アダルトショップを舞台にしたモンゴル映画 Z世代の青春『セールス・ガールの考現学』
#映画 #インタビュー #パンドラ映画館
異なる文化で育った2人のヒロイン
モンゴルZ世代にあたる女子大生のサロールを演じたのは、オーディションで選ばれたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガル。大学に通いながら演技の勉強を積み、本作で主演デビューを果たしている。年上のカティアとの交流をきっかけに、サロールは新しい世界に興味を持ち、自分に正直に生きるようになっていく。アダルトグッズをこっそり試してみたり、セクシーメイドのコスプレに挑戦してみたり、健康的なエロティズムを振り撒いている。
センゲドルジ「ヒロインを誰が演じるかは、本作においてとても重要でした。オーディションでは300人以上の若い女優たちに会いましたが、演技経験のなかったバヤルツェツェグは目がとても印象的だったんです。サロールは内向的だった性格が次第に変わり、明るい女の子に変わっていきます。彼女は目の演技で、サロールの変化を表現できると思ったんです」
もうひとりのヒロインとなるのが、カティア役のエンフトール・オィドブジャムツ。女性オーナー役を演じられる女優がモンゴルでは見つからず、かつてモンゴル映画で活躍したエンフトールに白羽の矢が当たった。だが、エンフトールはモンゴルを去り、ドイツへと移住していた。そのため、センゲドルジ監督は手紙をしたため、女優復帰を要請している。
演技経験のない新人女優とモンゴル映画界の伝説の大女優が初めて顔を合わせるという、本作のストーリーと重なるようなキャスティングだった。
センゲドルジ「エンフトールさんがモンゴル映画で活躍したのは、バヤルツェツェグが生まれる前のことです。エンフトールさんがどんな女優かをまったく知らずに、彼女は共演したわけです。世代も違い、異なる文化で生活してきた2人が、一緒に撮影現場で過ごすことでどう変わっていったのか。ドキュメンタリー的な面白さも、本作にはあると言えるでしょう」
モンゴルの社会主義時代に青春を過ごしたカティアは、性に関しては非常にオープンだ。自分の考えをなかなか口にできずにいるサロールには、辛辣な言葉も浴びせる。風変わりな客たちにも揉まれ、少しずつタフになっていくサロール。雇用主であるカティアに対して「過去の思い出に生きているだけ」と意見するまでになる。価値観の異なる2人の女性が本音でぶつかり合い、親交を深めていく様子が心地よい。
モンゴルで問題となっている自殺率の高さ
サロールは大学で原子力工学を学んでいる。モンゴルはウランなどの地下資源が豊富なことから、日本企業は積極的に核関連施設の建設を進めようとしていた。センゲドルジ監督いわく「その事実は知らなかった。今どきの女の子から、いちばん縁遠そうな学部として選んだだけ。他意はない」とのことだ。
しかし、近代化が進むモンゴルは、街の暮らしは便利になったものの、さまざまな社会問題が浮上していることも確か。そのひとつが自殺率の高さ。2019年の調査では、モンゴルの自殺率は17.9(10万人あたり)と日本の15.3よりも高い。サロール一家の暮らすマンションでも自殺騒ぎがあり、サロールの精神状態に影響を与える。死について考えるサロールだった。
モンゴルで多発する自殺についても、センゲドルジ監督は語ってくれた。社会の変動に加え、その人の内面が大きな問題ではないかとセンゲドルジ監督は考えている。
センゲドルジ「人間は自分自身とは別に、心の中にもうひとりの自分がいるものだと思います。自分自身ともうひとりの自分とが、きちんとコミュニケーションができていれば大丈夫なんですが、もうひとりの自分とうまくコミュニケーションできずに悩む人もいます。もうひとりの自分に負けてしまう人もいる。そんなとき、人は死にたくなってしまうのかもしれません」
少女から大人の女性への吊り橋を危なっかしく渡るサロールを、恋愛経験も豊富なカティアが人生の先輩として導いていく。本作はモンゴル発の“歳の差”シスターフッドムービーとも言えそうだ。
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