トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 藤井道人監督の社会派ミステリー『ヴィレッジ』

横浜流星が“モンスター”に変身!? 藤井道人監督の社会派ミステリー『ヴィレッジ』

原発やカジノなどの巨大資本に飲み込まれる地方都市

『ヴィレッジ』より

 タイトルとなっている『ヴィレッジ』だが、特定のひとつのコミュニティーの物語ではなく、日本全体が「ムラ社会」であることを指していることは間違いない。霞門村で暮らす人々は、ゴミ処理施設を誘致した村長だけでなく、村長の息子・透にまで頭が上がらない。村の隅々にまで「同調圧力」が及んでいる。

 霞門村に代々伝わる薪能の行事の際は、村人たちは能面を被って行列を組む。表情の読めない村人たちが同じ方向へ向かって夜道を歩いていく様子は、まるでホラー映画の1シーンのようだ。

 目立った産業のない寒村の経済を成り立たせているゴミ処理施設は、原子力発電所やカジノリゾートに置き換えることも可能だろう。小さな村には不似合いな巨大施設が建設され、一時的にはその恩恵を村人たちは受けることになるが、巨大資本の波に小さな村は飲み込まれてしまう。一度飲み込まれると、もう逃れることはできない。

 河村プロデューサーのやりたいことを藤井監督がヒヤリングする形で脚本を書き上げた『ヴィレッジ』には、本当の意味での「悪党」も「正義のヒーロー」も存在しない。古田新太演じる村長は巨大資本と手を結ぶことで、村を救おうとする。表向きには村を守るヒーローだが、ゴミ処理場は正規の収集ゴミだけでなく、違法投棄物も裏では扱っている。

 きれいごとだけでは、政治は進まない。清濁合併せ飲むキャラクターとして、村長・大橋修作は設定されている。スターサンズ製作『空白』(21)でも熱演を見せたベテラン俳優・古田新太の存在感がひときわ印象に残る。

『インフォーマ』の「神回」に続く因縁シーン

 古田新太扮する村長と並ぶ、本作のキーパーソンとなるのが、一ノ瀬ワタルが演じる村長の息子・透である。わがまま放題に育った透は、さんざん主人公・優をいたぶり続ける。優が美咲と仲良くしているのも面白くない。劇場版『宮本から君へ』や現在はNetflixで全10話配信中の『インフォーマ』でも見せた怪優ぶりを、一ノ瀬ワタルは本作でも遺憾なく発揮している。

 横浜流星と一ノ瀬ワタルとの対決は、『インフォーマ』の「神回」と呼ばれた第6話に続いてとなる。藤井道人ユニバースとして捉えると、横浜流星と一ノ瀬ワタルは「因縁のライバル」関係にあるようだ。

 しかし、なぜ透は、そこまでパワハラやセクハラの限りを尽くすのか? その答えは本作のクライマックスで明かされることになる。ネタバレしない程度に語るならば、村長の息子として育った透は、自分が将来背負うことになる重圧にすでに耐え切れずにいるということ。優と同じように透もまた、この霞門村から出ることができずに苦しんでいる。透は加害者でもあり、同時にこの村の犠牲者でもある。

 血は繋がっていない優と透だが、まるで自分の背中が見える「合わせ鏡」のような存在だ。映画の後半、鼻つまみ者だった透が霞門村から姿を消すことで、村のパワーバランスは大きく変わることになる。

 冒頭で触れた『ゲゲゲの鬼太郎』だが、牛鬼を倒した鬼太郎は自分自身が牛鬼へと変わりつつあることを自覚し、悶え苦しむ。正義のヒーローが悪に染まっていく過程を描いた、子ども向け番組とは思えない衝撃的な展開だった。水木しげる原作の『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる妖怪たちは、島国である日本独自の風土や社会の歪みといった言語化できない宿痾のメタファーでもあったように思う。

 本作の主人公である優も、村に根付く「因襲」に絡み取られ、妖怪へと変貌していくことになる。横浜流星の端正な顔が、歪んでいくこの展開こそが本作の最大の見どころとなっている。

 河村プロデューサーの遺作となった『ヴィレッジ』は、歴史を継承していくことには「正と負」の両面があることを伝える作品だ。映画では霞門村の負の遺産をめぐるドロドロ劇が描かれているが、映画会社「スターサンズ」を率いた河村プロデューサーは「横浜流星を、スターサンズでスターにする」と語っていた。藤井監督は河村プロデューサーの遺志を継ぎ、これからもエッジの効いた社会派ドラマを撮り続けるに違いない。そして、それらの作品では、横浜流星が意外な配役で活躍することだろう。

 将来、横浜流星のフィルモグラフィーを振り返った際、俳優としての大きな転機作として『ヴィレッジ』が挙げられることになるのではないだろうか。

(文=長野辰次)

『ヴィレッジ』
https://village-movie.jp/

企画・製作・エグゼクティブプロデューサー/河村光庸
出演/横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍人、淵上泰史、戸田昌宏、矢島健一、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太 
配給/KADOKAWA、スターサンズ PG12 
4月21日(金)より全国公開中
(c)2023「ヴィレッジ」製作委員会

最終更新:2023/04/22 10:20
12
ページ上部へ戻る

配給映画