『ボヘミアン・ラプソディ』大絶賛作品、唯一の批判と現実に残された謎
#金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
2018年に公開され、最終的に興行成績131億円のビッグヒットを達成。その後も爆音上映、ライブ音響上映など上映形態を変えつつリピーター熱が途切れない話題作『ボヘミアン・ラプソディ』が日本テレビ系『金曜ロードショー』で2度目の「再上映」!
イギリスで誕生した伝説のバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリー。彼の半生の光と闇に触れ、彼が歌い上げた名曲の数々を迫真に迫るライブ映像とともに観客が一体感を得る、唯一無二のライブ映画。フレディに完全になりきったラミ・マレックの演技にも注目です。
ペルシャ系移民のファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)はバンドに傾倒し、妙なファッションを好んだため、厳格なゾロアスター教徒の父親と折り合いが悪かった。父から逃れるように夜のバーで彼が好んだバンド・スマイルのメンバー入りを希望。ギタリストのブライアン・メイ、ドラマーのロジャー・テイラーの前で朗々としたアカペラを披露。「君、ベース出来る?」「できない」新ベーシストのジョン・ディーコンを加え、バルサラをボーカルとした新バンド「クイーン」が誕生する。
このころ、自分のルーツに疑問を感じていたバルサラは家族や仲間、恋人のメアリーと一緒のバースディパーティで「フレディ・マーキュリー」に改名したと宣言。父親が難しそうな顔をするところが何とも言えない。
バンドにかぶれた息子が「たかしって呼ぶな! 俺は今日からジョニーだ!」っていうようなもんだよ。
かつてボクシングもやっていたバルサラ……じゃなかったフレディは拳の代わりに歌声で観客をノックアウトする。
地方の大学ライブを連続満員にする彼らだが、フレディはそれだけじゃ満足できない。世界へ飛び出したい。そのためにはアルバムをつくらなきゃ! ボロいワゴンを売った金でスタジオ入りした彼らは、さまざまなアイデアを録音する。その様子を見たレコード会社EMIのジョン・リードはクイーンと契約。メジャー・デビュー、全国ツアー、とんとん拍子でスターダムへ駆けあがる。
EMIの重役レイ・フォスターはイギリスのチャート2位を記録した「キラー・クイーン」と同じような曲をつくれと指示する。
レイ役を演じたマイク・マイヤーズはスパイ・コメディ『オースティン・パワーズ』などで知られる役者だが自身が出演、脚本も書いた映画『ウェインズ・ワールド』の冒頭でカーステレオにテープを入れて『ボヘミアン・ラプソディ』を5人で合唱するシーンを入れるほどのクイーン・オタク。本作ではメイクでほぼ、別人になって嫌味な役だけど、一番嬉しそうだ。
同じことの繰り返しは、僕らが最も嫌うことだ! と、メンバーはレイの指示とは違う、全く斬新な楽曲で構成された「オペラ座の夜」を作ってくる。しかもシングルカットを予定していた「ボヘミアン・ラプソディ」はオペラ調のパートがあって全体で6分もある。
「こんな長いの、ラジオでかけてもらえない」「ティーンエージャーが車でボリュームを上げて、頭を振れるような曲じゃない」
とレイは全否定。マイヤーズは『ウェインズ・ワールド』で同曲を聞きながらドライブして、「ガリレオ!」と叫びながらヘッドバンキングまでしてたんだけど……。この曲の解釈を巡って激突したメンバーとレイは喧嘩別れ。フレディは知人のラジオDJ、ケニー・エヴェレットの番組に売り込みにいって「ラジオじゃかけてくれないんだ」という前置きで番組に曲を独占放送させた。
「ボヘミアン・ラプソディ」は音楽評論家から轟々の非難を浴びながらも、話題に。イギリスチャートで初の1位、各国で大ヒットを記録。バンドは世界的な成功を収める。しかし、成功とは裏腹にフレディの心は闇に染まっていく。バイセクシュアルという真実の自分と、それを理解してくれない世間との軋轢に苦しんでいく。マネージャー兼恋人というポールの存在は他のメンバーやEMI社員との不仲を招き、どんな時も自分を信じてくれていたメアリーも距離を置くようになり、ほかのレコード会社と高額のソロデビュー契約を相談もせずやったことでついに、バンドは瓦解する。
ソロアルバムのために集めたサポートメンバーはフレディが望むサウンドを用意できず、仕事がうまくいかないフレディは毎晩開くパーティで酒、ドラッグの乱痴気騒ぎに溺れる。心も体もボロボロになったフレディの元にメアリーが現れ、あなたには帰るための家と仲間が必要と諭す。ポールと決別したフレディはわだかまりの残るメンバーと再会、自身の愚かさを認め和解。チャリティイベント、ライブエイドでクイーンの再開を約束。だがフレディの体はすでに病魔に冒されていた…
映画『ボヘミアン・ラプソディ』はクイーンを知ってる世代には知らない世代ともどもの心に突き刺さった一本だ。クイーンの音楽は単なる懐メロではなく、今聞いても新しさを感じられる。タイトルバックの「ボヘミアン・ラプソディ」は当時はもちろん、現在でも強烈なインパクトがある。ブライアン・メイが「観客に歌わせるんだ」と「ウィ・ウィル・ロック・ユー」で観客が足踏みしてサビの部分をバンドに向けて絶唱するシーンの興奮よ!
クイーンの伝説をリアルタイムで経験していない世代にも、このバンドがいかに伝説なのかがわかりやすく伝わるようになっているのが良いですね。
その「わかりやすさ」を重要視した半面、ストーリー展開は「どこかで見た」ような既視感に溢れている。あらゆる成功を手にしながら、心は満たされず、病に苦しんでいる主人公像というのはあまりに凡庸で、フレディをそんなどこにでもあるような悲劇の主人公として扱っていいのか? という点で本作は、批判を受けている。
また、事実とはかけ離れた物語になっている。最初のバンドにフレディが加入するときの経緯や、フレディのソロ契約をきっかけに仲違いし、クイーンがほぼ解散状態になったり、ライブエイド出演を決定するまでメンバーが何年も口を聞いていなかったかのような様子や、出演前にフレディがHIV感染者であることを知っていた、というのは映画の演出であって事実とは異なる。
それなので「事実と違う」という批判があるのだが、2時間という上映時間に収めて、劇的なクライマックスに向けて盛り上げるためには仕方がない演出でしょう。そもそもファンが100人いれば100人のクイーン物語が存在するはずだから、そのすべてを納得させるのは不可能。
そしてこの映画にはもうひとつ謎がある。監督のブライアン・シンガーの途中降板騒動だ。
シンガーは撮影終了する直前に現場に現れなくなり、撮影監督が代行した上、イギリス出身のデクスター・フレッチャーが後任監督になり、その後もポストプロダクションも担当した。
シンガーが降板した原因はいまだに不明で、一説には主演のラミ・マレックやスタッフらと衝突があったともされるが、真相は闇の中だ。
シンガー監督はバイセクシュアルを公言しており、『ボヘミアン・ラプソディ』の監督に抜擢されたのも、同じバイセクシュアルだったフレディの内面を描けると判断されたかもしれない。
シンガーの大ヒット作『X-MEN』シリーズは、人間とは違う能力を持ったミュータントが誕生し、彼らを恐れる人間たちによってミュータントが迫害されるという物語だが、シンガーにとって他人事とは思えなかっただろう。映画では自分の子供がミュータントであることを知った親が「それはやめられないの」と言う描写まである。性的指向は趣味とは違うから、やめたくてやめられるものじゃない。ミュータントをセクシャルマイノリティと同じ視点で捉えたシンガーの慧眼には恐れ入る。
『ボヘミアン・ラプソディ』はゴールデングローブ、アカデミー賞他、英国アカデミー賞などでも受賞の栄冠に輝いたが、その場にシンガーはおらず、出演者、スタッフらもシンガーについては一切触れないという事態に。
これまで『X-MEN』映画シリーズで監督、プロデューサーという位置にいたシンガーだが、現在制作中と噂の新シリーズにはまったく関与していないようで、業界のマイノリティ扱いである。
けれど『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットのおかげで同じような手法の映画『ロケットマン』(エルトン・ジョンの伝記映画、監督は代行のデクスター・フレッチャー)、『エルヴィス』(プレスリーの伝記映画)が次々つくられてヒットしてるんだから、みんな、少しはシンガーに感謝しようぜ!
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