横浜流星が“モンスター”に変身!? 藤井道人監督の社会派ミステリー『ヴィレッジ』
#横浜流星 #藤井道人
子どもの頃に見たテレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(フジテレビ系)に、とても恐ろしい妖怪が現れた。そいつは“牛鬼”という名の不気味な怪物で、何が恐ろしいかというとそいつを倒した者が次の新しい牛鬼になってしまうことだった。我らが鬼太郎は見事に牛鬼を倒してみせるも、あろうことか鬼太郎自身が牛鬼になってしまう。まさにトラウマエピソードだった。
藤井道人監督&横浜流星主演の社会派ミステリー『ヴィレッジ』(現在公開中)を観て、日本に古くから伝わる妖怪・牛鬼の不気味さを思い出した。子どもの頃のトラウマが甦るような恐怖を覚えた。
藤井監督のオリジナル脚本による『ヴィレッジ』の舞台は、美しい山々に囲まれた霞門(かもん)村。この小さな集落を威圧するかのように、山の中腹に巨大なゴミ処理施設が建てられている。村で生まれ育った青年・優(横浜流星)は、他に働く場所がないため、ゴミ処理場の作業員として黙々と働いていた。
いくら汗まみれになって働いても、稼いだ給料はギャンブル依存症に陥ったシングルマザーの君枝(西田尚美)がすぐに使ってしまう。職場は村長の息子・透(一ノ瀬ワタル)が仕切っており、透のパワハラを誰も止めることができない。この村で暮らし続けることに、優は絶望しか感じられずにいた。そんな閉塞的な村に、優の幼なじみだった美咲(黒木華)が東京から帰ってきたことから物語は動き始める。
ゴミ処理施設の広報担当となった美咲は、県内の小中学校に呼び掛けて、施設の見学ツアーを企画。そのツアーガイドに優が選ばれる。人当たりがよく、誠実な優のガイドは好評で、テレビ局の取材クルーが訪ねてくるほどだった。村長の大橋修作(古田新太)からも、霞門村の若い世代の代表として優は期待される。
美咲とは大人の関係となり、優の人生は好転していくことに。生きる屍のような生活から解放され、明るい笑顔を見せるようになる優だった。ゴミ処理場で働く後輩の龍太(奥平大兼)や美咲の弟・恵一(作間龍斗)からも、優は憧れの目で見られるようになる。
横浜流星がキラキラした笑顔を振り撒く分、ダークサイドへ堕ちていく物語後半とのギャップが著しい。
山師的嗅覚と真摯さを併せ持ったプロデューサー
地上波ドラマの常識を打ち破ったアクションサスペンス『インフォーマ』の放映を3月に終え、5月19日(金)には汚職警官を主人公にした韓国映画のリメイク作『最後まで行く』の公開も控える藤井道人監督。彼の名前を一躍広めたのは、日本アカデミー賞最優秀作品賞ほか主要賞を総なめした『新聞記者』(19)だったことは言うまでもない。
横浜流星がメインキャストを演じた『青の帰り道』(18)や閉塞的な地方都市を舞台にした『デイアンドナイト』(19)でも若者たちの「生きづらさ」を描いてきた藤井監督だったが、河村光庸プロデューサーに起用された『新聞記者』で安倍政権に果敢に斬り込み、新世代監督のトップランナーに躍り出ることになった。
本作は藤井監督を飛躍させた河村プロデューサーとの『ヤクザと家族 The Family』(21)、Netflix版『新聞記者』(21)に続くタッグ作であり、そして最後の作品となった。河村プロデューサーは本作のクランクアップを見届けた後、2022年6月11日に72歳で亡くなっている。
かつて「星の砂」ブーム、「エリマキトカゲ」ブームを巻き起こすなど、山師的な嗅覚を持っていた河村プロデューサーだが、映画づくりに関してはとても真摯だった。意外に思うかもしれないが、河村プロデューサーが映画界に入ったのは50歳近くになってからだ。
2008年に河村プロデューサーが設立した映画会社「スターサンズ」は、安藤サクラ主演作『かぞくのくに』(12)、菅田将暉&ヤン・イクチュン共演作『あゝ、荒野』(17)、奥平大兼のデビュー作『MOTHER マザー』(20)などの骨太な作品を次々と放ってきた。どれも、旧来のプロデューサーたちが及び腰になりがちな企画であり、だが作り手の熱意がひしひしと伝わってくる作品だった。
劇場版『宮本から君へ』(19)では、助成金の交付取り止め問題をめぐって文化庁所管の「日本芸術文化振興会」を相手に裁判を繰り広げている。河村プロデューサーは、誰にも忖度しない闘士である一方、憎めない人柄でもあった。猛烈な勢いで駆け抜けた映画人生だった。
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