスでは自己主張せず、後に相方となる春日俊彰(戸塚純貴)と共にコソコソと他愛もないお喋りに明け暮れていた。夢も目的も自信もなく、ただモヤモヤとした青春だ。
対する山里は、陰キャのわりに足掻いていた。モテたい、何者かになりたいと臆面もなく叫び、空回りしては傷を負う。その行動はストーカーじみていて、ほとんど犯罪だったりする。共感生羞恥とエモいの間を行ったり来たりするような青春だ。
若林の何もない学生生活は芸人志望にとってあるあるだが、山里のそれはドラマティックで、芸人あるあるをちょっとハミ出しているように思う。
第2話では、そんな2人がお笑い界に足を踏み入れたのだが、ここでの心の動きも対照的だった。山里は家族に土下座して見苦しくも真っ直ぐに動き出す。関西の大学に入学して吉本の養成所に入るとぶち上げ、派手に“上阪”する。しかし、あっけなく楽しい大学生活に飲み込まれ、お笑いへの思いが霞んでしまう。夢に燃えていた山里の姿は見る影もない。
一方の若林はずっとモヤモヤしていた。進学校に通うもやりたいことが見つからず、大学は夜間へ。溢れるモヤモヤが間違った形で放出され、髪型をアフロにしたり、父親に当たったりと、青春を浪費する。しかし、春日の「お笑いの裏方になろうと思っている」という一言でやりたいことが明確化。何もない日々から一転、片っ端から友人をお笑いに誘う極端な行動力を見せる。結果、半ば騙すような形で春日をオーディションに連れて行くことに成功する。
誤解を恐れずに言うが、吹っ切れた陰キャ特有のパワーだ。
隠キャと陽キャ、笑いのハードルの違い
好きな子にフラれ、大学の先輩に叱咤されて発奮した山里は、ようやく養成所のオーディションを受ける覚悟を決め直した。ここで山里は、先輩に対して「(芸人になるのが)怖いんです」と打ち明けている。この「怖い」は、バラエティの無茶振り企画で滑る「怖い」とは違う。陰キャ芸人特有の恐怖のように思える。
芸人になろうとする人間は、自分を面白いと思っている。しかし、陰キャ芸人の場合は、自分を面白いと思っていても(山里の場合は思い込もうとしていたフシがあるが)、実際にその面白さを使って人気者になったこともないし、好きな女の子を射止めたこともない。
つまり、なんの根拠もない空虚な自信なのだ。
芸人を志し、そこで通じなければ、自分の全てが否定されるのと同じ。モテない自分が、唯一モテる可能性のある面白さの部分を否定されるわけにはいかない。だから怖いのだ。
もちろん若林も怖かったはずだ。山里のように感情を吐き出さないものの、怖いからこそライブのオーディションで親父への怒りをまくしたて、暴走した。同じく養成所のオーディションで山里はフラれた話をまくしたてているのだが、やっとここで吹っ切れることに成功した。
一方で、クラスの人気者だった陽キャ芸人は、この“怖い”という感覚が薄い。今までやってきたことをそのまんま持ってきて、養成所やライブで笑いの怖さを知る。さらに自分が見下していたような隠キャ連中がウケているのを見て、笑いの得体の知れなさを知る。日常生活の中で友達を笑わせるのと、笑わせるというタスクを課された状態で赤の他人を笑わせるのは、全くの別物なのだ。
この様に陽キャ芸人はとんでもない早さで勢いを失い、養成所入学から数カ月で別人のように変わり果てる。
僕は二度も養成所に通った経験をもっているため、そういう人たちをたくさん見てきた。ぶっちぎった人気者なら勢いでなんとか押し通せるが、クラスで人気だった程度ではだいたい潰れてしまう。
現在、お笑い界は元隠キャ芸人が勢力を伸ばしているとされている。しかし、隠キャならば面白いというわけではなく、それ相応のドラマを乗り越えなければ、生き残るのは難しい。南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭、お笑い界においても隠キャの極地である2人の物語が、面白くないわけがない。
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